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思ったよりちゃんとしたアドバイス

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「お、おはよう。そろそろ姉さんが限界だと思うから、森に送還してもらっていい……かな?」

 寝起きにサンドリアが言った。

 ん、ああ……。昨日は一体何がどうなったんだっけ?

 部屋を見渡すと誰もいない。綺麗に整えられた部屋、ベッドに僕だけが横たわっている。みんな早起きだなあ……。

「ああ……おはよう。そうだね。気付かなかったよ。ラミアルカによろしくね」

 限界ってのは性欲的な意味だな。ラミアルカは亜人トップクラスの性欲の持ち主だと思う。次点でベス、横並びでサンドリア、プテュエラ。最後にシュレアだな。彼女は別に繁るの嫌いじゃないみたいなんだけど、樹木ベースだからか他の亜人と比べると少し淡白だ。やっぱり持ってる奴は、いや生えている奴は違うぜ。

 それにしても最近サンドリアは、率直に言いたいことを言うようになってきた。良いことだし、嬉しい。そして起こしに来てくれたかのかな。優しい。なでなでしたい。初めて逢った時はラミアルカを守ろうとして精一杯攻撃的な口調になっていたんだな、と思うと萌える。

「うん。また何かあったら呼んでね」

「な、なんで撫でるの」

 いつの間にか手が勝手に動いていた。仕方ない、これが……本能なんだよ。

 煤けたいい匂いのする茶髪をひとしきり撫でた後、気弱三白眼ヤンキーちゃんは、はにかみながら送還され絶死の森に戻った。まあ、また呼ぶけどね。ラミアルカも呼びたいけど、うかつに呼び出すとカリンとかシルビアとか性欲的な意味で食べられそうで不安なんだよな……。

 うーん、と背伸びする。ご飯食べよ。部屋から出て大部屋に向かう。

「「「ふぉぉぉぉぉおおおお!!!」」」

 すると子供たちの歓声が聞こえてきた。なんだ?

 扉を開けると、ルーナが剣に寄りかかり地に膝を突いていた。肩で大きく息をしている。横ではマイアがおろおろ立ちすくんでいた。

 それをうんうん、と偉そうに眺めるベステルタ。

 なんだこれ?

「すっげ! すっげ!」

「ベステルタ様、ぱーってうごいた!」

「るーな、ぼこぼこだった!」

 子供たちはおおはしゃぎだ。ルーナさんって言え。あとぼこぼこはあかんやろ。

「ケイ、遅いわよ。初心者講習行くんでしょ」

「私も見に行っていいか? 護衛が来たのだし、少しは離れてもいいだろう?」

 いやいや、説明してよ。状況がよく分からないのだが?

「くっ、これ程とは」

 ルーナが悔しそうに呟いた。何? バトったの?

「ケイ様、わたくしが説明します」
 
 見かねたカリンが説明してくれた。

「わたくしが仕事についてルーナ、マイアと打ち合わせしている所へ亜人様方がやって来ました。そしてベステルタ様がルーナに彼女の武器を渡し、闘いが始まりました。ルーナは負けました」

 実に簡潔な説明だ。ふむふむ。

 なるほど、分からん。

「御主人様、おそらくベステルタ様は私の実力を測ったのだと思います」

 ルーナはすっと立ち上がり、マイアからタオルを受け取って汗を拭いた。あ、ダメージ無さそうだな。単に疲れていただけか。

「ルーナを試したの?」

 ベステルタをちょっと睨む。ルーナはこれから護衛で体力使うんだが? 昨日も体力使ったし。それは僕のせいだけどな。

「そうよ。ここはジオス教徒がたくさんいる大切な場所だもの。半端な者には任せられないわ」

 もちろん寸止めしたから大丈夫よ、と真剣な表情で返された。うっ、なんだ。てっきりストレス発散するために絡んだのかと思ったよ。

「ん? ベス、さっき『冒険前の良い運動になるわ』って言っていたじゃないか」

「プテュエラは留守番ね」

「そんなっ」

 目の前でコントを繰り広げる亜人を溜息を吐いて眺める。

「ごほん。それで、ルーナの実力はどう?」

 ベステルタはファサ……と髪をなびかせ何も無かったかのように僕に向き直った。いや、無かったことになんてならないし。後ろではプテュエラがしょんぼりしている。

「んー。悪くないわ。正直、剣の腕はそこそこだけど、立ち回りに工夫があったわね。周りにあるものを投げようとしていたし。辺りを見渡して利用できる物を探していたから、人間ならかなりやりづらいんじゃない? たぶん、彼女は何でもありの状況の方がもっと強いでしょう。
 ただ、私くらいのレベルだとそれは隙でしかないわよ? 圧倒的格上と対峙した時の対処も考えておくべきね」

