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キマイラ
28話 『つか、不意打ちとか論外だし! 空気読め!』
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とうとう封印の間にやって来たメーシャたち。
奥行きと幅が15m程、高さが10mの中央には封印され石化したキマイラが鎮座している。
「なんか、この部屋せまくない? こんなので戦ったら、猫パンチで全滅じゃん! あ、前足も後ろ足もヒヅメなんだ。そしたらヤギパンチ?」
メーシャが部屋を見回しながら言う。
キマイラは四足歩行型のモンスターにもかかわらず、高さがサイクロプスより大きい8mあり、ヤギの頭のツノを合わせればそれ以上。体長も蛇の頭のついたしっぽを合わせなくとも10mを優に越えている。
そんなキマイラの石像があるこの封印の間にメーシャ、カーミラとジーノの騎士ふたり、兵士5人、リッチ、ゾンビやゴーストにスケルトン、ついでに長さ10mあるサンディーまで入り込んだのだ。狭くないわけがない。
「……キィ! キィキィ!」
エサだと思ったのか、サンディーは喜々としてアンデッドの匂いを嗅いでいく。
「サンディー! アンデッドは腐ってるかもだから、食べちゃダメだよ! こんなん食べたら、お腹壊すし! それに、リッチさんたちは今、仲間だから!」
メーシャは指を立て、よだれが垂れてしまっている腹ペコサンドワームを叱る。
「キィ……」
サンディーは叱られて、わかりやすく落ち込む。
「ほら、あとで何かあげるから、しょげないの!」
「キィ~!」
サンディーはその言葉に、ルンルン気分で返事をした。
「メーシャ殿、部屋の狭さですが、大丈夫ですよ」
カーミラがタイミングを見計らってメーシャに声をかける。
「そーなの?」
「はい。この魔法機械で部屋を拡張できるんです。最大、一辺が150mくらいの正立方体にまでできますね」
カーミラが懐からペン型の機械を取り出してメーシャに見せる。
「はえ~。めちゃ便利じゃん!」
「お嬢様の部屋にもひとつ、欲しいところですね。物を散らかして、すぐに『部屋がせまくなった』と言っていることですし」
「ちょ、ヒデヨシ! そんなこと、みんなの前で言うなし!」
メーシャは慌ててポケットにいるヒデヨシの口を抑える。
「ははは。本当におふたりは仲が良いですね。では、さっそく部屋を広げてしまいますね」
カーミラが魔法機械の先端を数度ノックすると、モヤモヤのような透明の魔力が広がり、いつの間にか部屋は先程言ったくらいのサイズに拡張されていた。
「捕縛結界準備、入ります!」
兵士たちが、カーミラに報告へやって来た。
「では、部屋の四方、出来るだけ外側になるよう設置してください。キマイラがどこに移動しても良いように」
「あっ、ちょっと待って!」
「どうかしましたか、メーシャ殿?」
「あのさ。その捕縛結界っての、この部屋と英雄の間の途中の通路、そこに設置して欲しんだけど、いいかな?」
「理由を訊いても宜しいですか?」
「えっとさ、今回、あーしの試練じゃん? リッチさんの願いもあるけど。確かにさ、確実に成功させたいのはめちゃ分かる。でもちょっと、いや、ガチで気合い入れたいから、捕縛結界あると気が散るってか、自分を追い込みたいってか、とにかく! 捕縛結界とか戦車とかはほんと、あーしが失敗した時の最終手段にしてさ、それまではお願い! あーしを信じて!」
メーシャは言葉に悩みながも、気持ちは一切迷っている様子はない。
「背水の陣。であるな」
リッチが呟く。
「背水の陣……ですか。分かりました。メーシャ殿の実力は本物です。そこまで言うなら信じましょう!」
カーミラは少し悩んだが、すぐに顔を上げてニコりと笑い、快く承諾した。
「カーミラちゃん、ありがと~!」
「ふふっ。では、捕縛結界は封印の間入り口通路に設置してください。そして、シルヴィオはその護衛と見張りをお願いします」
カーミラの命令を聞いた兵士たちは、敬礼をしたあとすぐに持ち場に向かった。
「では、俺は封印を解いた後、退避すれば良いですね?」
「はい、お願いします。ジーノ卿」
ジーノはひとつ頷いてキマイラの正面に立つ。
「カーミラちゃんは?」
「私は、封印を解いた後にメーシャ殿が戦いやすくなるよう、皆の殿を務めるつもりです」
「そか」
「……僕はカーミラさんと一緒にいましょう。しんがりは危ないですからね」
ヒデヨシはそう言うと、メーシャのポケットから飛び出し、カーミラの肩に乗った。
「おけ。危険だったら、ふたりともすぐに逃げてね」
「余は、シルヴィオの手伝いでもしよう。それにテレポートも使えるゆえ、もしもという時は任せてくれ」
「リッチさん、あんがとね」
「うむ」
リッチは静かに返事をしてシルヴィオの元に向かった。
メーシャもそれを見送ると、解除後の初撃をうけないよう少し離れた位置につく。
そして準備が整い、あとは封印を解くだけになった。
「では、封印を解きます。3、2、1……」
ジーノが魔力を流し込むと、キマイラの石像を包む球体型の魔法陣が浮かび上がる。
「──解除!」
──ズズズズズ!!
