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偽神編
閑話・ここにいてはいけない
しおりを挟む(ティグレ視点)
リオと異母兄弟じゃないと知って、このままじゃいけないと思った。もっと頑張らないと。もっと。もっと。完璧に。もっと。もっと。もっと……
そうして倒れた。
慌てたリオが連れてきたのが大聖女様だった。
ああ、そうなんだ…
後見人の王兄殿下でもなく。同じ『贈り人』の王妃殿下でもなく。賢いタマでも、家事妖精でもなく。
リオが選んだのは、頼ったのは、大聖女アンティエーヌ様なのだ。
ズブズブと。ベッドが沼地になったかのように体が重く沈んでいく感覚。リオと大聖女様が何かを話しかけているけれど、少しも頭に入ってこない。大聖女様の「休め」という言葉はわかったので頷いた。
時折、冷たいものが額に当てられ、俺の体はズブズブ、ズブズブと沈んでいく。
「わたくし、リオ様のお嫁さんになります」
信じられない言葉を耳が拾った。
……え………お嫁さん…?リオの?誰が……?だれ………
「第一王子との婚約が白紙」、「還俗」、「お慕いする方のお嫁さん」……
ああ、知りたくなかった。でも知っていた。だって大聖女様はずっとリオに好意を示してきた。恋愛事に疎いリオがのらりくらりと躱しても、慕っていると、好きだと言い続けていたじゃないか。
還俗した大聖女様は高位貴族だ。プリッドモア公爵家の姫君。公爵が溺愛する末の娘。美しく、魔力も高く、俗世に擦れていない御令嬢。『勇者』であり、侯爵であるリオの相手としてこれ以上のお相手はいないだろう。リオも……否定しない。満更でもないのか……なんで…どうして………
リオと婚約する時に、「好きな人ができたら白紙に戻そう」ってリオが言っていた。今がまさにそうなのかもしれない。
嫌だ…なんで……
じわり、と何かが心の中に広がる。水面にインクを落としたように。
嫌だ。嫌だ。嫌だ……なんで…?なんで?どうして……?ずっとずっと。リオは俺のものだった。俺がずっと傍に居て。俺の。俺だけの。それなのにあの女が。いつのまにかリオを。りおの、となり、に………
『お前は猫だ』
あの日。そう言ったリオの笑顔を思い出す。
そうだ。大切なのは自分じゃない。この恋心じゃない。大切なのは。守るべきは……リオだけ。俺の主人。俺のすべて。俺の ーーー 神様。
もう、ここにいてはいけない。じゃないと縋ってしまう。望んでしまう。だめだ。そんなの。ここから離れないと。俺は……大聖女様に何をするかわからない。
大切なのは、リオ。リオだけだ。
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