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しおりを挟む「ふふっ、ここが君の部屋か」
「何もありませんでしょう?」
「そんなことはない。花のように芳しい君の香りがするよ。僕にとっては夢のような空間だよ」
(この皇子、変態でもあったの?! 怖っ。二人っきりとか危険すぎるわ)
「すぐに荷物をまとめますわ」
「ゆっく離でいいよ。誰も入れないように結界を張ったから」
(ますます怖いわ! 話を逸らすネタはないかしら! あったわ!)
「あ、あの、でしたらお茶でも入れますわね。魅了を解く方法など、聞かせていただけます?」
「気になる?」
「当然ですわ。私が生まれたその日から、ずっと人生を害し続けてきたものですから」
「そうだよね。うん、分かった」
ローザがそそくさと入れて出したお茶を、嬉しそうに一口飲んだ皇子は、顔に貼り付けていた嘘くさい笑みを、すっと消した。
「これから話すことは、君にとっては、相当な衝撃になるだろう。何もかも信じられない、許せない、そう感じるかもしれない。でも、一つだけ、僕と約束してほしい。何を聞いて、どう思っても、自分を責めることだけは絶対にしないでくれ」
予想もしなかった皇子の言葉に、ローザはたじろいだ。
(急に真面目になって、何を言い出すのよ。私が私を傷つける? そんなこと、するわけないじゃない)
皇子は、真顔で言葉を続けた。
「いいかい? どんなことになっても、僕が君を守る。僕の言葉など信じられないと思っているのは知っているよ。でもこれだけは分かってほしい。君が生まれた瞬間から、僕は君を知っていた。そして、片時も目を離さずに守ってきた。君に送られた刺客はすべて、僕が片付けている。食事に毒を盛られたときも、着替えに毒針を仕込まれたときもね。思い当たる節は、あるだろう?」
(あるわ……山ほど)
離宮の天井裏や庭先で気絶している不審者を見つけたことは、数知れない。
食事を運んできた侍女や、洗濯物を届けに来た者たちが、突然の体調不良で離宮から下り、そのまま二度と来なくなるということも、月に二回ほどはあった。
(命の危険なんて感じることがなかったし、全部、王子かルーシーの、しょーもない嫌がらせだと思ってた。それにしては変だとは思ってたけど、でも、まさか……)
皇子は静かに話し続けた。
「僕は君を守るためだけに、この国に介入しようとしている。皇位など、興味はないんだ。僕の母親や側近たちは、そうは思っていないだろうけどね。彼らだって、僕にとってはどうでもいい存在だ。僕が本当に必要としているのは、君だけだから」
(分からない。なぜ私なんかを必要とするのよ…って、どうせ嘘なんでしょうけど!)
「もう一度言うよ。僕が必ず守る。だから、何を知っても、絶対に自分を責めないで」
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