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ギルド番長
72話 『バッドバットはバッドなバット』
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洞窟の行き止まりにある広めの空間にメーシャが駆け付けると、灼熱さんとコウモリ型モンスターが睨みあっていた。
コウモリ型モンスターは、身体が灰色で、大きさは40㎝くらいで、ずんぐりむっくりとしているため重たいのか、せわしなく翼をはためかせている。
「灼熱さん! 大丈夫っ……そうだね。ちょっと心配しちゃった」
「なんだか弱そうなモンスターです」
『“バッドバット”っていうモンスターで、同族以外を見つけたら手当たり次第攻撃する面倒なモンスターだ。攻撃方法は噛みつきと引っ掻きだけだ。ちなみに、ゴブリン1体よりは強いみたいだな。ま、だからってなんだ? って話だろうが』
デウスが補足を入れる。
「そんで、灼熱さんはなんで呼んだの? その程度なら、素でも倒せるんじゃない?」
「いや、倒せてたら呼ばねぇ。むしろ、あっしはモンスターの1体でも倒して、自慢するつもりだったのによぉ……」
メーシャが居るとあっという間に倒してしまうから、灼熱さんはみんながお話に夢中になっている間に先へ進んで、ひとりでモンスターを狩ろうとしたのだった。
「そうだ、お嬢様」
ヒデヨシが何かを思い出したようだ。
「なぁに?」
「洞窟でコウモリって言ったら、大量にバサバサと飛んできて『うわ~!』ってなるのがお約束ですけど、1体だけなのは少し残念ですよね」
「ああ、確かにね。でもさ、この中で大量に出て来られたら、流石のあーしも困るかも」
「なんでなんですか? 『ゲイボルグ・序!』ってしないんですか?」
ヒデヨシはなぜかどや顔で言った。
「いや、ダメダメ! こんなとこでそんなん使ったら、壁とか天井が崩れて生き埋めになっちゃうでしょ! それに、あーしの得意技の回し蹴りはイヤだし、衝撃波もダメだし、水も威力出したら一緒だし、火も空気が無くなっちゃうからダメでしょ? ってなると、あーしって狭いとこで戦うの苦手かも……」
ここに来て、メーシャは自分の苦手分野に気付く。
『メーシャは結構おおざっぱだもんな~』
「デウスも、人に言えるほど几帳面じゃないでしょ! 憶えてんだからね、この世界に来た時、重力とか言葉とか、調整し忘れてたの」
『い、痛いところを突きやがるぜ……』
ちなみに灼熱さんはと言うと、マッチの火より小さい炎を手から出し、懸命にバッドバットと戦っている。
この程度の炎なら、空気が無くなる心配はないだろう。そのせいで決め手に欠ける泥沼試合になっているわけだが……。
「それにしても、ずっと見ているのも疲れますね。天井を見上げたら大量のコウモリが! ってことは……」
ヒデヨシが天井を見上げて目を疑う。
「あるみたいですね……」
「わーお……」
メーシャも天井を見上げて目を疑った。
そう、その先には天井にびっしりと、バッドバットの群れが所狭しと並んでいたのだ。
『フラグ、立てまくってたもんな。ちなみにだが、ここはバッドバットの巣みたいだぜ』
デウスは楽しそうに教えてくれた。
「刺激しない内に灼熱さん拾って、引き返そっか。多分、別の道だよね? 鉱石があるの」
「そうですね。鉱石があるのは、第2階層に続く階段近くらしいですし……」
この洞窟は地下に続いており、下に行くにつれてモンスターも強くなるのだ。
『刺激しない内にって、巣の中で仲間がバトってんだから、さすがにみんな気付いてるだろ。へへっ』
「みんな実は寝てるとかは……?」
メーシャがダメもとでデウスに訊くが……。
『よく見ろ。バッチリ目が開いてるぜ!』
「最悪だ……。コウモリと千人組手とか、1体につき3秒でも、どんだけ時間かかんの……?」
『3000秒だな。たったの50分ほどだ。がんばれ!』
「いや、がんばってられるか! ほら、灼熱さん、遊んでないでさっさと退散するよ!」
「いや、今良い所なんでぃ!」
天井の群れなんて知らない灼熱さんには、メーシャの必死の訴えは伝わらなかった。
────バサ、バサ……。
声に反応したのか、天井で何体かのバッドバットが動く。
「やば……。もうこうしちゃいられない!」
メーシャは慌てて灼熱さんの所に駆け寄り、
「な、なにすんでぃ!?」
「天井見ろし!」
灼熱さんを回収して、入り口に向けて走り出した。
「ひ、ひえぇ~……!?」
灼熱さんがようやく状況を理解した。その時。
────バサバサバサバサバサバサバサ!!
