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メーシャ印のカリふわタコ焼き
48話 『あーしこそ、勇者メーシャちゃん。その人なのだ~』
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メーシャは急いでお店の灯りを点け、店員さんたちを助け起こすと、店長さんに何があったかを尋ねた。
「な~んだ! 心配して損しちゃったし~」
メーシャの表情が明るくなる。
「おい! 俺たちにとっては死活問題なんだぞ!」
しかし、魚屋さんは怒り心頭と言った様子で、思わずメーシャに怒鳴ってしまう。
他の店員さんも眉間にシワが寄っている。
「わわ! ごめんなさい!」
「でも、ラードロじゃなくて良かったですね」
ヒデヨシが安堵した様子でため息を吐いた。
「あん? ラードロなんざ、今は関係ないだろ!」
ヒデヨシは火に油を注いでしまったようだ。
「そうだ、そうだ!」「こっちは商売あがったりなんだぞ!」
店長さんの言葉に他の店員さんも便乗する。
「ああ、すみません……」
その勢いに押され、ヒデヨシもとりあえず謝罪した。
「でもよ、まあ見た目は怪物だもんなぁ。あっしは食いたくねぇぜ」
灼熱さんはお店にたくさん並ぶタコを眺めて呟いた。
「てめ! タコはめちゃくちゃ美味────」
店長は聞き捨てならないと怒りをヒートアップさせるが、
「わかる! あーしも大好きだもん!」
メーシャは勢い余って店長の言葉にかぶせてしまった。
「…………」
それに対して店長さんは面食らったみたいで、眉間にシワを寄せながら黙ってしまう。
「あれ? あーし、なんか変なこと言っちゃった……?」
店長さんだけでなく、他の店員さんも黙ってしまったので、メーシャは不安になる。
「おお……」
しかし、それは杞憂だったようで、魚屋さん全員の顔が柔らかくなった。
「君、なかなか見る目あるね。そう、そうなんだよ! タコはめちゃくちゃ美味しいんだよ!」
「だ、だよね! 刺身、すし、タコ飯、タコ焼き、煮物、酢の物、焼いても煮ても、茹でてもおいしいもんね!」
メーシャは指を折りながらタコの可能性に想いを巡らせた。
「……だけど、みんな買ってくれないんだよなぁ」
そう、このお店はタコの在庫をたくさん抱えていた。なぜ、そうなったのか?
それは、店長さんは元々別の国から来たことに起因する。
店長さんの国ではタコが盛んに獲れ、旨さも相まってよく食べられていた。
しかし、この国では見た目の歪さから嫌厭し、タコを食べる文化が全くなかったのだ。
なんなら『悪魔の魚』『邪神のしもべ』や、『8本足の捕食者』なんて呼ばれる始末。
会社のお役員に命じられ、急にこの国に転勤させられた店長さんがそんな事情を知るはずもなく、いつもの調子でタコを大量発注したのが運の尽き。
お客さんに意気揚々と勧めたら暴言やタコを投げつけられ、皆帰ってしまったのだった。
今ではこのお店は『邪教の呪い道具やモンスターを扱っている』と噂されている。
「酷い話ですよね。食べ物を粗末にするなんて、許せないですよ」
「でもさ、ヒデヨシ。そのお客さんって、タコのこと“食べ物”って思ってないんじゃない?」
「あ、それもそうですね。『邪神のしもべ』なんて言って食べようとしてたら、恐ろしすぎて人間か疑ってしまいそうです……」
ヒデヨシは想像してブルっと震えた。
「そうなんだよな……。でも漁師と月契約してるから、今更タコはいらないですってわけにもいかないんだよ……」
事態はわりと深刻のようだ。
「そっか……。食べ物っておいしいって知ってたり、誰か信じられる人が食べてないと、なかなか食べたくならないもんね~」
「どうしたもんか……」
店長さんも、他の店員さんも困り顔でため息を吐いた。
「…………」
メーシャは目を瞑り、腕を組んで考える。
「お嬢様、どうしましょうか?」
「わかった!」
「おっと!?」
メーシャが急に大きな声を出したので、店員さんたちは驚いてしまった。
「ああ、ごめん。あんね、問題はさ『今あるタコさんをどうするか』『今後納品されるタコさんをどうするか』『汚名を払拭してタコさんのおいしさを知ってもらいたい』だよね?」
メーシャは店長さんに確認する。
