上 下
8 / 115
初陣と3つの黒い影

8話 『悪い子にはガツンだ!』

しおりを挟む
「……」
 アレッサンドリーテ城謁見の間。騎士はメーシャをここに通すとひざまずかせた後、それぞれ王の横にひとり、大臣の横にひとり、入り口にふたりと配置についた。
「────よくぞ参ったな、勇者メーシャよ。そなたが来るのを待っておったぞ」
 このふたつある内の左側にどっしりと座り、肩ひじをついて偉そうにしているのが紛れもないこの国の“王”である。
「……」
 メーシャは顔に“不満”という文字が浮き出てしまいそうな顔をしている。
「その昔、勇者ゼプトは神から特別な力を授かり、この世界を支配していた悪しき魔王を討ち果たし、闇を払ったという」
『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー。ねえ、デウス! もし、あーしの心の声が聞こえたら返事して欲しいんだけど!』
 メーシャが王の話半分に、心の中でデウスに呼びかける。
『あん? 今めちゃくちゃイイ所だろうが。なんだ?』
 デウスがその呼びかけに応える。
『お! 聞こえてるカンジ? ダメ元だったけど、あーしツイてる!』
 メーシャの顔が明るくなる。
『んで? 何の用だ?』
 デウスが気だるげに訊く。
『なんでさ、謁見の間を魔法の扉で塞いだわけ? しかも、騎士さんは剣に手を置いちゃってるし、大臣のおっさんはめちゃ睨んでくるし。王様すごい偉そうだし』
「しかし、いずこともなく現れた魔界より征服者“ゴッパ”が、その力を奪い、我がモノとしてしまったのじゃ」
 王様は調子を崩すことなく語り続ける。
『そりゃ、お前を逃がさないためと、何かあったら斬るつもりなんだろ。まあ、ここまで来たからには拒否権はないぞ、ってところか』
「このままでは、この国だけでなく世界が怪物たちで溢れ、ヒトや動物たちは滅んでしまうことだろう」
『えー! もっと、イイカンジにもてなしてくれんのかと思ったのに……』
 メーシャは再び不満たっぷりの顔になる。
「勇者メーシャよ、征服者ゴッパを倒し、世界に平和を取り戻してくれ。いいな?」
 ────シャンッ!
 王がニヤリと『いいな?』というと、その言葉に呼応するように、騎士達が剣を抜いて前に構えた。
 どうやら本当に、拒否すれば切り捨ても止む無しといったところなのだろう。
「……」
 メーシャが黙る。
「どうした、黙ってしまって。確かにそなたは若い。故に臆してしまうのも無理からぬ事。しかし、勇者が動かねば誰が世界を救うというのだ」
 少し苛立ちながらも、王はメーシャを諭そうとする。
「え、ちょっと待って!? 普通、ここはなんかくれるとこでしょ?」
 メーシャが驚きのあまり声が少し裏返ってしまう。
「……勇者ともあろう者が、物乞いの真似事か?」
 王の眉間にシワが寄り、怒りも漏れ出ている。
「いくら勇者と言えど、何もせん内から何かを寄越せなど、無礼だぞ!」
 黙っていた大臣が援護射撃をする。
「わお! てか、何か依頼するときって、普通に見返りを提示して交渉するもんだよね!」
 驚きつつも抵抗するメーシャ。
「はぁ……。まさか勇者がこれほどまでの守銭奴とはな。忠告しよう、これは交渉ではなく“命令”だ。それほど受けるのが嫌なら、受けなければ良い。だが、破ればどうなるか、分かっておるのじゃろうな……?」
 王がメーシャに向かって凄む。
「はあ? 別にお金が欲しいわけじゃないんですけど! なんなら120ゴールドとたいまつだけでもイイのに、なんなのその言い方!」
 メーシャは立ち上がって腕を組んだ。
 それに反応して騎士たちがメーシャに剣を向ける。
「くくくくく……。ゴールドとはどこの田舎の単価だ? それにたいまつとは! くくはははははー!」
 王は堪えきれぬという感じで吹き出した。
「陛下、勇者がその程度で命を張ってくれるというなら、くれてやりましょう!」
 大臣も笑いながら提案する。
「おお、そうじゃな! では宝箱にでも入れて、雰囲気だけでも楽しんでもらおうではないか!」
「ではすぐに!」
 そう言って大臣は部屋を出ていった。
「……」
