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ギルド番長
74話 『聞き捨てならないひとこと。いや、ふたこと』
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洞窟を出て少しした所にある木陰にて。
メーシャは目を覚ました氷河に、灼熱さんとの出会いと、メーシャが“ガツン”した後、灼熱さんが改心して舎弟になったこと、それと今は暴走グセはあるものの手助けをしてくれていることを伝えた。
「これはこれは! ああ、ウチの早とちりでしたか。申し訳ありません!」
氷河がメーシャたちに勢いよく頭を下げる。
「はやとちりですか?」
ヒデヨシが氷河に訊いた。
「はい。ウチの兄は昔からトラブルだらけで皆を困らせていました。ですがある日、ひとり立ちすると言って実家を出て行ったのです。そしてウチらはトラブルの元が出ていくと一安心し、外の世界を知って成長してくれるであろうと胸を撫でおろしたのも束の間……とある噂を耳にしました」
「噂? なんの?」
「どこかの洞窟を根城にして、子分と一緒に町を襲っていると。だから、ウチはそれを止める為に、手当たり次第洞窟を当たって、襲ってくるモンスターを倒しつつ情報を集めていたんですよ」
「へ~。なかなか剛毅じゃんね」
メーシャが感心する。
「ようやくこの辺りの洞窟に潜んでいる事が分かったまでは良いんですが、ここ数日で情報がぱったりと無くなってしまって……」
「まあ、あーしが倒しちゃったからね」
「ウチの兄を更生してくださった恩ジンなのに、兄妹揃ってご迷惑など……重ね重ねお詫び申し上げます!」
氷河は改めて深々と頭を下げた。
「ま、驚いちゃったけど、こうしてみんな無事だしさ。そんな謝らなくていいよ」
「ああ、なんと懐の大きなお姉さんだこと……! ありがとうございます!」
氷河は感動したのか『よよよ……』と膝を折って目じりの涙を拭った。
「でさ、氷河ちゃんはこれからどうすんの?」
「え? ああ、どうしましょ?」
どうやら、氷河は『悪さをしている灼熱さんを連れて帰る』という事以外考えていなかったようだ。
「灼熱さんはあーしの冒険に連れて行くつもりだけどさ」
灼熱さんが特に悪さをしていないなら、別に連れて帰る必要もない。一応これにて使命は完了してしまっていた。
「そうだぜぃ。あっしは、お嬢のお役に立たねぇと、アレッサンドリーテの農家さんに合わせる顔がねぇからな!」
灼熱さんは農業のお手伝いをするつもりが、文字通り燃えてしまって、その流れで作物を『栄養価のある灰』に変えてしまっていた。
なので、せめて戦闘で役に立たなければ最悪、戦闘すらできない役立たずのレッテルを貼られかねない。
「で、では! ウチもその冒険に連れて行ってはくれませんか!」
氷河は決心した顔でメーシャに訴える。
「いいよ!」
メーシャはふたつ返事で了承した。
「え? 頼んだ側のウチが言うのもはばかられますが、ちと軽くないでしょうか?」
「なんで? 灼熱さんの妹ってことで全くの他人ってわけじゃないし、おっちょこちょいみたいだけど、しっかり者だってのは分かったしさ。別に拒否る理由ないじゃん?」
「それに、あの凄い氷魔法からして、実力としても足手まといにはならないんじゃないですか?」
ヒデヨシも氷河が仲間になることに賛成のようだ。
「あっしは、まあ、うん……。お嬢が言うなら……」
灼熱さんとしては『会えたのは嬉しいが、毎日顔を合わせるのはちょっと……』といったところか。
『俺様は賛成だな。このままげっ歯類の仲間を増やして、戦隊にしようぜ! あ、でも色はちゃんと分けてくれよな』
理由はともかく、デウスも賛成らしい。
「えっ!? 今、頭の中に直接……? ど、どどどどどういうことでしょうか!?」
デウスの声を聴いた氷河は狼狽えてしまう。
事情を知らない氷河にとっては、頭に直接響くデウスの声は怪奇現象でしかないのだ。
「ああ、デウスの声ね。これはね────」
メーシャは今の声はデウス、つまりメーシャを勇者に選んだ神様で、今は事情があって『天の声』だけになってるけど、基本的に害はない。という事を教えた。
「勇者様!? それに神様!? それは真でしょうか!」
