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メーシャ印のカリふわタコ焼き

53話 『あーしとガチ目な下処理されるタコ』

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 店主が『タコを使うって言っても、どう扱ったらいいかわからないしなあ……』と言ったので、メーシャはタコの下処理方法をレクチャーすることにしたのだった。
『いつの間に、いや、それよりなんでネットが繋がるようになってんだよ!』
 というデウスのツッコミは虚しくもスルーされた。誰もなんでか分からないので答えようもないが。
 そしてヒデヨシは『調理場は危ないから~』とメーシャに言われて、灼熱さんの所に移動している。
「ん~っと、ああ、あったあった。これだ」
 メーシャが下処理についてのページを見つけたようだ。
 ヒデヨシを移動させた理由は他にも一応あるが、みんな気持ちよく接するためにはこうする方が良いというメーシャなりの配慮だ。
「えっとね、ま~ず~、この目と目の間。眉間のちょい下のとこを刺すと締められるみたいだね。いくよ?」
 メーシャはスマホを置いて、活きの良いタコの首を掴んでまな板に乗せる。
「……はい。お願いします」
 店主は『悪魔の魚』と呼ばれるタコを使うのを嫌がっていた。
 しかし、『今は亡き友人の店を潰すことになるくらいなら、その悪魔に魂を売ってでも試してみるのもありなのかもしれない』と店主は思い直して、レクチャーを受ける事にしたのだった。
 ちなみに、メーシャが勇者だという事は信じていない。
 なんたってメーシャは、“悪魔の魚を持ってきた怪しい輩”。だから、ならまだしも、さすがにだとは思えるはずがないのだ。
「タコさん、おいしくいただくかんね。いただきます……」
 メーシャはそう言って、包丁でタコの眉間の下を刺した。
「あ、色が変わったね!」
「うん。これで、とりま締まったみたい。そんで、次にこの頭……。そう言えば、さっき知ったんだけど、ここってお腹らしいよ。知ってた?」
 メーシャがタコの上の丸い部分を指差して、店主に訊いてみた。
「い、いやぁ……。そもそも頭とかお腹とか気にした事無かったし、考えることもしなかったからな~……」
 店主は苦笑いを浮かべる。
 確かに『邪神の使い』なんて呼ばれるタコを、日ごろから考える者がいるとすれば、それはもうこんな風に平凡な日常を送っていないだろう。
「そっか、残念。あーし的にはめちゃ驚きだったんだけど……。じゃ、次ね。この、あた……お腹のとこに指を入れて、筋を切ってひっくり返すと~、内臓が出てくんのね」
 メーシャは内臓が出てきたのを確認するとそれを店主に見せた。
「ああ、やっぱり悪魔の魚なんだな……」
 店主は恐怖しているような、何かを諦めたような声で言った。
「え、なんで?」
「だってほら、黒い血が流れて……」
 店主は神妙な面持ちで指を差す。
「ん? ……あはっ。これ、これね? 違う違う、これは~、スミ! タコスミなの。血じゃないよ~。あははっ。確かにね、中から液体出てきたら、血って思うかもしんないね! ふふっ、でも、血、血って……。あははっ」
 メーシャは笑いのに入ったらしく、なかなか笑いが止まらない。
「……そんなに笑わなくても」
「ふふふっ。ごめんなさい! でも、タコスミを血って勘違いする人初めてだったからさ、ごめんね?」
 暫く笑ってようやく収まって来たメーシャは、なんとか店主に謝った。
「……まあ、いいけど。それにしても、そのスミは絶対に出てくるものなのかい?」
「いや、これは、あーしが失敗しただけ。上手にできたらスミは出てこないよ」
「そうなのか……」
「うん。出ちゃったスミは、酷いようだと水で流して、ちょっとくらいなら続行しちゃう。今回は見やすい様にスミ、とっちゃおっか?」
「ああ、お願いします」
「水でやんの、めんどっちーな……。いいや、使っちゃお。────メーシャミラクル!」
 ────シャララ~ン。
 メーシャが手をかざすと、メルヘンな音と共に淡い光が現れて、タコスミをきれいさっぱり取り払った。