掛け声と同時に魔法陣が割れ、キマイラの頭の先から石化が解かれていく。
「気をつけろ!」
リッチが皆に声をかけた。その瞬間──
「メ゛エ゛~!!」
キマイラがヤギの頭で、空気を振動させるように鳴き声を響かせた。
「来て、フーリ!」「メーシャミラクル!」
「──魔法障壁!」
カーミラは風の狸を呼び出し自分とヒデヨシを守り、メーシャは能力で振動を"奪い"、一瞬行動が遅れたシルヴィオに代わりリッチが魔法障壁で兵士たちを守った。だが、
「……ぅっぐぁああ!?」
封印を解くために近付いていたジーノは、魔法障壁を出そうにも近過ぎて間にあわず、まともに鳴き声を聞いてしまい錯乱状態に陥ってしまった。
「ジーノのおっちゃん!」
メーシャが咄嗟に走り出し、ジーノを治しに行くが、
「グルルァオオン!」
キマイラはライオンの頭で、灼熱の炎のブレスを吐き出して邪魔をする。
「やば! ガードだ!」
メーシャはサンディーから"奪って"、貰っておいた岩を前に出して火球を防ぐ。
「えっ、ちょっと待って!?」
ブレスの温度が高すぎて、岩が少しずつ溶けていっていた。
「──中級水魔法!」
錯乱したジーノは、メーシャに向かって魔法を放つ。
──ドゴーン!
「えっ、うそ!?」
盾に使っていた岩は、水魔法によって急に冷やされてしまい、大きな音をたてて砕け散ってしまった。
「ガルルァア!」
キマイラの炎のブレスが追撃をする。
「水の盾だ!」
メーシャはバトルヌートリアから"奪って"おいた水を盾にしてブレスをガード。盾が蒸発するまで防いでいる隙に、バックステップで大きく距離をとった。
「ジーノ卿!」
キマイラがメーシャに気を取られている間に、カーミラはジーノの元に駆け寄り、
「止む終えません!」
突風を巻き起こし、ジーノを入り口側に吹き飛ばした。
「キィー!」
状況を察したサンディーがジーノを口でキャッチ。シルヴィオたちの元に運ぶ。
「ジーノ卿は自分が治しておきます!」
「シルヴィオ、頼みました!」
カーミラがシルヴィオの方を見た、その隙をキマイラは見逃さなかった。
「ガルルァア!」
キマイラは足元にいるカーミラに向かって炎のブレスを吐き出す。
「僕の出番ですね。はぁー!!」
ヒデヨシは咄嗟にオーラを纏い、アルマジロ型に変身する時の無敵状態を使って、キマイラのブレスを無効化した。
「シャー!!」
「しまっ!?」
しかし、背後から接近していた蛇の頭が、鎧を貫いてカーミラの胴に噛み付いてしまった。
「カーミラちゃん!」
カーミラは猛毒を流し込まれて全身が麻痺になり、その場で崩れ落ちるように倒れてしまう。
「メエ~」
キマイラがカーミラを踏み潰すべく、蹄のついた足を持ち上げる。
「そんなこと、新星ヒデヨシが許しませんよ!」
アルマジロ型に変身し終えたヒデヨシは、身体を丸めてボールのように転がってカーミラの元に行く。
「ふぐっ!?」
体当たりでカーミラを弾き、キマイラの踏みつけから逃した。
「危ない!」
だが、自分までは逃げ切れず、
──ズドン!!
