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閑話:生存者とモブ1

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「オズワルドさん…今頃ヤッてんのかなあ…」



ポツリと呟かれた言葉に隊長が酒を噴いた。




「……てっ…めえ!兄貴でなんてこと想像してやがんだッ!!」


「いっ…!だだだだだああああやめっ!やめでえええええええええ!」




案の定、呟いたアホは隊長に頭を掴まれ締め上げられている。オズワルド様が隊長によくやる『あいあんくろー』とかいう技らしい。

ああ、あいつはアレだ。面接の時に「ここで強くなってのし上がってお城勤めしていっぱい稼ぐから結婚してください!」とかオズワルド様に言ったアホだ。ただの村人が鍛え上げられて冒険者ならAランク相当になってもアホはアホだったか…。




「だって!ダンナがこっち来て泊まるってそういうことっしょ!?」


「うるせえ考えさせんな!」


「オズワルドさんエロいし可愛いし美人だし腰ほっそいし!我慢できないっしょ!エロいし!」


「二回も言うんじゃねえ!!」


「ぷぎゃあああああ!!!」




隊長 ーーー 二つ名持ちの元SSSランク冒険者リョウは、前世の兄であるオズワルド様を好きすぎだ。俺が思うに、隊長はオズワルド様がヴァッサロ将軍のことを好きでもなんでもなかったら、攫って情に訴えて囲って自分のものにしていただろう。

オズワルド様は美しい。

隊長が言うには、前世の方がもっと美人で、男も女も無自覚に引っ掛けてまわる困った人だったそうだ。……今もそんなに変わらないんじゃないか?



 ーーー オズワルド様、か…。







俺は半年前のスタンピードで家族と幼馴染を失くした。



故郷には幼馴染みがいて、両親がいて、妹がいて、年老いた祖父母達がいた。

Cランク冒険者だった俺はあの時、幼馴染みにプロポーズするつもりだった。

幼馴染みと故郷で結婚して、魔獣のいない、危険の少ないあの村で、冒険者を辞めて猟師でもして根付くつもりだった。

それは一瞬で崩れ去った。

カガン皇国の国境線を越え、魔物の群れが村を踏み潰した。

文字通りのだ。

魔物の群れの目的は村ではなく王都だったのだから。

そんなことも知らず、魔物と戦って、戦って、屠って……。

やっと来た援軍は、腑抜けた国軍を率いたSSSランク冒険者【殲赤鬼】のリョウだった。

破格の援軍。

噂に聞いた世界最高ランクの冒険者の前に、魔獣の群れは程なくして壊滅する。

その死骸の半数以上が光の粒となって霧散した時に気付く。

これは召喚獣だ、と。

俺の故郷は、おじいは、おばあは、おやじは、おふくろは、妹は ーーー 幼馴染のマリエラは。


そしてそれを、俺はどうすることもできなかった。


僅かな生存者は皆ボロボロだった。

手足を無くした者。目や耳を失った者。心を病んだ者。

かつては長閑な田舎の村は、魔獣の死骸や肉親の死体の転がる場所となった。


それでも俺たちは生きていかなくてはならない。


死霊となった肉親たちの呪詛を聞きながら墓穴を掘り、魔獣の死骸を燃やし、泥水を啜って木の根を齧りながら生きた。


そんな時だった。王都から《聖者》の慰問団が来ることになったのは。

《聖者》と言えば、今回の大侵攻でセルビア軍3万を一人で屠った化け物だ。

何故 先にこちらに来てくれなかったのだ、とか。知っていたなら何故 先に教えてくれなかったのだ、とか…。色々な不満が俺の中で渦巻く。

けれど あのスタンピードで、私的な護衛で雇っていた【殲赤鬼】を寄越したのは《聖者》だという。それ以外にもSSSランク1人と、ランクこそ低いが戦闘能力はそれ以上の冒険者を、ロタリンギア国境付近側にも派遣していたらしい。

村に着いた《聖者》は、いかにもといったお綺麗な貴族様だった。あの【殲赤鬼】や神竜をゾロゾロ連れて、村を一時的に纏めていた神父に破格の見舞金を手渡す。

そして村のみんなを埋めた丘の上で ーーー 祈った。

その時だ。

俺や、生き残った村の住民に纏わり付いていた黒い靄が。生き残ってしまった俺たちへの呪詛を吐くこえが。悲鳴が。呻き声が。









消えた。








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