氷河が驚くのも無理はない。いや、すんなり受け入れていたメーシャたちがぶっ飛んでいるだけなのだ。
「真も真。お嬢様は、国王にも認められた“国公認”の勇者なんですよ! その辺の野良勇者とは、格が違うんですよ。格が!」
ヒデヨシは興奮気味に自慢した。メーシャの事を。
『おう! 俺様もその辺の野良神とは格が違うんだぜ!』
「野良神?」
メーシャがデウスの言葉に首を傾げる。が、皆は聞いていないのか気にしていないのか、特に反応はなかった。
「おやまあ……。通りで兄ちゃんが改心させられるわけだね……」
氷河は前足を口に当てる。
「かもしれねぇな!」
灼熱さんは『してやられた!』って感じの顔で返事をした。
「そういや氷河ちゃんはあの洞窟にいたけどさ、ピリキラ鉱石のある場所は知ってる?」
「え? ああ、ピリキラ鉱石ならわかります」
「おけ。じゃあ、案内お願いしていい? さっき迷子になってたみたいでさ。あ、あとね、敬語とか堅苦しいからやんなくてもいいよ」
メーシャは『ししし』と笑いながら、氷河に手を伸ばす。
「でも、勇者様相手に砕けた口調で話すなんて……」
「勇者だからでしょ! 勇者ってモンスターを倒すだけじゃなくて、困ってる人を放っておかないとか、人に寄り添うとか? するもんでしょ。ね、デウス!」
『ああ、そうだ』
「……では、このハムオブザスター、氷河。せいいっぱい、メーシャさんのお手伝いするよ!」
氷河は笑顔でメーシャの手(指)を取って握手(指)をした。
「よろしくね、氷河ちゃん!」
「よろしくです、氷河さん」
「改めてよろしくだぜぇ、氷河」
『歓迎するぜ。ゲッシブルー! あ、ホワイトの方が良かったか?』
「ふふふ。では、みなさん。光の慈悲があらんことを!」
氷河が胸に拳を当てる。
「なんだっけ? えっと、そう! お祈りみたいなものだったね。神のじ────」
『ちょっと待ってくれ! ああ……えっとな。すまんが、それは違うんだ。俺様はその神じゃねえ』
メーシャが氷河に応えようとしたその瞬間、デウスが慌ててそれを止めた。
「えっ、ちょっと待って。デウス、そのってなに……?」
「メーシャさん、デウス様、どういうことでしょうか……?」
先程も『野良神』と言っていた。そして今回の言葉である。
デウスがその神でないなら、どの神なのか?
そもそもデウスは、本当に神様なのだろうか……?
メーシャは目を覚ました氷河に、灼熱さんとの出会いと、メーシャが“ガツン”した後、灼熱さんが改心して舎弟になったこと、それと今は暴走グセはあるものの手助けをしてくれていることを伝えた。
「これはこれは! ああ、ウチの早とちりでしたか。申し訳ありません!」
氷河がメーシャたちに勢いよく頭を下げる。
「はやとちりですか?」
ヒデヨシが氷河に訊いた。
「はい。ウチの兄は昔からトラブルだらけで皆を困らせていました。ですがある日、ひとり立ちすると言って実家を出て行ったのです。そしてウチらはトラブルの元が出ていくと一安心し、外の世界を知って成長してくれるであろうと胸を撫でおろしたのも束の間……とある噂を耳にしました」
「噂? なんの?」
「どこかの洞窟を根城にして、子分と一緒に町を襲っていると。だから、ウチはそれを止める為に、手当たり次第洞窟を当たって、襲ってくるモンスターを倒しつつ情報を集めていたんですよ」
「へ~。なかなか剛毅じゃんね」
メーシャが感心する。
「ようやくこの辺りの洞窟に潜んでいる事が分かったまでは良いんですが、ここ数日で情報がぱったりと無くなってしまって……」
「まあ、あーしが倒しちゃったからね」
「ウチの兄を更生してくださった恩ジンなのに、兄妹揃ってご迷惑など……重ね重ねお詫び申し上げます!」
氷河は改めて深々と頭を下げた。
「ま、驚いちゃったけど、こうしてみんな無事だしさ。そんな謝らなくていいよ」
「ああ、なんと懐の大きなお姉さんだこと……! ありがとうございます!」
氷河は感動したのか『よよよ……』と膝を折って目じりの涙を拭った。
「でさ、氷河ちゃんはこれからどうすんの?」
「え? ああ、どうしましょ?」
どうやら、氷河は『悪さをしている灼熱さんを連れて帰る』という事以外考えていなかったようだ。
「灼熱さんはあーしの冒険に連れて行くつもりだけどさ」
灼熱さんが特に悪さをしていないなら、別に連れて帰る必要もない。一応これにて使命は完了してしまっていた。