「まあ、そうだな。でも、だからなんだ?」
店長さんは訝し気にメーシャを見た。
「まだイイカンジの作戦はないけどさ、まとめて全部まかせろし!」
その自信がどこから来るか分からないが、メーシャは自信満々で言ってのけた。
「はぁ……?」
店長さんが眉をひそめて素っ頓狂な声を出してしまうのも無理はない。
作戦も無いのに『任せろ』なんて、よほどノーテンキでない限り受け入れられるはずがないのだ。
「はっは~ん。疑ってるな~?」
しかし、メーシャは動じない。
「そらな。素性も知らない子どもに全部任せるなんてできるかよ。こっちも生活がかかってんだ」
「うん、ごもっともだね。しかし! このメーシャちゃんには切り札があるのだ~」
メーシャは勝利を確信しているのか、もうニヤケが止まらない。
「切り札……?」
店長さんは、他の店員さんと顔を見合わせる。
「じゃ~ん! この許可証が目にはいらぬか~! なんちゃって」
王様から貰った“勇者殿が困った場合、国から力を借りられる許可証”を、メーシャは意気揚々と店長さんに見せた。
「な……!? これは、国王陛下直々のやつじゃないか!」
店長さんは許可証を見て目を丸くする。
「あ、良かった。知ってて」
「お嬢ちゃん、何をする気だ? まさか、俺たちから仕事を奪うつもりか……?」
店長さんは絶望したような顔で肩を落としてしまう。
「えっ、ちょっと待って! なになに? あーし、そんな悪党じゃないし、仕事を奪ったりなんかしないよ!」
見る見る生気が無くなっていく店員さんたちを見て、メーシャは慌てて訂正した。
「じゃあ、どういうつもりだ?」
「つか、この許可証ってそんなヤバみのあるもんなの?」
「まあな。その許可証は『王命と同等の権限』がある。国の中であればだいたいの立ち入り禁止区域にも入れるし、理由があればヒトの家や組織をひっくり返すこともできるんだよ」
「やばー」
メーシャは自分が持つ許可証の威力に語彙力を無くしてしまう。
「それで、お、おお嬢ちゃんは何者なんだ?」
「ん? ……ああ、へっへ~ん!」
メーシャは店長さんに声を掛けられて我に返ると、元気とドヤ顔を取り戻した。
「ん?」
「何を隠そう、あーしは正真正銘本物の────」
メーシャは足を肩幅に開き、左手を腰に、右は人差し指を立てて、
────ビシ!
「勇者メーシャちゃんなのだ!!」
キレッキレのポーズを決めた。
「な~んだ! 心配して損しちゃったし~」
メーシャの表情が明るくなる。
「おい! 俺たちにとっては死活問題なんだぞ!」
しかし、魚屋さんは怒り心頭と言った様子で、思わずメーシャに怒鳴ってしまう。
他の店員さんも眉間にシワが寄っている。
「わわ! ごめんなさい!」
「でも、ラードロじゃなくて良かったですね」
ヒデヨシが安堵した様子でため息を吐いた。
「あん? ラードロなんざ、今は関係ないだろ!」
ヒデヨシは火に油を注いでしまったようだ。
「そうだ、そうだ!」「こっちは商売あがったりなんだぞ!」
店長さんの言葉に他の店員さんも便乗する。
「ああ、すみません……」
その勢いに押され、ヒデヨシもとりあえず謝罪した。
「でもよ、まあ見た目は怪物だもんなぁ。あっしは食いたくねぇぜ」
灼熱さんはお店にたくさん並ぶタコを眺めて呟いた。
「てめ! タコはめちゃくちゃ美味────」
店長は聞き捨てならないと怒りをヒートアップさせるが、
「わかる! あーしも大好きだもん!」
メーシャは勢い余って店長の言葉にかぶせてしまった。
「…………」
それに対して店長さんは面食らったみたいで、眉間にシワを寄せながら黙ってしまう。
「あれ? あーし、なんか変なこと言っちゃった……?」
店長さんだけでなく、他の店員さんも黙ってしまったので、メーシャは不安になる。
「おお……」
しかし、それは杞憂だったようで、魚屋さん全員の顔が柔らかくなった。
「君、なかなか見る目あるね。そう、そうなんだよ! タコはめちゃくちゃ美味しいんだよ!」
「だ、だよね! 刺身、すし、タコ飯、タコ焼き、煮物、酢の物、焼いても煮ても、茹でてもおいしいもんね!」
メーシャは指を折りながらタコの可能性に想いを巡らせた。
「……だけど、みんな買ってくれないんだよなぁ」
そう、このお店はタコの在庫をたくさん抱えていた。なぜ、そうなったのか?