 余談だが、この効果音は元々なかったが、メーシャ曰く『無音だと可愛くない』ということで、最近つけたものだ。
「あ! 無くなった! 君、凄いね~! 怪しいけど」
 店主はメーシャの能力に感心した。
「ひとこと多いけど!」
「ああ、ごめんね」
「……ま、今回は許す。そんじゃ、次ね。この内臓を手で引きちぎっちゃうの。切れにくかったら包丁使ってね。で、ひっくり返して、この……。わかる?」
 メーシャはタコの裏側にある、触手の中心部分を指差して見せた。
「えぇっと、なんか黒っぽい? くちばし、みたいなのがあるのかな?」
 店主は目を細めて、じっくり観察する。
「そうそう。ここね、くちばしを手でクリっと取る。で、内臓系は終わったんだけど、これまでで何か質問ある?」
「特にはなにも」
「おけ。じゃあ、ぬめりを取っていくんだけど、塩をかけて揉んでいくの。でも、なんか生きてるのはぬめりが取りにくいみたいだね。今回は念のために1度冷凍しよっか」
「でも、時間かかるでしょ?」
 店主はめんどくさそうに言う。確かに冷凍して、解凍して、また下処理の続きとなると『ただのレクチャーなのに面倒』と思わなくもない。
「いや、ここは優秀なメーシャちゃんだからね。時間は無駄にしないよ。へへっ。────メーシャミラクル!」
 ────シャララ~ン。
 メーシャはを奪い、たちまちタコを凍らせてしまった。
「おお~! 君、氷魔法が使えたんだ?」
 店主はメーシャの手際の良さに感心する。
「まあ、そんなカンジかな? ちょい違うけど。そんで、もういっちょ。────メーシャミラクル!」
 ────シャララ~ン。
 次は奪っておいた熱をタコに“戻し”、あっという間に解凍した。
「あ、炎の魔法もいけるのか。しかも、炎を出さずに熱だけ加えるなんて、君、実は賢者かなにかなのかい?」
 店主は楽しくなってきたのか、先程に比べて表情が明るい。
「だから、あーしは勇者なの! ま、怪しい人よかマシか。……じゃ、パパっと塩もみしちゃうかんね?」
 メーシャは気を取り直して、タコに塩を振りかけていく。
 ぬめりなんか、メーシャにかかれば一瞬で奪ってしまえるのだが、ここは“教えの場”。手順はちゃんと守るのだ。
「勇者か……。そう言えば最近、王様というか国公認の勇者が現れたらしいね。それに、今までケチで有名だった王様だったのに、その勇者には報酬を惜しまないとか。いったいどんな怪しい魔法を使ったのやら……」
 店主は鼻で笑った。あんまり良くは思っていないらしい。
「……魔法は、まあ、使ってないけどね。ちょとガツンとしただけで。……っし、塩もみ完了! で、水洗いして~……。はい! 触ってみて」
「あ! ぬめりが取れて、つるつるしてる」
「でしょ! それで、これを茹でちゃう」
 事前に用意しておいた水を沸かした鍋に、タコを足から入れた。
「……手順はそれなりにあるけど、思ったより簡単だったねぇ。何か特殊な魔法でも必要なんじゃないかと思ったよ」
 茹であがりを待つ間、店主はしみじみと言った。
「使わないよ~。あーしの住んでたとこでは、めちゃメジャーな食材だったんだから」
「国が違えば、文化も違う。分かってても受け入れるのは難しいもんだなぁ……」
「そうかもね……。あ、そろそろイイかな」
 メーシャは箸でタコを掴んで確かめると、それをまな板の上に移動させた。
「後は? 何をしたらいいの?」
 店主も乗り気になったようで、声に張りがある。
「これで最後。『カリふわ焼き』の中に入るサイズにカットするだけ」
 メーシャは手際よくタコを切り分けて、それらを器に移した。
「ほう……。少し味見してもいいかな?」
「どぞどぞ!」
 メーシャは小皿にタコの切り身を乗せて店主に渡した。
「では、いただきます……」
「……どう?」
 メーシャは固唾を飲んだ。
 いくら自分が美味しいと思っていても、個人の好みはある。万が一店主が『まずい』と言えば、いくら売れる可能性があったとしてもそれまでなのだ。
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