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フレイムラグー

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 繁殖術って身も蓋も無い言い方……。

 ていうか僕はまだ繁殖できていないのだが。それとも、あれか。夜の手練手管を教えてほしいのか? 無駄にレベルの高い房中術スキルを教えることになるのか?

「ザルド、それはその、房中術のこと言っているのかな?」

「ひん、そうです。リザードマンでは繁殖術って言ってます」

 うわー、正解。マジか。どうしたもんかな。教えるって実践しているところ見せるってことでしょ? 娼館とかでさ。

 百歩譲っていいとして、こんなショタと娼館入ったら即お縄だよ。

「ごめんね、ザルド。君はまだ小さいから無理かな」

「ひん! ザルドはレベル上げれば大きくなります! 戦えます!」

 力強い意志が感じられる。
 さっきカリンが言ってたやつか。主人公っぽいけど、言っている内容はちょっとアレだ。

 ……まてよ。ザルドは見ての通り美少年だ。成長したら超イケメンになるに違いない。そしたら師匠でもある僕におこぼれ回ってくるんじゃないか。いや、きっとそうだ。ぐへへ。いいじゃないか。光源氏計画だな。いや、違うか。光源氏プロデュース計画だな。こんなこと思いつく辺り、僕もいい感じに欲望に忠実になってきたなぁ。

 よし、真面目な顔で応えよう。

「レベルはどうやってあげるつもり?」

「ひん、リーノウやバルデと冒険者になろうって、決めてました! だから冒険者になってレベルを上げます」

 期待に満ちた目で語るザルド。うーん、そう、うまくいくのかな。正直大してレベルも上げないで準備せずに行ったら魔獣の餌になるだけだ。

 ふーむ、どうすっか。

 ザルドを強い美青年に育て上げる光源氏プロデュース計画は悪くないけど、流石に倫理的に良くない気がする。

 ……ああでも、もし、彼らが活躍したらジオス教徒も増えるかもしれない。そしたらジオス神の力も増しそうだ。それならやる価値もあるか。うん、それがいい。それなら通るな。よし、その理屈でいこう。

「分かった。弟子入りを許可するよ」

「ひんっ、ありがとうございます!」

「その代わりいきなりダンジョンはだめだ。少しずつ鍛えていくよ」

「はい!」
「わかった!」
「はあ……はい」

 バルデはやる気あんのかな? ちょっと心配だけど、冒険者になってレベル上げたいのは本音みたいだし、いっか。一応レベル上げの方法はある。

 単純に筋トレだ。実はこの世界、魔獣を倒さなくてもレベルは上がる。実際、僕はベステルタたちと繁ることしかしていなかっけど、レベル上がっていたし。

 その後、繁り以外でも普通に懸垂とか重いもの持ち上げるなりして実験していたら、少しずつレベル上がったんだよね。

 筋肉をちゃんと動かしたり、頭脳を働かせることが大事なのかもしれないね。

 ゴドーさんに頼んでダンベルとか作って貰おう。孤児院ジム開店だ。それまでは自重トレーニングで頑張ってもらおう。

 と言う訳で弟子ができた。動機はものすごく不純だけど。
 
 ただ、夜の戦闘は教えられるけど冒険者的な部分は僕も分かんないんだよな。いっそ誰かにまるごと委託するか? アウトソーシングだ。でも信頼できない人は嫌だしなあ。むずい。


 そんなこと考えているうちに晩御飯が近くなった。カリンが甲斐甲斐しく作ってくれていたのだ。きっと良いお嫁さんになる。狂信者の一面さえ旦那さんが受け入れてくれればね。