それは、店長さんは元々別の国から来たことに起因する。
店長さんの国ではタコが盛んに獲れ、旨さも相まってよく食べられていた。
しかし、この国では見た目の歪さから嫌厭し、タコを食べる文化が全くなかったのだ。
なんなら『悪魔の魚』『邪神のしもべ』や、『8本足の捕食者』なんて呼ばれる始末。
会社のお役員に命じられ、急にこの国に転勤させられた店長さんがそんな事情を知るはずもなく、いつもの調子でタコを大量発注したのが運の尽き。
お客さんに意気揚々と勧めたら暴言やタコを投げつけられ、皆帰ってしまったのだった。
今ではこのお店は『邪教の呪い道具やモンスターを扱っている』と噂されている。
「酷い話ですよね。食べ物を粗末にするなんて、許せないですよ」
「でもさ、ヒデヨシ。そのお客さんって、タコのこと“食べ物”って思ってないんじゃない?」
「あ、それもそうですね。『邪神のしもべ』なんて言って食べようとしてたら、恐ろしすぎて人間か疑ってしまいそうです……」
ヒデヨシは想像してブルっと震えた。
「そうなんだよな……。でも漁師と月契約してるから、今更タコはいらないですってわけにもいかないんだよ……」
事態はわりと深刻のようだ。
「そっか……。食べ物っておいしいって知ってたり、誰か信じられる人が食べてないと、なかなか食べたくならないもんね~」
「どうしたもんか……」
店長さんも、他の店員さんも困り顔でため息を吐いた。
「…………」
メーシャは目を瞑り、腕を組んで考える。
「お嬢様、どうしましょうか?」
「わかった!」
「おっと!?」
メーシャが急に大きな声を出したので、店員さんたちは驚いてしまった。
「ああ、ごめん。あんね、問題はさ『今あるタコさんをどうするか』『今後納品されるタコさんをどうするか』『汚名を払拭してタコさんのおいしさを知ってもらいたい』だよね?」
メーシャは店長さんに確認する。
「まあ、そうだな。でも、だからなんだ?」
店長さんは訝し気にメーシャを見た。
「まだイイカンジの作戦はないけどさ、まとめて全部まかせろし!」
その自信がどこから来るか分からないが、メーシャは自信満々で言ってのけた。
「はぁ……?」
店長さんが眉をひそめて素っ頓狂な声を出してしまうのも無理はない。
作戦も無いのに『任せろ』なんて、よほどノーテンキでない限り受け入れられるはずがないのだ。
「はっは~ん。疑ってるな~?」
しかし、メーシャは動じない。
「そらな。素性も知らない子どもに全部任せるなんてできるかよ。こっちも生活がかかってんだ」
「うん、ごもっともだね。しかし! このメーシャちゃんには切り札があるのだ~」
メーシャは勝利を確信しているのか、もうニヤケが止まらない。
「切り札……?」
店長さんは、他の店員さんと顔を見合わせる。
「じゃ~ん! この許可証が目にはいらぬか~! なんちゃって」
王様から貰った“勇者殿が困った場合、国から力を借りられる許可証”を、メーシャは意気揚々と店長さんに見せた。
「な……!? これは、国王陛下直々のやつじゃないか!」
店長さんは許可証を見て目を丸くする。
「あ、良かった。知ってて」
「お嬢ちゃん、何をする気だ? まさか、俺たちから仕事を奪うつもりか……?」
店長さんは絶望したような顔で肩を落としてしまう。
「えっ、ちょっと待って! なになに? あーし、そんな悪党じゃないし、仕事を奪ったりなんかしないよ!」
見る見る生気が無くなっていく店員さんたちを見て、メーシャは慌てて訂正した。
「じゃあ、どういうつもりだ?」
「つか、この許可証ってそんなヤバみのあるもんなの?」
「まあな。その許可証は『王命と同等の権限』がある。国の中であればだいたいの立ち入り禁止区域にも入れるし、理由があればヒトの家や組織をひっくり返すこともできるんだよ」
「やばー」
メーシャは自分が持つ許可証の威力に語彙力を無くしてしまう。
「それで、お、おお嬢ちゃんは何者なんだ?」
「ん? ……ああ、へっへ~ん!」
メーシャは店長さんに声を掛けられて我に返ると、元気とドヤ顔を取り戻した。
「ん?」
「何を隠そう、あーしは正真正銘本物の────」
メーシャは足を肩幅に開き、左手を腰に、右は人差し指を立てて、
────ビシ!
「勇者メーシャちゃんなのだ!!」
キレッキレのポーズを決めた。
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