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列車が下る
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線のような坂道を列車は下っていた。この時期において天候は移ろいやすく、先程まであれほど外は広かったのにも関わらず、すっかり灰色に沈んでいる。ミラー氏は冷たく吹き付ける風を何とかしようとして、窓を閉めた。すると冷たい風は無くなった。
列車の内装はあまり良いものではない。かつて人々を照らしていたであろう、天井に張り付いている照明は、鈍い光を放っており、ミラー氏の座っているソファは皮が磨り減って傷つきやすくなっていた。
ミラー氏は外を見る。都会の高低が彼の目に映った。木は一本として生えていない。代わりに木が植えられていた。ミラー氏は顔をしかめる。丁度、乗務員が食べ物を詰め込んだカートを彼の隣まで押してきた。乗務員はみすぼらしかった。一応制服を着ているが、あちこちにつぎはぎがされていて、髪もぼさぼさで、葬儀の参列者のように深く首を垂れていた。
「リンゴをいただけますか」とミラー氏。
「申し訳ありませんが」と乗務員は錆びた鉄のような声で「リンゴは扱っておりません」
「扱ってない?」
「はい。申し訳ありませんが」
ミラー氏は不満だった。仕方ないのでコーヒーを注文した。乗務員はその茶色い液体をでこぼことしたカップに注ぐと、それをミラー氏に手渡し、重い足取りで再びカートを押して行った。液体は、泥水に近かった。
ミラー氏は泥水をすすりながらふと窓の外を見やる。一匹のクモが移動する列車にしがみ付き、風に揺られている。列車は橋を渡って行き、クモはくるくると空気の流れに惑わされながら、糸につかまっている。つかまっている?都会は既に遠くの景色になり、クモはその周りをくるくると回っていた。
列車の内装はあまり良いものではない。かつて人々を照らしていたであろう、天井に張り付いている照明は、鈍い光を放っており、ミラー氏の座っているソファは皮が磨り減って傷つきやすくなっていた。
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「申し訳ありませんが」と乗務員は錆びた鉄のような声で「リンゴは扱っておりません」
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