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初陣と3つの黒い影
8話 『悪い子にはガツンだ!』
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「……」
アレッサンドリーテ城謁見の間。騎士はメーシャをここに通すとひざまずかせた後、それぞれ王の横にひとり、大臣の横にひとり、入り口にふたりと配置についた。
「────よくぞ参ったな、勇者メーシャよ。そなたが来るのを待っておったぞ」
このふたつある内の左側にどっしりと座り、肩ひじをついて偉そうにしているのが紛れもないこの国の“王”である。
「……」
メーシャは顔に“不満”という文字が浮き出てしまいそうな顔をしている。
「その昔、勇者ゼプトは神から特別な力を授かり、この世界を支配していた悪しき魔王を討ち果たし、闇を払ったという」
『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー。ねえ、デウス! もし、あーしの心の声が聞こえたら返事して欲しいんだけど!』
メーシャが王の話半分に、心の中でデウスに呼びかける。
『あん? 今めちゃくちゃイイ所だろうが。なんだ?』
デウスがその呼びかけに応える。
『お! 聞こえてるカンジ? ダメ元だったけど、あーしツイてる!』
メーシャの顔が明るくなる。
『んで? 何の用だ?』
デウスが気だるげに訊く。
『なんでさ、謁見の間を魔法の扉で塞いだわけ? しかも、騎士さんは剣に手を置いちゃってるし、大臣のおっさんはめちゃ睨んでくるし。王様すごい偉そうだし』
「しかし、いずこともなく現れた魔界より征服者“ゴッパ”が、その力を奪い、我がモノとしてしまったのじゃ」
王様は調子を崩すことなく語り続ける。
『そりゃ、お前を逃がさないためと、何かあったら斬るつもりなんだろ。まあ、ここまで来たからには拒否権はないぞ、ってところか』
「このままでは、この国だけでなく世界が怪物たちで溢れ、ヒトや動物たちは滅んでしまうことだろう」
『えー! もっと、イイカンジにもてなしてくれんのかと思ったのに……』
メーシャは再び不満たっぷりの顔になる。
「勇者メーシャよ、征服者ゴッパを倒し、世界に平和を取り戻してくれ。いいな?」
────シャンッ!
王がニヤリと『いいな?』というと、その言葉に呼応するように、騎士達が剣を抜いて前に構えた。
どうやら本当に、拒否すれば切り捨ても止む無しといったところなのだろう。
「……」
メーシャが黙る。
「どうした、黙ってしまって。確かにそなたは若い。故に臆してしまうのも無理からぬ事。しかし、勇者が動かねば誰が世界を救うというのだ」
少し苛立ちながらも、王はメーシャを諭そうとする。
「え、ちょっと待って!? 普通、ここはなんかくれるとこでしょ?」
メーシャが驚きのあまり声が少し裏返ってしまう。
「……勇者ともあろう者が、物乞いの真似事か?」
王の眉間にシワが寄り、怒りも漏れ出ている。
「いくら勇者と言えど、何もせん内から何かを寄越せなど、無礼だぞ!」
黙っていた大臣が援護射撃をする。
「わお! てか、何か依頼するときって、普通に見返りを提示して交渉するもんだよね!」
驚きつつも抵抗するメーシャ。
「はぁ……。まさか勇者がこれほどまでの守銭奴とはな。忠告しよう、これは交渉ではなく“命令”だ。それほど受けるのが嫌なら、受けなければ良い。だが、破ればどうなるか、分かっておるのじゃろうな……?」
王がメーシャに向かって凄む。
「はあ? 別にお金が欲しいわけじゃないんですけど! なんなら120ゴールドとたいまつだけでもイイのに、なんなのその言い方!」
メーシャは立ち上がって腕を組んだ。
それに反応して騎士たちがメーシャに剣を向ける。
「くくくくく……。ゴールドとはどこの田舎の単価だ? それにたいまつとは! くくはははははー!」
王は堪えきれぬという感じで吹き出した。
「陛下、勇者がその程度で命を張ってくれるというなら、くれてやりましょう!」
大臣も笑いながら提案する。
「おお、そうじゃな! では宝箱にでも入れて、雰囲気だけでも楽しんでもらおうではないか!」
「ではすぐに!」
そう言って大臣は部屋を出ていった。
「……」
始終馬鹿にした態度にムカついてしまったが、心の広いメーシャはとりあえず黙って様子を見る事にした。
「しかし、あの、なんだ、勇者の案内を任せた、みすぼらしい男。名前が思い出せぬ……」
