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初陣と3つの黒い影

16話 『勇者メーシャちゃんは、レベルがあがった~』

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 メーシャは触手でガードするが、水球の威力は高く、どんどん壁際に追い詰められていく。
「ほれほれほれ、もう後がなさそうだのう!」
「しまっ!?」
 メーシャの背中が壁に着く。
「今じゃい!」
 バトルヌートリアは自身より大きな水球を出現させ、ストレートパンチ。今までの比ではない速度で水球を飛ばした。
「……」
「つい本気をだしてしまったわ……!」
「メーシャミラクル!」
「え!?」
 バトルヌートリアが驚きの余り尻餅をついてしまう。
「貰っちゃったもんねー!」
 メーシャは『にしししー』と笑いながら、バトルヌートリアに向かってピースをする。
 驚くのも無理はない。渾身の“必殺技”とも言える技を敵は、手を出したかと思うと一瞬にしてその場から消し去り、自分のモノにしたというのだから。
「な、な、なんちゅうヤツじゃい……!」
「勇者メーシャちゃんをなめんな!」
 そう言うとメーシャは、先程“奪った”水球をタコスミで5割増しの大きさにして、
「ドーン!」
 勢いよく撃ち出した。
「ヤケクソじゃー!」
 バトルヌートリアは水球を連続で撃ち出し、襲い来る『ドーン!』を削っていく。だが、やはりというべきか、全てを削り切るには大きすぎ、半分以上の威力を温存してバトルヌートリアの前にやってきてしまった。
「────出てこい、水の盾よ!」
 バトルヌートリアは大きな盾を出して、ようやくメーシャの放った『ドーン!』を防ぎ切った。
「肝が冷えたわ……」
 安堵するも束の間、
「もらったー!!」
「何!?」
 メーシャはもうバトルヌートリアの目前まで迫っていた。
 自身の技の陰を走り、距離を詰めている事を悟られないようにしたのだ。
「た、盾!」
 咄嗟にバトルヌートリアが水の盾を出す。
「無駄、無駄だしー!」
 メーシャはサイクロプスから手に入れたこん棒を出現させ、
「はわわわわ……」
「成敗!」
「あ~れ~!」
 水の盾ごとバトルヌートリアを吹き飛ばした。
「どんなもんだ!」
「へげっ!? ……チュ~」
 バトルヌートリアは壁に激突、そのままダウンした。
「かちー!」
 メーシャは何度も飛び跳ねて喜んだ。
『……なあメーシャ、あのままだと起きたらまた悪い事すんじゃねえか? なんで止めを刺さねえんだ』
 いつまでも止めを刺す様子が無いのを見てデウスが言った。
「止めは、刺さない!」
『なんでだ? あいつを倒すのが王様の依頼だろ? それに、お前が見逃して、他のヒトが襲われたら責任とれんのか?』
 デウスは真面目な口調で問う。
「あはっ」
『何を笑ってんだ?』
「デウス、あーし、さっき少しでもイケそうなら仲間にできないか試してみたい、って言ったっしょ?」
『ああ。でもそれはモンスターだろ? こいつは俺様の身体を奪ったやつらの仲間だ。魔界から来た怪物で、盗人、ラードロだ』
「でもさ、多分だけど、元々そんな悪いヤツじゃないんじゃないかな」
『なんでそう言える?』
「なんとなく。でも、確信があんの」
『……』
「デウスにとっては自分の身体を奪った憎い相手の仲間かもしんないけどさ、この子ももしかすると被害者なんじゃないかなって。だって、とり憑かれたタイプなんでしょ? そうだとしたら、ほっとけないよ。まだ人を襲ってないみたいだし、やり直すチャンスをあげてもいいでしょ。ね? もし本当に根っからの悪いモンスターか動物だったんなら、その時は残念だけど止め刺すしさ」
『……チッ。何かすんなら、早くしねえとまた起き上がってくんぞ』
「いいの?」
『これは、お前の冒険だ。いくら俺様が係わっていようがな。だからよ、どんなにお前が常識外れな行動をしても、俺様は忠告をしても強制はできねえ』
「あんがと!」
 メーシャはデウスに礼を言って、ひっくり返っているバトルヌートリアに近づいた。
『どうすんだ?』
「あのさ、“奪う”能力って、どこまで奪えるの?」
