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メーシャ印のカリふわタコ焼き

47話 『ようこそトゥルケーゼへ。だって!』

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 メーシャたちは、おじいちゃんと別れて町の入り口に向かっていた。ちなみにサンディーは中に入れなさそうなので、町の外でお留守番だ。
「あーし馬車の運転っていうか、ゴーカートと自転車以外の運転すんの初めてだったんだけどさ。結構楽しかったね」
「恐かったですけど、それなりには楽しめました」
「あぃ? お嬢、運転した事なかったのにあんなぶっ飛ばしてたのかよ!」
「まあ、ゲームなら誰にも負けないくらい運転上手だけどね!」
 メーシャは相当自信があるのか、ちょっとイラっとしそうなくらいのドヤ顔だ。
『いいなあ……。俺様も、ヒッヒーンドンガラガッシャーン、ドゴラッドゴラッってしたかったぜ』
 デウスは身体が無く衝撃を堪能できなかったので、しょんぼりしてしまっている。
「じゃあ、また皆で、つかもっと速いモンスターで乗ろうよ!」
『そ、そうか? じゃあ、めちゃくちゃ速いモンスター、見つけねえとな!』
 メーシャのひと言で、デウスはゴキゲンでルンルン、鼻歌を歌いだした。
「あ、お嬢様! 町の入り口に着きましたよ!」
 ヒデヨシがポケットから前足を出してメーシャに知らせる。
「ほんとだ! めちゃイイカンジじゃん……!」
 町の入り口は車や馬車、徒歩の者の往来が盛んで、普通の人間だけでなく、動物耳や尻尾の生えたいわゆる“獣人”、それに似た種族の“鳥人”、“ドワーフ”、数は少ないがエルフもいた。
 そして往来する者は漏れなく活気に満ちた顔をしており、それだけでもここが良い町だということが判る。
 しかし、『イイカンジ』なのはそれだけではなかった。
 昼の日差しを思わせるような暖かい白を基調にした建物が建ち並び、そこを抜ける潮の香りがする爽やかな風、ずらっと並ぶお店の前には商品を売り買いする人と、その人たちが出す賑やかな声が全体を彩って、まるでひとつの芸術でも作り出しているかのようだった。
「なんだか、見てるとこっちまで気持ちがたかぶってくるぜぃ!」
 ヒデヨシが入っている方とは逆のポケットで、灼熱さんは楽しそうに言った。
 灼熱さんは小さいので、地面を歩かせると最悪踏まれかねないので、メーシャのポケットに入ることになったのだ。
「ようこそ“トゥルケーゼ”へ!」
 入り口に立っていた兵士が、メーシャがそこを通る時に愛想よく言った。
「えっ、ちょっと待って。ヒデヨシ、聞いた? 『ようこそトゥルケーゼへ』だって!」
 メーシャはテンションが上がりながらも、兵士に聞かれないように少しだけ声を落として言う。
「はい。聞きました。“町の入り口にいる人”としては満点ですね!」
「こんな風に歓迎されんの、あーし夢だったんだよね~。ゲーム好きとしては、絶対外せないっしょ」
『それきた! ここで俺様チョイスの音楽を鳴らしちまうぜ! チェケラ!』
 ────キュイーン! ~~♪
 デウスは待ってましたと言わんばかりに、ノリノリでBGMを鳴らし始めた。
「お、良いですね! 太鼓やいくつかの弦楽器で力強さや活気のようなものを演出しつつ、ハープと鉄琴で爽やかな潮風も表しているんですね!」
「ほんそれ! つかヒデヨシ、なんか専門家みたいでカッコイイね」
 と、言いつつメーシャはヒデヨシの顎の下を撫でる。
「そ、そうですか? お嬢様にそう言ってもらえると嬉しいです……」
 ヒデヨシはまんざらでもない様子で、なされるがままに撫でてもらっている。
「それにしても、デウスの旦那は色んな事ができるな。あっし、尊敬しちまうぜぃ」