 思ったよりちゃんとしたアドバイスをくれた。上から目線なのは強者の余裕なんだろうな。こればっかは仕方ない。

 そしてルーナのは、あれだな。環境利用闘法ってやつだな。さすがに奴隷の身で孤児院の物を投げるのは不味いと思ったんだろう。実力を出しきれていなさそうだ。

「あと、これはケイに提案だけど早く追加の戦力を揃えた方がいいわ。ルーナは個人よりも誰かと組ませるかチームで実力を発揮するタイプよ。単独でもしぶとく生き残るでしょうけどね」

 ほー? そういうもんか。攪乱とか嫌がらせに特化しているのかな。確かに小さいころから奴隷兵として生き残ってきたんだから、そこら辺の手札は多そうだよね。頼りになる前衛の側で輝くタイプかもな。サッカーなら2トップの一角、ストライカーの横の汗かき役みたいな。

 ベステルタの言葉をルーナに伝えると。

「おっしゃる通りです。しかし、たとえ環境を利用できたとしても倒される時間が少しだけ延びただけでしょう。まったく、動きが見えませんでした。やはり我流の付け焼き刃は駄目ですね。正規兵で無くては……。これでは奴隷の価値はありません」

 ルーナが無表情のまま少し俯いた。もしかして正規兵にコンプレックスあるのかな。

 うーん、良くない方向に落ち込み始めている。そんなことないよって励ましたい。

「そ、そんなことありません。私は素人ですけど、ルーナさんは凄かったです。たぶん、ですけど常に私や子供たち、カリン様を守るように動いていました」

 マイアが先にフォローに回った。昨日めっちゃルーナに躾けられただろうに。優しいな。

「マイアの言う通りだよ。室内でしかも接近戦。さらに、よーいドンの勝負でベステルタに勝つなんて、人じゃまず無理だよ。フレイムベアを一撃で倒すんだよ? 気にすることないさ。それよりもルーナが皆を守るように動いていたことが嬉しいし、もっと大切だよ。そのための護衛なんだからね。君を雇って正解だったな」

 続けて僕も援護射撃。でも本当にこの通りだよ?

 最後までカリンたちを守る護衛。冷酷だけどそのために購入したんだからね。無論、そんな状況にさせるつもりはないけど。

「……過分な評価です。今後も精進して参ります」

 声が明るくなった。ちょっと元気出してくれたかな? 是非そうであってほしい。ルーナは夜も最高だからね。

「……マイアも、ありがとう」

 ぽつりとルーナ。あら?

「いえっ! ほんとにすごかったです! かっこよくて憧れちゃいます……」

 あらー? これは、きましたわ? どんどん仲良くなってくれ。僕の精神がその分安定するからね。

 マイアも雇って良かったよ。この子は根に持つタイプじゃなさそうだし、裏表も無い。明るくて元気いっぱいぱいだ。純粋にいい子。

「もー……朝から何? こちとらすぐ近くで偉い使徒様が万年盛ってるから寝不足だっていうのに……訓練でも始めたの? ふわぁ」

 そこへ寝癖ぼさぼさのシルビアが現れた。それは……申し訳ない。防音してても振動は伝わるのかな。

 マイアはそんなシルビアに気付かない。

「私はお乳出すことしかできませんからっ。えへへ」

 あっ。

 静寂。
 
「……お乳?」

 シルビアが眉を潜めた。やっば。

「べ、ベステルタ。初心者講習に行こうか?」

「ええ、行きましょう。楽しみね」

 ベステルタがずんずん歩いていく。よし、言葉が伝わらないのが功を奏したぞ。

「ねえちょっとお乳ってなに?」

 シルビアが僕に詰め寄る。くっ、シラを切り通さなければ。

「よくわからないな乳は乳でしょ、作業が乳として進まぬ、なんちって。じゃあちょっと行ってくる」

「はあ?」

 よし謎のダジャレで煙に巻いたぞ。

 納得いかなそうなシルビアがマイアを問い詰める。あわあわしているがここは彼女の奴隷的口の堅さにかけるしかない。頼む口裏合わせてくれ……目くばせするが気付かない。

「……」

 こくり、とルーナが頷いた。何て気が利くどれーなんだ。ありがとうありがとう。

「二人とも、信じているからね……」

 帰ってきて途端に簀巻きにされて罵られ侮蔑の視線で見られるかどうか、が懸かっている。あれ、それってもしかしてご褒美かな?

「さあ、ケイ! 行くわよ! 冒険がわたしを待っているわ!」

 ライダースーツを着込んで無邪気に歩いていくベステルタ。まあ、彼女が幸せそうならいいんだけどさ。
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