ヒデヨシはキマイラの踏みつけを諸に受けてしまった。
「ヒデヨシー!!」
メーシャが心配してヒデヨシの元に行こうとするが、キマイラはヤギの頭で咆哮を放ってメーシャを押し戻す。
気が気でないメーシャはガードが間にあわずに、吹き飛ばされて壁に打ち付けられてしまった。
「かはっ!」
メーシャは大きなダメージを受け、落下に備えることができない。
「勇者どの! ──初級風魔法。──上級回復魔法!」
リッチは風を起こして落下するメーシャを優しく降ろして、回復魔法で傷を治した。
「……あんがと、リッチさん!」
「礼はいい、それよりヒデヨシを!」
「おけ!」
メーシャは体勢を立て直し、再度キマイラに向かって走り出す。
「グォオオァーン!」
キマイラが炎のブレスを吐き出してメーシャを襲う。
「まずは岩だ!」
メーシャは岩を取り出して、それを飛び台にして大きく跳躍。ブレスを回避する。
「次にタコスミ!」
小さめのタコスミの球を連続で撃ち出す。
「ガフゥ!?」
タコスミはライオンの頭に直撃し、キマイラは思わずブレスを止めてしまう。
「水でジェットみたいにして……」
メーシャは水を足の裏から勢いよく吹き出させて、凄いスピードでキマイラとの距離を詰める。
「こんぼうで、会心の一撃だしー!!」
──ドゴーン!!
サイクロプスのこん棒で、蹄に向かってフルスイング。
「メエー!?」
こん棒は砕け散ってしまったが、思う以上にダメージがあったのか、キマイラはヒデヨシを踏んでいた足を浮かしてしまう。
「今だ!」
メーシャは地面をスライディングして、キマイラの足元のヒデヨシを救い出し、そのままの勢いでカーミラの元にも向かう。
「っし。生きてんね! メーシャミラクルだ!」
ヒデヨシは然程ダメージは受けていないが気絶しており、カーミラはひん死ながらも何とか生きていたようで、傷や毒をメーシャミラクルで"奪って"回復させる。
「サンディー!」
「キィ~!」
メーシャに呼ばれたサンディーは、砂嵐を起こして視界を悪くしつつ、ヒデヨシとカーミラを受け取りリッチたちがいる所まで退避した。
「とりま、何とかなったか……」
メーシャは袖で汗を拭いつつ、キマイラのいる方を見る。
未だ砂嵐がメーシャとキマイラを隔てているが、これが晴れた時、第二ラウンドが始まる。それは誰もが知る事実であった。
「すぅ、は~……。すぅ、は~……」
そして、メーシャは深呼吸をふたつして、うるさい鼓動を少し沈め、ゆっくりと歩き出した。
奥行きと幅が15m程、高さが10mの中央には封印され石化したキマイラが鎮座している。
「なんか、この部屋せまくない? こんなので戦ったら、猫パンチで全滅じゃん! あ、前足も後ろ足もヒヅメなんだ。そしたらヤギパンチ?」
メーシャが部屋を見回しながら言う。
キマイラは四足歩行型のモンスターにもかかわらず、高さがサイクロプスより大きい8mあり、ヤギの頭のツノを合わせればそれ以上。体長も蛇の頭のついたしっぽを合わせなくとも10mを優に越えている。
そんなキマイラの石像があるこの封印の間にメーシャ、カーミラとジーノの騎士ふたり、兵士5人、リッチ、ゾンビやゴーストにスケルトン、ついでに長さ10mあるサンディーまで入り込んだのだ。狭くないわけがない。
「……キィ! キィキィ!」
エサだと思ったのか、サンディーは喜々としてアンデッドの匂いを嗅いでいく。
「サンディー! アンデッドは腐ってるかもだから、食べちゃダメだよ! こんなん食べたら、お腹壊すし! それに、リッチさんたちは今、仲間だから!」
メーシャは指を立て、よだれが垂れてしまっている腹ペコサンドワームを叱る。
「キィ……」
サンディーは叱られて、わかりやすく落ち込む。
「ほら、あとで何かあげるから、しょげないの!」
「キィ~!」
サンディーはその言葉に、ルンルン気分で返事をした。
「メーシャ殿、部屋の狭さですが、大丈夫ですよ」
カーミラがタイミングを見計らってメーシャに声をかける。
「そーなの?」
「はい。この魔法機械で部屋を拡張できるんです。最大、一辺が150mくらいの正立方体にまでできますね」
カーミラが懐からペン型の機械を取り出してメーシャに見せる。
「はえ~。めちゃ便利じゃん!」