 ちなみにこのBGMは仲間内にしか聞こえていない。
『へへっ。見る目あんじゃねえか!』
 デウスは褒められて得意げだ。
「ほんと、海ってカンジだよね。海、海……。そだ!」
 メーシャは何か閃いた様子で、表情をパッと明るくする。
『どうしたんだ、何か曲のリクエストか?」
「ちがう。あのさ、せっかく海の近くの町なんだから、何か海産物食べよ! 絶対おいしいっしょ! サンディーにもタコお土産あげたいしさ」
「良い考えですね」
『確かにな。……そうだ、メーシャ!」
 デウスも何か閃いた様子だ。
「なに、デウス?」
『へへっ。あのよ、俺様って身体が無いから食べ物を食えねえだろ? でも、今まで考えつかなかったのが不思議なんだけどな……。くくっ』
 もう、デウスは嬉しくてたまらないようで、笑いが抑えきれてない。
「もう、なに? めちゃ溜めるじゃん」
『俺様って、“奪った”ものを収納できる異空間アイテムボックスを作っただろ?』
「ああ、そっか! そうだね!」
 メーシャにはこれで理解できたようだ。
「お嬢様、どういうことですか?」
 しかし、ヒデヨシには分からなかったようで、首を傾げてメーシャに訊いた。
「あんね、デウスの作ったアイテムボックスってさ、鮮度が落ちないみたいなんだよね。時間が止まってるってか、そのままの状態を保つカンジ? それでね、今の内にデウスが食べたいものをアイテムボックスに入れておいて、身体が取り戻せた時に取り出して食べればイイってこと。わかった?」
「おお! これは良い考えですね!」
『な、良い考えだろ? まあ、欲を言えばよ……。みんなで一緒に食いてえから、金とか手間はかかるが、俺様の分だけじゃなくて皆の分も一緒に……』
 デウスは初めは活き活きとしていたが、後になるにつれてメーシャの顔色を見つつ恐る恐るという風に変わっていった。
「…………ふん」
 メーシャはそんなデウスを鼻で笑ってしまう。
『……すまねえ、今のは忘れ──』
「いいよ!」
 メーシャはデウスの言葉を遮って口を開いた。
『え?』
「だから『いいよ』って言ってんの。ご飯、みんなで食べたいんでしょ? ご飯はみんなで食べる方がおいしいもんね。だから、そんなの気を使う必要ないっしょ? デウス気にしすぎ! てか、あーし元々デウスだけのじゃなくて、みんなの分買うつもりだったしさ!」
 メーシャはカラッと笑う。
『メーシャ……』
 デウスはメーシャの言葉に心が温かくなった。
「デウスとかこの世界の人たちをさ、元の世界の友達とか家族にも紹介したいしね! あ、灼熱さんもその内のひとりだかんね」
「あ、あっしもお嬢のご友人に紹介して頂けんのかい? うれしいねぇ……」
 まさかこの流れで自分もその対象になるとは思ってなかった灼熱さんは、面食らってウルッとしてしまう。
「あ、しんみりしそうなカンジだね? はい、楽しいショッピングが始まんのに、泣くのはナシナシ! さ、気を取り直して行くよ!」
 メーシャは手をパンパンと叩いて空気を変え、元気よくお店の方に歩きだした。

 そして、魚屋さんに着いたメーシャ一行だったが、思いがけぬ事態に陥っていた。
「ど、どういうこと……?」
 メーシャがお店の中を見て眉をひそめる。
「お店の人に何があったんでしょうか?」
「まるで生気が感じられねぇぜ……」
 魚屋さんの中は灯りがついておらず、店員さんは数人いたが、椅子に力なくもたれたり、地面に横たわっていたり、頭をタコに掴まれて焦点が定まっていなかったりと、誰がどう見ても緊急事態だった。
『ま、まさかラードロの仕業か……!?』
 その状況に、デウスまでもが戦慄していた。

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