【異世界大量転生2】囲われモブは静かに引きこもりたい

モブと母

《蜃》が眠る少し前。

《蜃》は地球世界こきょうから来るであろう《八雲》の入る身体を作るために自分の分体を作り出し、人間の街へ送り出した。

子種を貰ってすぐにこの森に帰るだけなのだ。子種を貰うだけなら美しい容姿をした女がいい。目は……そうだ、この森と同じ色で、髪は……薄桃色にしよう。少しくらいの遊び心は許されるはずだ。

そうして生まれた分体が《真理まり》。

だが真理はロタリンギアの異端審問官に脱走した棄民(異教徒)として捕らえられてしまう。薄桃色の髪の間から真紅の竜の角が生えていたからだ。……馬鹿なの、《蜃》？なんで角つけるの？馬鹿なの？(二回目)

タイミングの悪い事に、《蜃》はちょっとだけのつもりが深い眠りについてしまう。

そして真理は、当時科学者であり人工聖女を作り出す研究をしていたロタリンギアの王女に差し出され、口では言えないような酷い実験をされたらしい。(この辺はサルヴィーニ伯爵が結婚前に聞いたそうだ)

真理の力は《魅了》と《治癒》。ロタリンギア王女はこれこそが《聖女》を作り出す母体だと結論付け、真理は鎖に繋がれ、様々な子種を注がれた。多分、の推測に過ぎないが、男たちがお気に召さなかった真理は孕む気の欠片もなかったのかもしれない。

王女がこうしてせっせと子種エサを運んでくれるのだから逃げ出さなくていいか。大人しく犯されていればそのうち優れた遺伝子の雄を連れてきてもらえる。……楽だな。多分そんなことを思ったのだろう。だって真理の考え方ほんしつは貞操観念の緩いオリジンと同じものだったろうから。

そして真理は若き日のサルヴィーニ伯爵に出会ってしまう。

ま、アレだ。こんなに草臥れたオッサンになってもサルヴィーニ伯爵はエロい雰囲気のイケオジだ。若い時はさぞかし色気のある美男子だったろう。

真理は恋をした。サルヴィーニ伯爵はドンピシャドストライクだった。

そして孕んだのがオズワルドだ。

ここで真理はサルヴィーニ伯爵の元を逃げ出せば良かったのだ。

元々、子種を腹に入れたまま東の森に戻る魔力しか持たされていない分体だ。作り物の身体で胎児を育て、出産するなど身体と魔力がもたない。

けれど、真理はサルヴィーニ伯爵の元を去らなかった。

このままでは、命令に背いた自分は消されるし、サルヴィーニ伯爵も殺されるだろう。最悪、この地は滅ぶ。

それでも。

それでも、真理は産んだ。強大な力を持つ古龍《蜃》の分体が、ただの女に堕ちた瞬間だった。



『……阿呆よの…』



火がつくほど度数の強い酒を舐めながら、《蜃》がポツリと呟いた。







『…誠まっこと阿呆じゃ、彼奴は……』