「……ダニエル、ですか?」
一向に名前が出てこないのを見て、ひとりの騎士が答える。
「おお、そうじゃ! あやつが無能で遅いのかと思ったが、このように勇者が面妖な格好をした守銭奴とあれば無理もないかのう!」
王はメーシャのことを汚らわしいものを見るような目で見る。
「ああ、しかしその兵士……」
王は先程聞いたというのに名前が出ない様子で、
「ダニエルです」
また同じ騎士が答える。
「そう、ダニエルが無能である事に変わりはないがな!」
「では、なぜダニエルに勇者の案内を任せたのでしょうか?」
騎士が王に訊く。
「それは、もし勇者が野蛮なケモノのようなモノであっても、あの程度なら、いくらでも代えがきくからじゃ! 使い捨ての駒じゃ。無能は使い捨てに限るのう! なあ、そう思わんか?」
にやけながら王が言う。
「それは────」
「あったまきたしー!」
騎士が答えに困っている所に、メーシャが叫んで割って入る。
「なんじゃ────どぶっふぇあ!?」
────ズドーン!!
「え?」
気付けば王は、玉座ごと壁に叩きつけられていた。そして、それを受けた壁はボロボロになっている。
「あーしを悪く言うのは……、良くないけど、まあイイとして! ダニーのこと代えがきくとか、使い捨てとか、いくら王様だからって許せないんだかんね!」
メーシャがタコの触手をひきずりつつ、壁に埋まっている王に近づきながら言う。
そう、メーシャはこの触手で国王を吹き飛ばしたのだ。
「ぐ……。このようなマネをして、タダで済むと思うなよ小娘……!」
王は壁から抜け出ながら言う。
「タダってなに! あんただって人の命を使い捨てにしようとしたでしょ! 常習犯だね?」
メーシャは床を触手で鞭のように叩く。
「使い捨てで何が悪い! 王家と路傍の石とでは命の重さが違うであろう!」
「おけ。言いたい事はわかった」
メーシャがポケットに手を入れてヒデヨシを出す。
「そうであろう! では貴様の行いは万死に値する事も理解したな?」
王はにやりと笑う。
「ヒデヨシ、ここからはちょい過激だから、外で待機だ!」
しかし、メーシャは王の言葉をスルーしつつ、ヒデヨシに優しく声を掛ける。
「お、おい! 聞いておるのか!」
メーシャは踵を返し、魔法のかかった扉の前に行くと、
「じゃま!」
────ドゴーン!!
魔法の鍵がないと開かないはずのその扉を、回し蹴りでぶち破った。
「ひえ!?」
思わず王は小さな悲鳴を上げる。
「……」
そして、黙ったまま謁見の間を出て、少し曲がったところにヒデヨシを降ろす。
「チュ?」
「ちょっとそこで待ってて。あーし、あの王様にガツンといってくっから!」
メーシャは笑顔でヒデヨシの頭を撫でたかと思うと、次の瞬間真剣な顔になり、また謁見の間に戻って行った。
『ヒデヨシ、ありゃ相当怒ってるぜ。今は近付かない方が身のためだな。へへっ!』
デウスが楽しそうにヒデヨシに声を掛ける。
「チュー……」
心配そうに鳴くヒデヨシだが、
『メーシャは心配しなくても大丈夫だろ! ああ、王様の心配はした方がいいかもな!』
「チウチウ」
そして、静寂が訪れたかと思った次の瞬間。
『────ぎぃえ~! やめろ、やめ、やめてくれー! おごごごご? ひぃえ~!』
王の断末魔? が聞こえ始めた。
『ちゃんと、ごめんなさいしろし!』
『あぎゃ~!? 何がどうなって? あひゃひゃ、あ? ごめんなさいー!!』
『へ、陛下……!』
騎士が狼狽える声も聞こえる。
『何に謝ってんのかわかってんの? それに、謝っても、これまで使い捨てにされた子たちは戻ってこないんだかんね! それもわかってんの!?』
『あ~ぎゃー! 分かりましたー! 分かりましたからもうやめて!』
『とどめだ!』
『ぎゅうをわ────────!!?』
アレッサンドリーテ城謁見の間。騎士はメーシャをここに通すとひざまずかせた後、それぞれ王の横にひとり、大臣の横にひとり、入り口にふたりと配置についた。
「────よくぞ参ったな、勇者メーシャよ。そなたが来るのを待っておったぞ」
このふたつある内の左側にどっしりと座り、肩ひじをついて偉そうにしているのが紛れもないこの国の“王”である。
「……」
メーシャは顔に“不満”という文字が浮き出てしまいそうな顔をしている。
「その昔、勇者ゼプトは神から特別な力を授かり、この世界を支配していた悪しき魔王を討ち果たし、闇を払ったという」
