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学園編

閑話・王都の男は恥を知らない

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(セバス視点)


『愛する私の婚約者エリザベス

君が僕の前からいなくなって随分と経つね

あの日の僕はどうかしてた

君という素晴らしい黄薔薇が傍にあったというのに

王子の手折った野の花がとても愛らしく感じてしまった

マリリン王子妃は毒花だったというのに……


エリザベス、今僕は窮地に立たされている

君と守り育てていくはずだった僕らの領地は隣領に併合され

僕の家も君の家も没落し、僕は職場で不当に酷使されている

僕は伯爵家だというのに、下級貴族に顎で使われているんだ

両親の借金のせいで屋敷も追われ、下町の下宿で惨めに家族6人で暮らしている

両親はいつも喧嘩ばかり

上の兄は酒浸りで「お前のせいだ」と殴りかかってくる

下の兄は僕の隠している金で商売女を買い、下宿に連れ込む

姉は唯一のトイレを占拠して引きこもってしまった

僕だけがまともであるが故に、僕だけが搾取されている

どうか僕を助けてくれエリザベス


エリザベス、君が乳母をした子供が伯爵家を継ぎ、侯爵になり、勇者になったそうだね

なんて素晴らしい幸運だろう

君はとても幸運だ

僕ともう一度やり直せるんだ

結婚しよう、エリザベス

君を攫っていったあの卑しい平民とは今すぐに離婚してくれ

僕は領地のことはわからないけれど、社交なら任せてくれ

僕は美しいから、プレンダーガストガラスのジュエリーの広告塔になれるだろう

プレンダーガスト侯爵にすぐに言って、最高級のジュエリーと衣装を用意してくれ

そして、パートナーとして妖艶な美女を数名

君は忙しいだろうから、他の美女を仕方なく連れて行こうと思っている

これは仕事だから醜い嫉妬などしないでくれ


君は僕の言うとおりにしていれば幸せになれる

君を正当に評価し、愛しているのは僕だけだ

僕の言うことはなんでもきくように

そうしなければ不幸になるだろう

プレンダーガスト侯爵にもその辺をよく言い聞かせておいてくれ

君はプレンダーガスト侯爵の乳母で、いわば僕は彼の父親になるのだから


とりあえず既製品で良いから最高級の絹のスーツを持って僕を迎えに来い

出来るだけ早くだ


僕を待たせるな





ロジャー・マッケオン』





「…………」


おかしな謎ポエム脅迫文を竈の火の中に放り込んだ。署名はこの16年、すっかり忘れていたリサの黒歴史もとこんやくしゃの名前だ。

18年前。リサがエリザベスであった頃。リサの婚約者は第三王子妃の愛人だった。結婚して半年も経たないというのに第三王子と第三王子妃の仲はすでに冷め切っていて、双方がたくさんの愛人を侍らせていた。

そうして起こる婚約破棄や離婚騒動はもはやモンサロ王城の名物となりつつあった。リサもその被害者だ。文官や女官が行き交う大廊下で繰り広げられる離縁や婚約破棄騒動。社交界の黄薔薇と呼ばれていたエリザベス・リンドリー侯爵令嬢は俺たち下位貴族には高嶺の花だったが、第三王子妃のに抜擢されたマッケオン伯爵令息に貶され、罵られ、婚約破棄を言い渡された。あの頃の王城は異様だった。聖女である第三王子妃の意のままというか、国王までが第三王子妃の犬に成り下がっていた。

婚約者から殴られ、婚約破棄を言い渡され、茫然自失なリサ ーーー エリザベス嬢を抱えて避難させたのは、若かりし頃の俺だ。何かに吹っ切れたエリザベス嬢は自棄糞になったのか手頃な男 ーーー 俺で処女を散らし、実家から勘当され平民になってプレンダーガストのお嬢様に拾われた。いや~、あの時のエリザベス嬢は大変に男前だった。


「脱ぎなさい。抱いてあげる」


殴られた頬を腫らし、踏み躙られてもなお凛と立つ黄薔薇。思わず乙女のように「抱いて…」と歴戦の戦士でも蕩けちまうだろ。心も童貞も奪われた純情セバス青年は、プレンダーガストのド田舎まで追いかけていって口説きまくり、「まあコレでいいか」的に結婚してもらったんだが。



灰になっていく復縁要請書ロミオメール。燃え切ったところでリサから声が掛かった。


「セバス?どこ?セバス?」

「ああ、リサ。今行く」



ああ、まったく。王都の男は恥を知らないんだろうな。華やかな王都でそのまま朽ちていけよ、ゴミ野郎。





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