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モブと咎人
しおりを挟む季節は盛夏を超え、秋の足音が聞こえ始める。
神竜カリーナを害し、カリーナの守護する聖地を汚し、罪も無い北の民族たちを鏖殺した元王太子と騎士たちの傷が癒える。
咎人たちは、かの因縁の土地に送られ、カリーナの定めた通りに罰を受け、償いの日々を送ることとなる。
意外にも、咎人たちは「早くあの地へ…」とか、「償いを…」とか言って、抵抗はしていないらしい。抵抗したのはその家族や恋人たちで、幽閉するかのように隠したり、傷が癒えないようにわざと傷付けたりと、ちょっと異常な感じだったらしいが、そういう輩には漏れ無くカリーナの呪いが降りかかった。
そう。体の一部が腐ったり、精神に異常を来したり、凄惨な死を遂げたり。
呪いえげつない。カリーナ様ホント怖い。カムイがその苛烈な性格を引き継いでいないことを祈ろう。
彼らの旅立ちには、何故か俺が立ち会った。
いや、うん。何故か、じゃ無いけどね?わかるけどね?物理で腐っていく彼らを助けて、更なる地獄に叩き込むようにしちゃったの俺だし。
でも行きたくなーい!とゴネたら朱座が「代行者としてカリーナの仕事を見届けろ」と。
えー…やっぱりー?俺の両手の竜紋ってそういうやつ?すっげえ嫌なんだけど?
なので仕方なく。もうホント仕方なく。
修道服のような灰色のローブだけを身に付けた咎人たちを見送る。
楽しくもなんとも無いよね?嫌だよ。居た堪れない。だって俺がこっち側に居るの、すっげえ贔屓されての事だし。
そのなんとも言えない嫌な気持ちで立ってたら、『神竜殺しの咎人の罰にも心を痛める聖者様』に見えたらしい。めんどくさい。
ああ、全くもってめんどくさい。だって、俺はそんなにお綺麗な人間じゃ無いんだ。ただ、自分と、自分の大好きな人たちを守るので精一杯な、狡くて無様な……。
「オズワルド」
名前を呼ばれて、鬱々とした考えから引き戻された。
目の、前の……男は、誰だ?
銀の髪に、片目だけの紺碧の瞳。顔の痣が酷い。これ、は………。
「アルカンジェロ殿下」
かつて王太子だった咎人は、別人のように穏やかに笑った。
「このような姿になってもわかってくれるか。……ありがとう、オズワルド」
元王太子は俺の手を取る。以前のような、傲慢な仕草はなく、壊れものを扱うような繊細さだった。
「ありがとう、オズワルド。償いの機会を与えてくれて、ありがとう。私の…私たちの愚かさを叱ってくれて、嘆いてくれて、ありがとう。私はあのまま…闇に喰われて腐り果てていくのだと思っていた。けれどオズワルド。貴方が私たちを光の御許に引っ張り上げてくれた。私には、あの時現れた貴方が、まるで女神様のように見えた…」
アルカンジェロ殿下の手がゆっくりと離れていく。
「ありがとう、オズワルド。ああ、これで、私は。私たちは……」
「人間として、 ーーー 死ねる」
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