 子供達はベステルタたちに任せて、厨房に向かう。

「カリン、悪いね。作らせちゃって」

「使徒さ、いえ、け、ケイ様。とんでも無い事です。ケイ様のために夕飯を支度できるなど、カリン望外の喜びです」

 相変わらず薄幸繊細シスターなのに、目だけが輝いていて狂信者のそれなんだよなあ。このチグハグ感、もはやクセになってきたよ。

「しかし、この程度の食事しかご用意できず……申し訳御座いません」

 唇を噛んで悔しそうにしている。敗走中の将軍に出すんじゃないんだから別に構わないよ。

 ていうか、そんなに卑下する内容じゃないと思うが。野菜もたくさん入っている。不揃いなのはお得品だろうな。塩も使われているし、問題無さそうに見える。

 ……ああ、肉がほとんど無いのか。小さな肉片しか入っていない。これは喧嘩になりそうだ。それでもご馳走なんだろうな。

 タンパク質が不足していると身体に悪影響がある。食べざかりの子供達やカリン自身にももっと食べてほしい。カリンは子供達のために食事減らしそうだし。大丈夫かな。

「お肉取り合いにならない?」

「ならないことも無いですが、みんな身体の小さな子や年下に譲ってあげていますね」

 なんて泣ける話なのか。

 子供の時なんて何も考えずにたくさん食べることだけを考えるべきなのに。うう。

 よし。ここは使徒らしいことするか。

「カリン、良かったらこの肉使ってよ。たくさん余っているからさ」

 僕はフレイムベアとダンプボアの肉の塊を取り出して、ドン! と置いた。

「そ、そんな。ケイ様。こんな立派なお肉頂けません。これは亜人様やケイ様が召し上がるべきものです。それに御自らの手で仕留められたはず。わたくしのようなシモベに下賜して下さるなど……」

 めちゃくちゃ恐縮してしまった。そのシモベ言葉はどこから出てくるんだよ。

「何言っているんだ。君も子供達もたくさん食べなきゃだめだよ。カリンはどうせ自分の分減らしていそうだし。
 そう、ジオス神もきっとそう思っているよ。自分の子が飢えるのを良しとする神では無いでしょ?」

「うう……ケイ様……」

 カリンが感極まったように天を仰いでしまった。

 あ、もしかしてこれって使徒が神の言葉を代弁しているっていうシーンか。やばい。カリンのフレイム・オブ・信仰心に燃料を投下してしまう。

 ばっ、とカリンが跪いた。

 僕は落ちそうなおたまを慌てて引っ掴む。

「ケイ様。元より神託に従い、神へこの身の全てを捧げ奉る所存で御座いました。しかし、今のお言葉で目が覚めました。わたくしは『ケイ様』にこそ身を捧げ奉りたいと考えております。それこそがジオス様のお考えなのでしょう」

 なんだなんだ。何がどうしてそうなったのか論理が分からない。何でそうなった。

「このカリン、ケイ様の慈悲深き想いや情深いその御心の全てをお慕い申し上げております。その上で、どうか末永くそのお側に置いてくださいませ。伏してお願い申し上げます」

 カリンが伏してお願いするものだから、代わりに僕が鍋をぐるぐるかき混ぜている。この子、けっこう抜けてるよな。ちょっと可愛いけど。何歳なんだろう。まあいいか。

「わかった、わかったよ。とにかく今はご飯作ろう? この肉は美味しいよ。きっとカリンも子供達も元気出るはずだしね」

「はっ!」

 カリンは色白な顔を上げ、神妙に返事した。そうじゃなくて。僕は彼女の手を取る。

「ああっ、お戯れをっ」

 よよよ、と僕の胸にしな垂れかかる。何で少し嬉しそうなんだ。カリン、もしかして演劇とか好きなのかな。ちょっと芝居っぽいし。亜人たちの即興中二演劇に興奮してたし。

「何もしないよ。いつまでも跪いていたら料理作れないでしょ。ほら、お肉の筋切って、一口にカットして。その包丁じゃ切れないだろうからベステルタの爪使って、気をつけてね。あと、塩胡椒も買ってあるから。じゃんじゃん使って。あ、肉には直前に振りかけてね。旨味が逃げちゃうから」

「は、はい」

 よし、主導権を握ったぞ。

 うーん、二人で厨房に立って黙々と料理するのいいな。何かこう、めっちゃ意識する。あと幸せ。年頃の女性とこうして並んでご飯作るなんてな……。すごく久しぶりだ。

 うーん、楽しくなってきたぞ。そうだ。せっかくの煮込み料理だ。前からやりたかったトマト煮込みをやろう。


 たっぷりのダンプボアラードをフライパンに入れ温める。

 そして取り出したるは浄化した野菜たち。


 イカれたメンバーを紹介するぜ!

