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幼女+紳士さん

37話 〜神話を彩る花フィオテリーチェ〜

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「……にげろ!」
 身の危険を感じたステラは、慌てて逃げ出した。だが、
「逃さぬ!」
「あう!?」
 オルランドは逃げようとしたステラを見事に捕まえ、簡単に逃げ出さないようにお腹を抱えて前向きに抱っこした。
「む~……!」
「ステラ、町の外に行ってはダメだと言ったであろう。お金が必要だったにしても、何故黙って出ていったのだ?」
「オルランドさん、あまりステラちゃんを怒らないでやってください。私に怒られないように気を遣ってくれたとマーナから聞いています……」
「ですが、外にはモンスターだけでなく、悪い大人だっているかもしれません。それが優しさだとしても、危険な行為には違いありませんよ」
「あ、あの……。おるにゃんさんですよね? ごめんなさい……。わたしが、ブレスレットこわしちゃったから……。ステラちゃんは、わるくないの」
 マーナがオルランドの顔色を伺いながら頭を下げた。
「マーナちゃんは、わるくない! ステラがもりまで、つれていっちゃったんだもん!」
 ステラはマーナを庇う。
「でも、わたしが、ないてたから……!」
「でもじゃない!」
「こらこら、わかったから喧嘩はよしなさい」
 オルランドが仲裁に入る。
「おるにゃん、わるいのはステラだよ!」
「いや、今回の事に関してはどちらも悪いとしか、言いようがないな」
「む~! おるにゃんの、わからずや!」
 ステラが怒ってしまった。
「わからず屋などではない! ……まあ、それはともかく、ふたりとも怪我もなく帰って来れたのだ。今回については初めてという事を考えて、私からは不問としよう」
 オルランドはため息をついて、ふたりを許した。
「えっ!? いいの?」
「あっ、えっ? あ、ありがとうございます!」
 ステラとマーナが驚く。どうやら、何かしらの罰があると思っていたようだ。
「だが、次から町の外に出る時は誰かに伝えて、必ず大人と一緒にだ。わかったな、ふたりとも?」
「うん!」
「はい!」
ステラとマーナは元気よく返事をする。
「勝手に決めてしまったが、良かっただろうか?」
 オルランドがマーナのお母さんに訊いた。
「ええ、ありがとうございます。マーナにはよく言って聞かせましたし、私からはもう、言うことはありません」
「そうですか。そう言えば、ふたりが何故外に出たと分かったんでしょうか?」
「ああ、この薬草です」
 マーナのお母さんがカバンから薬草の葉っぱを出して、オルランドに手渡した。
「この薬草はなんですか?」
「店で売られることが滅多にない。売られたとしても、高過ぎて庶民ではなかなか手が出ないような貴重な代物です。そんな物を持っていたものですから、マーナに訊いたんです」
「そんなものが何故?」
「マーナ」
「はい。あの、おそとにでて、もりのなかの、おはなばたけで、キラキラしてるしかさんに、もらいました……」
 マーナが緊張しながら教えてくれた。
「キラキラしている鹿?」
「西の森にいたそうです。でも、その鹿というのが、動物にしてもモンスターにしても調べたところで何かわかりませんでした。それに、昨日何人かで西の森に行って夜まで花畑を探したんですけど、結局見つかりませんでした。詳しいヒトに訊いたんですが、今はもう花畑は失われてしまったと言われました」
「見間違い、では無さそうか。こうして薬草証拠があるものな……。では、犯罪に巻き込まれたか、誰かの落とし物という線はないでしょうか?」
 オルランドが顎に手を当てて思案する。
「勝手ながら、先に警察の方に知らせました。魔法でこの薬草のを読み取って、近日中に教えてくれるそうです」
「ほんとなのに! ね、マーナちゃん!」
 犯罪だとか花畑の話をにわかに信じられていない大人に、ステラは怒ってしまった。
「う、うん……」
『あ、マーナちゃん。あの、みせちゃったの?』
 ステラがマーナに耳打ちする。
 おはなとは、あの花畑で鹿から持っていくように言われた花の事である。
『いってないよ』
『……いっちゃう?』
『う~ん……。いう?』
「おるにゃん、マーナちゃんママ!」
 ステラはマーナと話し合いの結果、花についても言う事にした。
「なんだ、ステラ?」
「どうしたの、ステラちゃん?」
「あのね、これ!」
 ステラがポケットから黄色の花を見せた。
「これは?」
「マーナちゃもね、しろいのもってるの。それでね、これもおはなばたけで、しかさんからもらった」
「うん。これ……」
 マーナも小さなカバンから白い花を取り出した。
「何の花であろうか……? どうやらを発生させている故、特別なものであるのは確かだが……」
 オルランドがステラから花を借りて、色んな角度から花を観察する。
 花は自身が発生させた小さなマナの結晶でキラキラ輝いている。
 マナとは、魔力や生命力など全ての力の源である。
 魔力は魔法や道具などを動かすため、生命力は文字通り生物等が生きるためのエネルギーだ。
 そして、消費されたエネルギーはまたマナになり、現と幻想の間に戻ると言われている。
「とくべつ?」
 ステラが尋ねた。
「ああ。マナはな、基本的に世界で循環する故、新たに発生する事は稀なのだ。だが、たまにこうして自ら作り出すモノがあってな、珍しさか生み出すエネルギーの多さからか、それらは彼の昔、王の権力の象徴であったり、それには神が宿ると信じられ崇められたりとしたものだ」