「お嬢様の部屋にもひとつ、欲しいところですね。物を散らかして、すぐに『部屋がせまくなった』と言っていることですし」
「ちょ、ヒデヨシ! そんなこと、みんなの前で言うなし!」
メーシャは慌ててポケットにいるヒデヨシの口を抑える。
「ははは。本当におふたりは仲が良いですね。では、さっそく部屋を広げてしまいますね」
カーミラが魔法機械の先端を数度ノックすると、モヤモヤのような透明の魔力が広がり、いつの間にか部屋は先程言ったくらいのサイズに拡張されていた。
「捕縛結界準備、入ります!」
兵士たちが、カーミラに報告へやって来た。
「では、部屋の四方、出来るだけ外側になるよう設置してください。キマイラがどこに移動しても良いように」
「あっ、ちょっと待って!」
「どうかしましたか、メーシャ殿?」
「あのさ。その捕縛結界っての、この部屋と英雄の間の途中の通路、そこに設置して欲しんだけど、いいかな?」
「理由を訊いても宜しいですか?」
「えっとさ、今回、あーしの試練じゃん? リッチさんの願いもあるけど。確かにさ、確実に成功させたいのはめちゃ分かる。でもちょっと、いや、ガチで気合い入れたいから、捕縛結界あると気が散るってか、自分を追い込みたいってか、とにかく! 捕縛結界とか戦車とかはほんと、あーしが失敗した時の最終手段にしてさ、それまではお願い! あーしを信じて!」
メーシャは言葉に悩みながも、気持ちは一切迷っている様子はない。
「背水の陣。であるな」
リッチが呟く。
「背水の陣……ですか。分かりました。メーシャ殿の実力は本物です。そこまで言うなら信じましょう!」
カーミラは少し悩んだが、すぐに顔を上げてニコりと笑い、快く承諾した。
「カーミラちゃん、ありがと~!」
「ふふっ。では、捕縛結界は封印の間入り口通路に設置してください。そして、シルヴィオはその護衛と見張りをお願いします」
カーミラの命令を聞いた兵士たちは、敬礼をしたあとすぐに持ち場に向かった。
「では、俺は封印を解いた後、退避すれば良いですね?」
「はい、お願いします。ジーノ卿」
ジーノはひとつ頷いてキマイラの正面に立つ。
「カーミラちゃんは?」
「私は、封印を解いた後にメーシャ殿が戦いやすくなるよう、皆の殿を務めるつもりです」
「そか」
「……僕はカーミラさんと一緒にいましょう。しんがりは危ないですからね」
ヒデヨシはそう言うと、メーシャのポケットから飛び出し、カーミラの肩に乗った。
「おけ。危険だったら、ふたりともすぐに逃げてね」
「余は、シルヴィオの手伝いでもしよう。それにテレポートも使えるゆえ、もしもという時は任せてくれ」
「リッチさん、あんがとね」
「うむ」
リッチは静かに返事をしてシルヴィオの元に向かった。
メーシャもそれを見送ると、解除後の初撃をうけないよう少し離れた位置につく。
そして準備が整い、あとは封印を解くだけになった。
「では、封印を解きます。3、2、1……」
ジーノが魔力を流し込むと、キマイラの石像を包む球体型の魔法陣が浮かび上がる。
「──解除!」
──ズズズズズ!!
掛け声と同時に魔法陣が割れ、キマイラの頭の先から石化が解かれていく。
「気をつけろ!」
リッチが皆に声をかけた。その瞬間──
「メ゛エ゛~!!」
キマイラがヤギの頭で、空気を振動させるように鳴き声を響かせた。
「来て、フーリ!」「メーシャミラクル!」
「──魔法障壁!」
カーミラは風の狸を呼び出し自分とヒデヨシを守り、メーシャは能力で振動を"奪い"、一瞬行動が遅れたシルヴィオに代わりリッチが魔法障壁で兵士たちを守った。だが、
「……ぅっぐぁああ!?」
封印を解くために近付いていたジーノは、魔法障壁を出そうにも近過ぎて間にあわず、まともに鳴き声を聞いてしまい錯乱状態に陥ってしまった。
「ジーノのおっちゃん!」
メーシャが咄嗟に走り出し、ジーノを治しに行くが、
「グルルァオオン!」
キマイラはライオンの頭で、灼熱の炎のブレスを吐き出して邪魔をする。
「やば! ガードだ!」
メーシャはサンディーから"奪って"、貰っておいた岩を前に出して火球を防ぐ。
「えっ、ちょっと待って!?」
ブレスの温度が高すぎて、岩が少しずつ溶けていっていた。
「──中級水魔法!」
錯乱したジーノは、メーシャに向かって魔法を放つ。
──ドゴーン!