 ダーク玉ねぎ。
 トゲトマト。
 絶死ニンニク。(全部勝手に命名)


 以上だ。
 
 絶死ニンニクをフライパンへ。じっくり香りをラードに移す。この時、切り方をみじん、スライス、潰し、で不揃いにしておくと良い香りが出るよ。

 今回は量があるのである程度移ったら強火にしちゃう。お肉投入。フレイムベア肉、色んな部位をごちゃごちゃと。この時しっかり焼き目を付けることが大事。

 大きめに切ったダーク玉ねぎを投入。これにも焼き目をつけていく。少しだけ塩を振ると塩の浸透圧の関係で味が染み出してくれる。よく知らんけど。

 トゲトマトのヘタを取り、手で潰しながらぶち込んでいく。種は大まかに取れればいいよ。

 あとは適当に煮込めば完成だね。

 フレイムベアのトマト煮込み。格好良く言ったらフレイム・ラグーだ。トマトも真っ赤でフレイム感あるしね。どう考えても旨いだろうな。素材のクオリティが半端じゃない。

「ご、ごくり」

 カリンが喉を鳴らしている。ふふ、早く食べて欲しいな。もう少しだけ煮込んだら食卓に出そう。


 そういえばシュレアはどうしてるかな。野菜部は順調だろうか。ちょっと連絡してみよう。

『シュレア、そっちはどう? 野菜は良く育ってる?』

『む、ケイですか。ええ、順調ですよ。良い具合に色付いています。もう食べられますね』

 おお、早いな。流石賢樹さん。野菜の扱いが上手いや。

『野菜は美味しかった?』

『食べてません』

 食べてるな、これは。ちょっとだけ間があったもん。かわゆ。シュレアに甘えたい。嫌視線が足りない。彼女の嫌視線は癒や視線だからね。

『今、こっちでトマト煮込み、フレイム・ラグーを作ったんだよ。今度そっちでも作るね』

『別に今召喚しても良いですが』

 チャンネル越しからそわそわした感じがする。食べたいのね。かわゆ。

『ごめんね、大人数だから足りないんだ。今度必ず作るよ』

『そうですか』

 しょぼん、とした雰囲気。くっ、絶対に作らなきゃな。

 名残惜しそうにするシュレアとの話を終わらせ、部屋に戻る。

 うおっ。

 子供達の目が、まるで暗闇で光るライオンの目のようにギラギラしていた。そこに二人の亜人も混ざっているから笑えない。君たちは自重してくれよな。

「さあ、ご飯だよ! みんな、食器を持って並んで!」

 わーーーーっと子供達と亜人が勢い良く、でもお行儀良く並ぶ。一人一人にたっぷり肉と野菜が行き渡るようによそう。
 子供達は今にも食べだしたそうにしていたが、ちゃんと我慢していた。プテュエラは我慢できずに食べようとしていたが、ベステルタにたしなめられていた。子供より自制心無いのはどうなんだよ。

「じゃあみんな、席に着いたね」
「「「はーーーーい!!!」」」

 元気の良い声。机を四角く並べてみんな顔を突き合わせて食べる。懐かしいなあこの感じ。

「みんな、今日は亜人様と使徒ケイ様がいらしております。しかも、ケイ様自ら貴重で美味しい食材を提供して下さり、御自ら作って下さいました。ジオス教徒として幸せを噛み締めながら頂きましょうね」

「「「しとさま、ありがとうございます!!!」」」

 そんなに感謝しなくてもいいんだけどな。

 でも、うれしいや。うへへ。

「それではみなさん、ご一緒に」

 頂きます。
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