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領地編1
閑話・尊いうちの領主様
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うちの領主様は尊い。
何が尊いって、まず顔が良い。初めて領主様を見た時に、こんな綺麗で可愛い……もう言葉に言い表せない芸術品のような顔があるもんだとたっぷり半刻は呆けた。白銀とも金ともつかない絶妙な色の髪と、花びらみてえな桃色の目。艶を消した高級陶磁器みてえなまろやかな頬。ガキの頃、遠目で見た前領主様の娘よりずっと浮世離れした雰囲気。だがその瑞々しい果実のような唇から発せられたのは
「臭い…!風呂を作るぞ!!」
………は?ふ、ろ…?
風呂ってアレだろ?お貴族が洗い桶に入ってサボンとかいうので…なんかアレしてコレ。見たことねえから想像もできねえ。
だが俺たち、スラムの人間の疑問なんか待っちゃいねえ。お小せえ領主様は、金貨を積み上げてスラムの人間を丸ごと雇った。あれよという間に違法建築の荒屋が撤去され、仮設なんとか(?)とかいうテントが立ち並び、一日二食までが無料で食べられる。こうしゅうよくじょう(?)とかいうものの建設を手伝えばさらに一食追加。さらにさらに、晩飯に麦酒が貰える。酒が飲めないやつはクソ美味え林檎の果実水だ。最初はタダ飯とタダ酒だけ掠め取る奴らもいたが、ほぼ毎日現場を覗きにくる領主が「◯◯、頑張っているな」とか、「丁寧な仕事だ、ありがとう◯◯」と、あのお綺麗な顔を綻ばせながら名指しで声がけする。いや、してくださる。はっきり言おう。人間というものは。いや、生き物というものは満たされれば争わなくなる生き物らしい。その証拠に野良犬野良猫まで柔和な顔つきになりやがった。おめーら、野生のプライドどこ行った!?
公衆浴場と並行して上下水道、そして整然と整えられた零番地区。もう掘立て小屋の隅っこで膝を抱えている子供はいない。息をしているだけの、死を待つだけの老人も。暴力こそが全てと息巻いた破落戸もいない。居るのはただ、プレンダーガスト伯爵に従順な領民だけだ。
プレンダーガスト領は今現在、未曾有の人手不足だ。天使の如き愛くるしい領主が、悪魔のように次々と『流行』を作り出しているからだ。様々なガラス製品、新しい芸術、美容と健康、小さな贅沢品から大掛かりな魔道具まで。
うちの領主様は、本当に尊い。
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