『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー。ねえ、デウス! もし、あーしの心の声が聞こえたら返事して欲しいんだけど!』
メーシャが王の話半分に、心の中でデウスに呼びかける。
『あん? 今めちゃくちゃイイ所だろうが。なんだ?』
デウスがその呼びかけに応える。
『お! 聞こえてるカンジ? ダメ元だったけど、あーしツイてる!』
メーシャの顔が明るくなる。
『んで? 何の用だ?』
デウスが気だるげに訊く。
『なんでさ、謁見の間を魔法の扉で塞いだわけ? しかも、騎士さんは剣に手を置いちゃってるし、大臣のおっさんはめちゃ睨んでくるし。王様すごい偉そうだし』
「しかし、いずこともなく現れた魔界より征服者“ゴッパ”が、その力を奪い、我がモノとしてしまったのじゃ」
王様は調子を崩すことなく語り続ける。
『そりゃ、お前を逃がさないためと、何かあったら斬るつもりなんだろ。まあ、ここまで来たからには拒否権はないぞ、ってところか』
「このままでは、この国だけでなく世界が怪物たちで溢れ、ヒトや動物たちは滅んでしまうことだろう」
『えー! もっと、イイカンジにもてなしてくれんのかと思ったのに……』
メーシャは再び不満たっぷりの顔になる。
「勇者メーシャよ、征服者ゴッパを倒し、世界に平和を取り戻してくれ。いいな?」
────シャンッ!
王がニヤリと『いいな?』というと、その言葉に呼応するように、騎士達が剣を抜いて前に構えた。
どうやら本当に、拒否すれば切り捨ても止む無しといったところなのだろう。
「……」
メーシャが黙る。
「どうした、黙ってしまって。確かにそなたは若い。故に臆してしまうのも無理からぬ事。しかし、勇者が動かねば誰が世界を救うというのだ」
少し苛立ちながらも、王はメーシャを諭そうとする。
「え、ちょっと待って!? 普通、ここはなんかくれるとこでしょ?」
メーシャが驚きのあまり声が少し裏返ってしまう。
「……勇者ともあろう者が、物乞いの真似事か?」
王の眉間にシワが寄り、怒りも漏れ出ている。
「いくら勇者と言えど、何もせん内から何かを寄越せなど、無礼だぞ!」
黙っていた大臣が援護射撃をする。
「わお! てか、何か依頼するときって、普通に見返りを提示して交渉するもんだよね!」
驚きつつも抵抗するメーシャ。
「はぁ……。まさか勇者がこれほどまでの守銭奴とはな。忠告しよう、これは交渉ではなく“命令”だ。それほど受けるのが嫌なら、受けなければ良い。だが、破ればどうなるか、分かっておるのじゃろうな……?」
王がメーシャに向かって凄む。
「はあ? 別にお金が欲しいわけじゃないんですけど! なんなら120ゴールドとたいまつだけでもイイのに、なんなのその言い方!」
メーシャは立ち上がって腕を組んだ。
それに反応して騎士たちがメーシャに剣を向ける。
「くくくくく……。ゴールドとはどこの田舎の単価だ? それにたいまつとは! くくはははははー!」
王は堪えきれぬという感じで吹き出した。
「陛下、勇者がその程度で命を張ってくれるというなら、くれてやりましょう!」
大臣も笑いながら提案する。
「おお、そうじゃな! では宝箱にでも入れて、雰囲気だけでも楽しんでもらおうではないか!」
「ではすぐに!」
そう言って大臣は部屋を出ていった。
「……」
始終馬鹿にした態度にムカついてしまったが、心の広いメーシャはとりあえず黙って様子を見る事にした。
「しかし、あの、なんだ、勇者の案内を任せた、みすぼらしい男。名前が思い出せぬ……」
「……ダニエル、ですか?」
一向に名前が出てこないのを見て、ひとりの騎士が答える。
「おお、そうじゃ! あやつが無能で遅いのかと思ったが、このように勇者が面妖な格好をした守銭奴とあれば無理もないかのう!」
王はメーシャのことを汚らわしいものを見るような目で見る。
「ああ、しかしその兵士……」
王は先程聞いたというのに名前が出ない様子で、
「ダニエルです」
また同じ騎士が答える。
「そう、ダニエルが無能である事に変わりはないがな!」
「では、なぜダニエルに勇者の案内を任せたのでしょうか?」
騎士が王に訊く。
「それは、もし勇者が野蛮なケモノのようなモノであっても、あの程度なら、いくらでも代えがきくからじゃ! 使い捨ての駒じゃ。無能は使い捨てに限るのう! なあ、そう思わんか?」
にやけながら王が言う。
「それは────」
「あったまきたしー!」
騎士が答えに困っている所に、メーシャが叫んで割って入る。
「なんじゃ────どぶっふぇあ!?」
────ズドーン!!