『遥かに格上の相手だったり、特殊な存在だと失敗するが、それ以外には例外はないはずだ』
「特殊な存在?」
『ああ。俺様とか、俺様が相手したラードロとかな』
「じゃあ、やってみないとだね。おけ」
『ああ』
「っし! 気合い入れるよ~!」
 メーシャは髪をシュシュで後ろにまとめ、能力に集中させ、目を光らせた。
「なんか、この子の身体に黒い、禍々しいオーラ? 煙? モヤモヤがいっぱいまとわりついてんだけど」
 能力で相手を見ると、普段見えないものまで見えるようになるのだ。ちなみに魔力もこれで見えるようになっている。
「これ、奪えるのかな?」
『奪ったとして、自分に害が及ぶ可能性は考えてんのか?』
「イケるっしょ! だって、タコの時もいけたしさ。それに、あーしにできないことは、ない!!」
『くくく……。言いきりやがった。つくづくおもしれえ女だぜ、メーシャってやつはよ!』
 デウスが吹き出してしまった。
「あはっ。んじゃ、ヒデヨシも心配だし、さっさと終わらせよっか」
『おう』
「むむむ……」
 メーシャがバトルヌートリアに向かって手をかざす。
「メーシャ……ミラクル!!」
 メーシャが禍々しい黒いモヤモヤを“奪って”いく。
「ぐぬぬぬぬ……! 引っ張られる!」
 モヤモヤはバトルヌートリアから離れまいと抵抗する。だが、メーシャも負けていない。
『がんばれ!』
「う~ん……。とりゃぁあー!!」
 短い死闘の末、メーシャはモヤモヤをバトルヌートリアから引きはがし、奪いとることに成功した。
『うぉお!!』
 ────ゴチン!
「ぶへっ! ……いった~い!!」
 喜びも束の間、メーシャは勢い余って地面に頭をぶつけてしまった。
『しまらねえなぁ』
 デウスが苦笑いをする。
「いてててて……。どうなったの、バトルヌートリア?」
 頭をさすりながらメーシャが訊く。
『ま、今の所は大丈夫そうだな』
「どれどれ……。へ? バトルヌートリアってこんなだったの!?」
 確認してみると、さっきまで真っ黒だったバトルヌートリアだが、今では鮮やかな水色で、ところどころ黄色のギザギザ模様がついている。知らない人が見れば同一の個体だと分からないだろう。
『本来はな。あ、起きそうだぞ! 一応注意しておけ』
「おけ!」
 メーシャが手をかざして小さなタコスミの球を作り出す。
「むにゃむにゃ……。ん……。ふぅわ~ぁあ……。え?」
 バトルヌートリアは目を覚ました途端、タコスミで狙われている現状に頭が追いついていない。
「あんたは悪い子? それとも良い子?」
 メーシャが短く尋ねる。
「ワシは、悪いバトルヌートリアではない。……と、言いたいところだが、さっきまで自分が怪物のお仲間をやっていたことは憶えとるわ。煮るなり焼くなり、好きにせえ」
 バトルヌートリアは覚悟した様子で目を瞑る。
「……ごうかーく!」
『だな』
 メーシャとデウスはホッとしたように笑う。
「どういうこった?」
 バトルヌートリアが目を開けて訝し気に尋ねる。
「あんね、悪い子って言っても良い子って言っても撃つ気だったし」
「じゃあ、なんでワシは合格なんじゃ?」
「それはね、悪い事したのを認めてて、それに反省してたから」
「記憶をうしなってたらどうするつもりだったんじゃ?」
「ま、その時はその時だ。あーしは臨機応変だかんね!」
 メーシャは笑顔で立ち上がり、バトルヌートリアに手を差し伸べる。
「……ふっ。面白いお嬢ちゃんだなぁ、おい。……いやはや、その大物っぷりには感服した!」
 バトルヌートリアは姿勢を正してメーシャの目を見る。
「ん?」
「これからはあんたの事を“姐御”と呼ばせてくれ!」
「え、いいけど、どゆこと?」
 メーシャが首を傾げる。
「ワシは姐御には一生敵わねえと、そして一生尊敬できると思ったんじゃ! 故に、このバトルヌートリアは、姐御のことを頭と仰ぎ、生涯の忠誠を誓いますぜ!」
「舎弟になるってこと?」
「そうです。このバトルヌートリアを今後ともヨロシクお願いしやす!」
 バトルヌートリアは自分で立ち上がり、頭を下げてメーシャの手をとった。
「モンスターの舎弟は初めてだ! おけ! よろしくね」
 ふたりは固い握手を交わした。
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