「えっ、うそ!?」
盾に使っていた岩は、水魔法によって急に冷やされてしまい、大きな音をたてて砕け散ってしまった。
「ガルルァア!」
キマイラの炎のブレスが追撃をする。
「水の盾だ!」
メーシャはバトルヌートリアから"奪って"おいた水を盾にしてブレスをガード。盾が蒸発するまで防いでいる隙に、バックステップで大きく距離をとった。
「ジーノ卿!」
キマイラがメーシャに気を取られている間に、カーミラはジーノの元に駆け寄り、
「止む終えません!」
突風を巻き起こし、ジーノを入り口側に吹き飛ばした。
「キィー!」
状況を察したサンディーがジーノを口でキャッチ。シルヴィオたちの元に運ぶ。
「ジーノ卿は自分が治しておきます!」
「シルヴィオ、頼みました!」
カーミラがシルヴィオの方を見た、その隙をキマイラは見逃さなかった。
「ガルルァア!」
キマイラは足元にいるカーミラに向かって炎のブレスを吐き出す。
「僕の出番ですね。はぁー!!」
ヒデヨシは咄嗟にオーラを纏い、アルマジロ型に変身する時の無敵状態を使って、キマイラのブレスを無効化した。
「シャー!!」
「しまっ!?」
しかし、背後から接近していた蛇の頭が、鎧を貫いてカーミラの胴に噛み付いてしまった。
「カーミラちゃん!」
カーミラは猛毒を流し込まれて全身が麻痺になり、その場で崩れ落ちるように倒れてしまう。
「メエ~」
キマイラがカーミラを踏み潰すべく、蹄のついた足を持ち上げる。
「そんなこと、新星ヒデヨシが許しませんよ!」
アルマジロ型に変身し終えたヒデヨシは、身体を丸めてボールのように転がってカーミラの元に行く。
「ふぐっ!?」
体当たりでカーミラを弾き、キマイラの踏みつけから逃した。
「危ない!」
だが、自分までは逃げ切れず、
──ズドン!!
ヒデヨシはキマイラの踏みつけを諸に受けてしまった。
「ヒデヨシー!!」
メーシャが心配してヒデヨシの元に行こうとするが、キマイラはヤギの頭で咆哮を放ってメーシャを押し戻す。
気が気でないメーシャはガードが間にあわずに、吹き飛ばされて壁に打ち付けられてしまった。
「かはっ!」
メーシャは大きなダメージを受け、落下に備えることができない。
「勇者どの! ──初級風魔法。──上級回復魔法!」
リッチは風を起こして落下するメーシャを優しく降ろして、回復魔法で傷を治した。
「……あんがと、リッチさん!」
「礼はいい、それよりヒデヨシを!」
「おけ!」
メーシャは体勢を立て直し、再度キマイラに向かって走り出す。
「グォオオァーン!」
キマイラが炎のブレスを吐き出してメーシャを襲う。
「まずは岩だ!」
メーシャは岩を取り出して、それを飛び台にして大きく跳躍。ブレスを回避する。
「次にタコスミ!」
小さめのタコスミの球を連続で撃ち出す。
「ガフゥ!?」
タコスミはライオンの頭に直撃し、キマイラは思わずブレスを止めてしまう。
「水でジェットみたいにして……」
メーシャは水を足の裏から勢いよく吹き出させて、凄いスピードでキマイラとの距離を詰める。
「こんぼうで、会心の一撃だしー!!」
──ドゴーン!!
サイクロプスのこん棒で、蹄に向かってフルスイング。
「メエー!?」
こん棒は砕け散ってしまったが、思う以上にダメージがあったのか、キマイラはヒデヨシを踏んでいた足を浮かしてしまう。
「今だ!」
メーシャは地面をスライディングして、キマイラの足元のヒデヨシを救い出し、そのままの勢いでカーミラの元にも向かう。
「っし。生きてんね! メーシャミラクルだ!」
ヒデヨシは然程ダメージは受けていないが気絶しており、カーミラはひん死ながらも何とか生きていたようで、傷や毒をメーシャミラクルで"奪って"回復させる。
「サンディー!」
「キィ~!」
メーシャに呼ばれたサンディーは、砂嵐を起こして視界を悪くしつつ、ヒデヨシとカーミラを受け取りリッチたちがいる所まで退避した。
「とりま、何とかなったか……」
メーシャは袖で汗を拭いつつ、キマイラのいる方を見る。
未だ砂嵐がメーシャとキマイラを隔てているが、これが晴れた時、第二ラウンドが始まる。それは誰もが知る事実であった。
「すぅ、は~……。すぅ、は~……」
そして、メーシャは深呼吸をふたつして、うるさい鼓動を少し沈め、ゆっくりと歩き出した。
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