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ギルド番長

114話 『灼熱さんの悩みと、あーしの考え』

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 次の日メーシャは『はぐれオークの討伐』を朝の内にこなし、後は『“ドラゴン”の捕獲または討伐』をクリアできれば昇格クエストに挑めるだろうという状態になっていた。が……。
「えっ? ちょっと待って、昇格クエスト無しでいいの?」
「はい。そもそも、昇格クエストは『ハイオークの討伐』でしたからね。メーシャさんとヒデヨシさんどちらも、ひとりでハイオークの討伐をなさっていたとデイビッドさんから聞いていますので、わざわざ受けて頂く必要はありません」
 メーシャの質問に受付のお姉さんが笑顔で答えた。
 つまり、昇格クエストは免除ということだ。
「なんだ、ハイオークか。良かった~。なんか昇格クエスト用に特別なモンスターでもいるのかと思ったし」
 どうやらメーシャは、ファンタジーっぽいモンスターと戦いそびれるのを懸念していたようだ。
『へへっ。戦闘狂かよ』
 デウスは楽しそうに言った。
「…………。とりま、あと1回はクエストをしなきゃだし、その『ドラゴンの捕獲または討伐』受けます」
 メーシャはデウスに『うっさい!』とツッコミつつ、表情を崩さずにクエストを申し込んだ。
「分かりました。では、このドラゴン。クロウリングドラゴンは捕獲する場合も傷つけても構いませんので、やりやすい方法を取ってください。
 それと支給品の、捕縛用結界、睡眠弾、携帯型転送魔機をお渡しします。
 出没する場所は森の奥地です。分からない事があれば連絡をください。では、ご武運を」
 お姉さんはパパっとホログラムキーボードを操作し、メーシャたちに支給品を渡した。
「あんがと。じゃ、いってきまーす」
「いってきます」
 メーシャたちはそれを受け取ると、元気よく出発したのだった。
「いってらっしゃいませ」


「しかし、今日中に星3に上がれそうで良かったですね」
 森に向かう道中でヒデヨシが言った。
「なんで?」
「だって、そろそろ帰らないと、ドラゴンラードロ討伐作戦が始まっちゃいますし、カーミラさんの修業を手伝うんでしたよね?」
「ああ、もうそんなに時間経っちゃったんだ! 2週間って、あっという間だね~……」
『なんだかんだ、メーシャもヒデヨシもこの2週間よく頑張ったな』
「デウスさん、ありがとうございます」
「あんがとね、デウス。そういやさ、この前のラードロが『ノッパ』って言ってたけど、結局なんだったの?」
 オーク討伐の途中で出てきたサブラーキャラードロが、
 戦士のタタラレに『貴様ノ実力次第デ、ゴッパ様ヤ、ニモ会セテヤロウ……』と言っていたが、その“ノッパ”という言葉にデウスが反応していたのだ。
『ああ、それな。他にも色々話したいこととか気になったことがあるから、ラードロ戦前の落ち着いた時にでもいいか?』
「おけ。前日にでも時間あけとく」
 別に話さないつもりでもないようなので、メーシャは快く受け入れた。
 きっと戦いに大きく係わることなのだろう。そういう事なら、直前に言われた方が忘れずに済む。
「……皆やる気になってるところ悪いが、あっしは、お嬢について行かないことにするぜぃ」
 灼熱さんがメーシャの前に出て、神妙な面持ちで口を開いた。
「なんで?」
「あっしは、未だに未熟で炎を上手く扱えねえからな、ついて行ったところで、せいぜい重りだ。それに、もし暴走してお嬢や、ヒデヨシの兄貴、他の皆に怪我させちまったら、元も子もねぇ……」
 灼熱さんはきっとたくさん思い悩んだのだろう。拳はギュッと握り、言葉のひとつひとつに力が籠っていた。
「兄ちゃん……」
 その気持ちを察して、氷河が悲しい顔になる。
「……強制はしないけどさ、ついてくるものだと思ってた。だって、なんだかんだこの2週間一緒にいたんだもん」
「だが、それとこれは別。そうじゃねぇかぃ?」
「そうかな? あーしや氷河ちゃんが居たら暴走止められるし、やっぱり灼熱さんの本気の火力と攻撃範囲は頼りになるじゃん」
 ワイバーン戦では暴走はしたものの、灼熱さんの攻撃のお陰で乗り越えることができたのだ。
「でも、誰かに手伝ってもらわにゃあ、何もできねぇ。ひとりだと足手まといになる。そのことには変わりないじゃねぇか。お嬢も、そう思わないのかぃ?」
 灼熱さんは尚も食い下がる。ひとりで戦えないのがコンプレックスになっているのだろう。
「はぁ……呆れた。あーし、灼熱さんのことそんな風に思ってないし。つか、卑屈すぎ」
 メーシャの声に少し怒りが混じる。
「卑屈って……事実は事実じゃねぇか」
「いや、事実じゃない!」
 とうとうメーシャは怒ってしまった。
「なっ……」
 急な大声に怯み、灼熱さんは言葉を失う。
「あんね、灼熱さんは、自分が思ってるより才能あんの! 知ってんだからね、毎日魔法の努力してることも、毎日どんどん上手くなってることも!」
 炎魔法で頭が熱くなるから暴走する。だから、風魔法で冷やしつつ炎魔法を使えば暴走しないだろう。
 そういって灼熱さんは風魔法を毎日練習しているのだ。恥ずかしいのか人前では一切努力している所を見せないが。
「でも、まだ戦闘に使える程上手くは────」
「ある! 既にね! 世界ってめちゃ厳しいとこもあるから『自分なんか』って、思う事あると思う。でもね、そうやってやってる事を捨てちゃったら、応援してる人はどうなんの? 
 本当に辞めたいならそうすればいいけど、灼熱さん、戦いたいんでしょ? じゃあ、戦えばいいじゃん!
 何? 『ひとりで戦う』って。あーしもひとりで戦うのキツイ時あんのにさ。
 自分が未熟で足手まといって言ってるくせに、うぬぼれ過ぎ!
 あーしは結構ひとりで戦う事多いけど、流石に数が多すぎたり戦いにくくて実力が出ない時もあるよ。そう言う時は頼ってたじゃん。
 だから、自分だけの力で足りないなら、別に気にせず頼ればイイんだよ、困った時はさ。
 自分が一番輝ける方法があるなら、いくらでも手を貸すじゃん。
 だって、あーしたち仲間でしょ?」
「……氷河さんから聞きましたよ、灼熱さん。ひとりで夜な夜な、僕たちが倒したのと同じモンスターに挑んでるんですよね? それで、ロックタートルも、バッドバットも、暴れトゲイモリも、オークも、暴走せずに倒したんだとか」
「才能なんて上を見たらキリが無いけどさ、思ったより意外と何とかなるもんだよ」
「お、お嬢……ヒデヨシの兄貴……」
「だからさ、灼熱さん。ラードロ討伐作戦の朝までよく考えてね。あーしそれまで待ってるからさ。悩みがあるならギリギリまで相談乗るし」
 そう言うとメーシャは灼熱さんの横を通り抜け、早足に森の奥まで行ってしまった。
「…………」
「兄ちゃん、ウチは、ウチは兄ちゃんと一緒の所で戦うからね」
 氷河もそう言ってメーシャを追いかけた。
「あっしは……あっしは……」
 ひとりその場に残されてしまった灼熱さんは、どうすれば良いかわからず、その場で立ち尽くしてしまうのであった。
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