「え?」
気付けば王は、玉座ごと壁に叩きつけられていた。そして、それを受けた壁はボロボロになっている。
「あーしを悪く言うのは……、良くないけど、まあイイとして! ダニーのこと代えがきくとか、使い捨てとか、いくら王様だからって許せないんだかんね!」
メーシャがタコの触手をひきずりつつ、壁に埋まっている王に近づきながら言う。
そう、メーシャはこの触手で国王を吹き飛ばしたのだ。
「ぐ……。このようなマネをして、タダで済むと思うなよ小娘……!」
王は壁から抜け出ながら言う。
「タダってなに! あんただって人の命を使い捨てにしようとしたでしょ! 常習犯だね?」
メーシャは床を触手で鞭のように叩く。
「使い捨てで何が悪い! 王家と路傍の石とでは命の重さが違うであろう!」
「おけ。言いたい事はわかった」
メーシャがポケットに手を入れてヒデヨシを出す。
「そうであろう! では貴様の行いは万死に値する事も理解したな?」
王はにやりと笑う。
「ヒデヨシ、ここからはちょい過激だから、外で待機だ!」
しかし、メーシャは王の言葉をスルーしつつ、ヒデヨシに優しく声を掛ける。
「お、おい! 聞いておるのか!」
メーシャは踵を返し、魔法のかかった扉の前に行くと、
「じゃま!」
────ドゴーン!!
魔法の鍵がないと開かないはずのその扉を、回し蹴りでぶち破った。
「ひえ!?」
思わず王は小さな悲鳴を上げる。
「……」
そして、黙ったまま謁見の間を出て、少し曲がったところにヒデヨシを降ろす。
「チュ?」
「ちょっとそこで待ってて。あーし、あの王様にガツンといってくっから!」
メーシャは笑顔でヒデヨシの頭を撫でたかと思うと、次の瞬間真剣な顔になり、また謁見の間に戻って行った。
『ヒデヨシ、ありゃ相当怒ってるぜ。今は近付かない方が身のためだな。へへっ!』
デウスが楽しそうにヒデヨシに声を掛ける。
「チュー……」
心配そうに鳴くヒデヨシだが、
『メーシャは心配しなくても大丈夫だろ! ああ、王様の心配はした方がいいかもな!』
「チウチウ」
そして、静寂が訪れたかと思った次の瞬間。
『────ぎぃえ~! やめろ、やめ、やめてくれー! おごごごご? ひぃえ~!』
王の断末魔? が聞こえ始めた。
『ちゃんと、ごめんなさいしろし!』
『あぎゃ~!? 何がどうなって? あひゃひゃ、あ? ごめんなさいー!!』
『へ、陛下……!』
騎士が狼狽える声も聞こえる。
『何に謝ってんのかわかってんの? それに、謝っても、これまで使い捨てにされた子たちは戻ってこないんだかんね! それもわかってんの!?』
『あ~ぎゃー! 分かりましたー! 分かりましたからもうやめて!』
『とどめだ!』
『ぎゅうをわ────────!!?』
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