 始終馬鹿にした態度にムカついてしまったが、心の広いメーシャはとりあえず黙って様子を見る事にした。
「しかし、あの、なんだ、勇者の案内を任せた、みすぼらしい男。名前が思い出せぬ……」
「……ダニエル、ですか?」
 一向に名前が出てこないのを見て、ひとりの騎士が答える。
「おお、そうじゃ! あやつが無能で遅いのかと思ったが、このように勇者が面妖な格好をした守銭奴とあれば無理もないかのう!」
 王はメーシャのことを汚らわしいものを見るような目で見る。
「ああ、しかしその兵士……」
 王は先程聞いたというのに名前が出ない様子で、
「ダニエルです」
 また同じ騎士が答える。
「そう、ダニエルが無能である事に変わりはないがな!」
「では、なぜダニエルに勇者の案内を任せたのでしょうか?」
 騎士が王に訊く。
「それは、もし勇者が野蛮なケモノのようなモノであっても、あの程度なら、いくらでも代えがきくからじゃ! 使い捨ての駒じゃ。無能は使い捨てに限るのう! なあ、そう思わんか?」
 にやけながら王が言う。
「それは────」
「あったまきたしー!」
 騎士が答えに困っている所に、メーシャが叫んで割って入る。
「なんじゃ────どぶっふぇあ!?」
 ────ズドーン!!
「え?」
 気付けば王は、玉座ごと壁に叩きつけられていた。そして、それを受けた壁はボロボロになっている。
「あーしを悪く言うのは……、良くないけど、まあイイとして! ダニーのこと代えがきくとか、使い捨てとか、いくら王様だからって許せないんだかんね!」
 メーシャがタコの触手をひきずりつつ、壁に埋まっている王に近づきながら言う。
 そう、メーシャはこの触手で国王を吹き飛ばしたのだ。
「ぐ……。このようなマネをして、タダで済むと思うなよ小娘……!」
 王は壁から抜け出ながら言う。
「タダってなに! あんただって人の命を使い捨てにしようとしたでしょ! 常習犯だね?」
 メーシャは床を触手で鞭のように叩く。
「使い捨てで何が悪い! 王家と路傍の石とでは命の重さが違うであろう!」
「おけ。言いたい事はわかった」
 メーシャがポケットに手を入れてヒデヨシを出す。
「そうであろう! では貴様の行いは万死に値する事も理解したな?」
 王はにやりと笑う。
「ヒデヨシ、ここからはちょい過激だから、外で待機だ!」
 しかし、メーシャは王の言葉をスルーしつつ、ヒデヨシに優しく声を掛ける。
「お、おい! 聞いておるのか!」
 メーシャは踵を返し、魔法のかかった扉の前に行くと、
「じゃま!」
 ────ドゴーン!!
 魔法の鍵がないと開かないはずのその扉を、回し蹴りでぶち破った。
「ひえ!?」
 思わず王は小さな悲鳴を上げる。
「……」
 そして、黙ったまま謁見の間を出て、少し曲がったところにヒデヨシを降ろす。
「チュ?」
「ちょっとそこで待ってて。あーし、あの王様にガツンといってくっから!」
 メーシャは笑顔でヒデヨシの頭を撫でたかと思うと、次の瞬間真剣な顔になり、また謁見の間に戻って行った。
『ヒデヨシ、ありゃ相当怒ってるぜ。今は近付かない方が身のためだな。へへっ!』
 デウスが楽しそうにヒデヨシに声を掛ける。
「チュー……」
 心配そうに鳴くヒデヨシだが、
『メーシャは心配しなくても大丈夫だろ! ああ、王様の心配はした方がいいかもな!』
「チウチウ」
 そして、静寂が訪れたかと思った次の瞬間。
『────ぎぃえ~! やめろ、やめ、やめてくれー! おごごごご? ひぃえ~!』
 王の断末魔? が聞こえ始めた。
『ちゃんと、ごめんなさいしろし!』
『あぎゃ~!? 何がどうなって? あひゃひゃ、あ? ごめんなさいー!!』
『へ、陛下……!』
 騎士が狼狽える声も聞こえる。
『何に謝ってんのかわかってんの? それに、謝っても、これまで使い捨てにされた子たちは戻ってこないんだかんね! それもわかってんの!?』
『あ~ぎゃー! 分かりましたー! 分かりましたからもうやめて!』
『とどめだ!』
『ぎゅうをわ────────!!?』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...