いっせいにバッドバットが飛び上がり、メーシャたちに向けて迫って来た。
「た、退散だし~!!」
メーシャは必死に走るが、洞窟は入り組んでいてなかなかスピードを出せない。
それにバッドバットにとっては飛び慣れた場所なので、まったく距離を離せないでいた。
「なんで、こんな追ってくんの?」
『そりゃ、自分の巣の中で暴れられたら、誰だって怒るだろうよ』
「確かに、確かにそうだけど!」
「お嬢様、もう覚悟して戦いましょう!」
「そうでぃ、お嬢! あっしはまだまだ戦えるぜぃ!」
「イヤ! だって、コウモリって、なんかいっぱいバイキンついてんでしょ!? ぜったいイヤ!」
「さっき『回し蹴りはイヤ』って言ってたの、そういうことだったんですね!」
「そうなの! ひゃ~、誰か助けて~!」
メーシャが逃げ惑いながら、誰ともない誰かに助けを求めた。
その刹那────
「────ひぇ?」
メーシャが足を止めて、表情をすっかり変えた洞窟内を見回す。
「何が起こって……?」
「これは……!」
メーシャたちは、その光景に目を奪われた。
「……なんで、なんで?」
何故なら、メーシャたち以外のすべてが氷漬けにされ、バッドバット含めて洞窟内全てが白銀の世界へと変貌していたからである。
コウモリ型モンスターは、身体が灰色で、大きさは40㎝くらいで、ずんぐりむっくりとしているため重たいのか、せわしなく翼をはためかせている。
「灼熱さん! 大丈夫っ……そうだね。ちょっと心配しちゃった」
「なんだか弱そうなモンスターです」
『“バッドバット”っていうモンスターで、同族以外を見つけたら手当たり次第攻撃する面倒なモンスターだ。攻撃方法は噛みつきと引っ掻きだけだ。ちなみに、ゴブリン1体よりは強いみたいだな。ま、だからってなんだ? って話だろうが』
デウスが補足を入れる。
「そんで、灼熱さんはなんで呼んだの? その程度なら、素でも倒せるんじゃない?」
「いや、倒せてたら呼ばねぇ。むしろ、あっしはモンスターの1体でも倒して、自慢するつもりだったのによぉ……」
メーシャが居るとあっという間に倒してしまうから、灼熱さんはみんながお話に夢中になっている間に先へ進んで、ひとりでモンスターを狩ろうとしたのだった。
「そうだ、お嬢様」
ヒデヨシが何かを思い出したようだ。
「なぁに?」
「洞窟でコウモリって言ったら、大量にバサバサと飛んできて『うわ~!』ってなるのがお約束ですけど、1体だけなのは少し残念ですよね」
「ああ、確かにね。でもさ、この中で大量に出て来られたら、流石のあーしも困るかも」
「なんでなんですか? 『ゲイボルグ・序!』ってしないんですか?」
ヒデヨシはなぜかどや顔で言った。
「いや、ダメダメ! こんなとこでそんなん使ったら、壁とか天井が崩れて生き埋めになっちゃうでしょ! それに、あーしの得意技の回し蹴りはイヤだし、衝撃波もダメだし、水も威力出したら一緒だし、火も空気が無くなっちゃうからダメでしょ? ってなると、あーしって狭いとこで戦うの苦手かも……」
ここに来て、メーシャは自分の苦手分野に気付く。
『メーシャは結構おおざっぱだもんな~』
「デウスも、人に言えるほど几帳面じゃないでしょ! 憶えてんだからね、この世界に来た時、重力とか言葉とか、調整し忘れてたの」
『い、痛いところを突きやがるぜ……』
ちなみに灼熱さんはと言うと、マッチの火より小さい炎を手から出し、懸命にバッドバットと戦っている。