「そうだぜぃ。あっしは、お嬢のお役に立たねぇと、アレッサンドリーテの農家さんに合わせる顔がねぇからな!」
灼熱さんは農業のお手伝いをするつもりが、文字通り燃えてしまって、その流れで作物を『栄養価のある灰』に変えてしまっていた。
なので、せめて戦闘で役に立たなければ最悪、戦闘すらできない役立たずのレッテルを貼られかねない。
「で、では! ウチもその冒険に連れて行ってはくれませんか!」
氷河は決心した顔でメーシャに訴える。
「いいよ!」
メーシャはふたつ返事で了承した。
「え? 頼んだ側のウチが言うのもはばかられますが、ちと軽くないでしょうか?」
「なんで? 灼熱さんの妹ってことで全くの他人ってわけじゃないし、おっちょこちょいみたいだけど、しっかり者だってのは分かったしさ。別に拒否る理由ないじゃん?」
「それに、あの凄い氷魔法からして、実力としても足手まといにはならないんじゃないですか?」
ヒデヨシも氷河が仲間になることに賛成のようだ。
「あっしは、まあ、うん……。お嬢が言うなら……」
灼熱さんとしては『会えたのは嬉しいが、毎日顔を合わせるのはちょっと……』といったところか。
『俺様は賛成だな。このままげっ歯類の仲間を増やして、戦隊にしようぜ! あ、でも色はちゃんと分けてくれよな』
理由はともかく、デウスも賛成らしい。
「えっ!? 今、頭の中に直接……? ど、どどどどどういうことでしょうか!?」
デウスの声を聴いた氷河は狼狽えてしまう。
事情を知らない氷河にとっては、頭に直接響くデウスの声は怪奇現象でしかないのだ。
「ああ、デウスの声ね。これはね────」
メーシャは今の声はデウス、つまりメーシャを勇者に選んだ神様で、今は事情があって『天の声』だけになってるけど、基本的に害はない。という事を教えた。
「勇者様!? それに神様!? それは真でしょうか!」
氷河が驚くのも無理はない。いや、すんなり受け入れていたメーシャたちがぶっ飛んでいるだけなのだ。
「真も真。お嬢様は、国王にも認められた“国公認”の勇者なんですよ! その辺の野良勇者とは、格が違うんですよ。格が!」
ヒデヨシは興奮気味に自慢した。メーシャの事を。
『おう! 俺様もその辺の野良神とは格が違うんだぜ!』
「野良神?」
メーシャがデウスの言葉に首を傾げる。が、皆は聞いていないのか気にしていないのか、特に反応はなかった。
「おやまあ……。通りで兄ちゃんが改心させられるわけだね……」
氷河は前足を口に当てる。
「かもしれねぇな!」
灼熱さんは『してやられた!』って感じの顔で返事をした。
「そういや氷河ちゃんはあの洞窟にいたけどさ、ピリキラ鉱石のある場所は知ってる?」
「え? ああ、ピリキラ鉱石ならわかります」
「おけ。じゃあ、案内お願いしていい? さっき迷子になってたみたいでさ。あ、あとね、敬語とか堅苦しいからやんなくてもいいよ」
メーシャは『ししし』と笑いながら、氷河に手を伸ばす。
「でも、勇者様相手に砕けた口調で話すなんて……」
「勇者だからでしょ! 勇者ってモンスターを倒すだけじゃなくて、困ってる人を放っておかないとか、人に寄り添うとか? するもんでしょ。ね、デウス!」
『ああ、そうだ』
「……では、このハムオブザスター、氷河。せいいっぱい、メーシャさんのお手伝いするよ!」
氷河は笑顔でメーシャの手(指)を取って握手(指)をした。
「よろしくね、氷河ちゃん!」
「よろしくです、氷河さん」
「改めてよろしくだぜぇ、氷河」
『歓迎するぜ。ゲッシブルー! あ、ホワイトの方が良かったか?』
「ふふふ。では、みなさん。光の慈悲があらんことを!」
氷河が胸に拳を当てる。
「なんだっけ? えっと、そう! お祈りみたいなものだったね。神のじ────」
『ちょっと待ってくれ! ああ……えっとな。すまんが、それは違うんだ。俺様はその神じゃねえ』
メーシャが氷河に応えようとしたその瞬間、デウスが慌ててそれを止めた。
「えっ、ちょっと待って。デウス、そのってなに……?」
「メーシャさん、デウス様、どういうことでしょうか……?」
先程も『野良神』と言っていた。そして今回の言葉である。
デウスがその神でないなら、どの神なのか?
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