「へ~」
「ママ、どうしたの……?」
 マーナが花を見てからずっと黙っているママを心配する。
「こ、これは……」
 マーナのママが息を飲む。
「何か知っているんですね?」
「はい……。これはです。邪を祓い慈しみを与えると言われています」
「フィオテリーチェの花……。神の名を冠する花」
 オルランドが目を見開く。
 フィオテリーチェとは光の行を司る王で、この世界の神である。
「遙か昔、この地にも咲いていたと言われていますが、いつの頃からか姿を消してしまった花です。今は情報と過去を読み取る魔法で何とかホログラム化できる程度で、私は実物を見た事が無いんですが、見た目も特徴も、それにそっくりなんです」
「もし、それが本当だとして、どういった花なのだろうか?」
「神話や昔話に出てきたものですから、本当かわかりませんが……」
「構いませんよ」
「では……。嘗て邪神が世界を混沌に染めた時、王がこの花の力を使って世界を蘇らせたと言われています。その後の時代の話でも、邪悪なるモノが現れるとこの花が出てきて、それを打ち祓う力にしたり、平和を取り戻すのに使われたりしています」
「凄まじい花ですね……」
「その"邪神"や"王"と言うのが何を指すのかは分かりませんし、世界を蘇らせたと言うのも、病気や怪我を治したのだろうとは思います。ですが、何にしても、この花の発見は、"世紀の発見"では済まされない凄いことですよ!」
「……となると、先程の薬草や花畑も信憑性を増しますね」
『ステラちゃん、なんかよくわからないけど、たいへんなことになっちゃった?』
『ん~。でも、おこられなさそうだよ?』
『なら、いいのかな?』
 マーナとステラが小声で話している。
「……私、仕事で魔法機械の開発をしてまして、魔力研究にも携わっているんですけど、この花について仲間と調べてみてもいいですか?」
 マーナのママが意を決してオルランドに言う。
「構いませんが、研究してどうするつもりですか?」
「この花が世に出てきたと言う事は、つまり世界の危機が迫っていると言う事ですよね? この前勇者や魔王が、ラードロ率いる邪神を倒したってニュースになってましたけど、それで終わりではないかもしれません。もしそうなら、戦闘職の方だけでなく、家族や大切なヒトを守るために、私たち一般市民もラードロの対抗手段が必要なんです。そして、この花を研究し解き明かせば、何かの役に立つかもしれません!」
 マーナママは話に熱が入っている。
「言いたい事はわかりました。ですが、マーナちゃんの母君の組織は、信用できますか? 万が一情報漏洩して研究や計画がダメになってしまっては元も子もないですよ」
 オルランドが強めの口調で言う。
「信用できる、と言いたいところですが……。大手とは言え一般企業です。万が一が無いとは限りません」
 マーナママは唇を噛んだ。
「……でしたら、私の友人に魔機方面に詳しいモノがいますから、情報管理も厳重な所を訊いておきましょう」
「そうなんですか?」
「ええ。パルトネルはご存知ですね?」
「はい。私も持っていますが……?」
 マーナママが首を傾げる。
「パルトネル開発の第一人者のひとり言えば、その優秀さを理解できますか?」
 オルランドは、自分の事でもないのに恐ろしい程のドヤ顔で言った。最近踏んだり蹴ったりで、ドヤれる機会が皆無なので我慢できなかったのだろう。
「す、すごい……! それって、世界最高峰じゃないですか!」
 マーナママは分かりやすく感動し、オルランドに羨望の眼差しを送っている。
「でしょ?」
 オルランドは走り出したい気持ちを抑えて冷静に返事をする。
 だが、オルランドの心の中では、コンディション最高で初日の出を見て、お年玉を貰って、ついでに糸が絡まったり地面に擦る事なくスムーズに凧が上がったような幸福感を感じていた。
「では、お願いします!」
 マーナママが頭を下げた。
「もしかすると別の国に移動するかもしれないので、その辺りは担当と色々相談して決めて下さい」
「は、はい……」
「それと、ステラの花はどうしましょうか?」
「ステラのは、ステラのだからダメ!」
 ステラがオルランドから花を取り返し、素早くポケットにしまった。
「あはは……。ステラちゃんからとっちゃうのはかわいそうですから、とりあえずマーナのだけで大丈夫です」
「では、連絡先と名前を教えて貰えますか?」
 オルランドがポケットから紙とペンを取り出し、マーナママに渡した。
「あ、紙なんですね?」
「どうかしましたか?」
『ああ、ハッキングとかされると困るからか……』
 パルトネルで連絡先の転送をしようとしたマーナママが戸惑ってしまう。だが、何とか自分の中で納得した。
「……いえ、なんでもありません。私はクオーラ·ストレッタで、連絡先は……はい! これです」
 マーナママが紙に名前と連絡先を書いてオルランドに返した。
「では、後日連絡しますので宜しくお願いします」
 オルランドはゴキゲンで言う。
「こちらこそ宜しくお願いします」
 マーナママもゴキゲンだった。
 片や世界のためと崇高な理由にも係わらず、片や久しぶりの愉悦に酔いしれていると言う残念っぷりだ。
「マーナちゃん、おこられなさそいで、よかったね」
「うん。ステラちゃんも、おそとにでたの、おこられなさそうで、よかったね」
「うん。もうすこし、まってよっか」
「うん。そうだね」
 舞い上がっている大人とは裏腹に、ステラとマーナは冷静に大人しくしていた。
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