この程度の炎なら、空気が無くなる心配はないだろう。そのせいで決め手に欠ける泥沼試合になっているわけだが……。
「それにしても、ずっと見ているのも疲れますね。天井を見上げたら大量のコウモリが! ってことは……」
ヒデヨシが天井を見上げて目を疑う。
「あるみたいですね……」
「わーお……」
メーシャも天井を見上げて目を疑った。
そう、その先には天井にびっしりと、バッドバットの群れが所狭しと並んでいたのだ。
『フラグ、立てまくってたもんな。ちなみにだが、ここはバッドバットの巣みたいだぜ』
デウスは楽しそうに教えてくれた。
「刺激しない内に灼熱さん拾って、引き返そっか。多分、別の道だよね? 鉱石があるの」
「そうですね。鉱石があるのは、第2階層に続く階段近くらしいですし……」
この洞窟は地下に続いており、下に行くにつれてモンスターも強くなるのだ。
『刺激しない内にって、巣の中で仲間がバトってんだから、さすがにみんな気付いてるだろ。へへっ』
「みんな実は寝てるとかは……?」
メーシャがダメもとでデウスに訊くが……。
『よく見ろ。バッチリ目が開いてるぜ!』
「最悪だ……。コウモリと千人組手とか、1体につき3秒でも、どんだけ時間かかんの……?」
『3000秒だな。たったの50分ほどだ。がんばれ!』
「いや、がんばってられるか! ほら、灼熱さん、遊んでないでさっさと退散するよ!」
「いや、今良い所なんでぃ!」
天井の群れなんて知らない灼熱さんには、メーシャの必死の訴えは伝わらなかった。
────バサ、バサ……。
声に反応したのか、天井で何体かのバッドバットが動く。
「やば……。もうこうしちゃいられない!」
メーシャは慌てて灼熱さんの所に駆け寄り、
「な、なにすんでぃ!?」
「天井見ろし!」
灼熱さんを回収して、入り口に向けて走り出した。
「ひ、ひえぇ~……!?」
灼熱さんがようやく状況を理解した。その時。
────バサバサバサバサバサバサバサ!!
いっせいにバッドバットが飛び上がり、メーシャたちに向けて迫って来た。
「た、退散だし~!!」
メーシャは必死に走るが、洞窟は入り組んでいてなかなかスピードを出せない。
それにバッドバットにとっては飛び慣れた場所なので、まったく距離を離せないでいた。
「なんで、こんな追ってくんの?」
『そりゃ、自分の巣の中で暴れられたら、誰だって怒るだろうよ』
「確かに、確かにそうだけど!」
「お嬢様、もう覚悟して戦いましょう!」
「そうでぃ、お嬢! あっしはまだまだ戦えるぜぃ!」
「イヤ! だって、コウモリって、なんかいっぱいバイキンついてんでしょ!? ぜったいイヤ!」
「さっき『回し蹴りはイヤ』って言ってたの、そういうことだったんですね!」
「そうなの! ひゃ~、誰か助けて~!」
メーシャが逃げ惑いながら、誰ともない誰かに助けを求めた。
その刹那────
「────ひぇ?」
メーシャが足を止めて、表情をすっかり変えた洞窟内を見回す。
「何が起こって……?」
「これは……!」
メーシャたちは、その光景に目を奪われた。
「……なんで、なんで?」
何故なら、メーシャたち以外のすべてが氷漬けにされ、バッドバット含めて洞窟内全てが白銀の世界へと変貌していたからである。
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