【7人の魔王1】転生したら悪役令嬢の父だったらしい

【娘視点】遠征の日常(おまけ)

おかしい。わたくしはコレクションとして魔王軍にやってきたというのに。

殺されず。解剖もされず。乱暴もされない。おかしい。今も清潔で動きやすいワンピースとロングブーツを与えられて、お父様の作ったお菓子を食べている。……美味しい…。


「おいしい！ユス！バウムクーヘン美味しい！」

「そりゃよかった。いっぱいあるからな」


焚き火で年輪のようなお菓子を作るお父様。お父様は丸太のような生地を器用にくるくる回しながら、目の前の魔王様……自称『お義母様』にベタベタチュッチュと人目も憚らず愛を囁いている。


ねえ、おかしいわよね！？


ちょっと待って！？お父様ってあんな男だったんですか！？『氷の公爵』どこ行っちゃったんですの！！？？愛とか色とか無縁のクールビューティーが行方不明ですわよ！！？？


「イレーヌもおかわりいるか？」

「うっ…‥は、はい…ください…」


お父様のお菓子美味しい。ご飯も美味しい。飲み物もすごく美味しい。この間、いつ料理を覚えられたのかと聞いたら「前世の記憶があるから」……と。

びっくりだ。お父様は渡界人だったのだ。

それから魔王様。……お、お、お…お義母様、は、わたくしに非常に優しくしてくださる。お父様が他の女と作った子供なんて嫌われるどころか憎まれると思ったのに……。


「イレーヌはユスに似てキレイで可愛くて優しくてイイニオイがするから好き！」


……だそうです。よ…よくわからないわ。だってわたくし、元婚約者の王太子と側近たちには「醜く卑しく悪魔のような女」とか言われていましたのよ？急にそんなこと言われても……う、嬉しいですわ…。だって「可愛い」は「好き」と同じ言葉ですもの。


「ねえねえ、おれとユスの子供もイレーヌみたいに可愛いかな？」


ブッフォオオ！


……噴きました。わたくしではありません。お父様がです。


「え…えーと……アキ？そういうのはイレーヌの前では…」

「えっ？なんで！？だって結局あれからしてないし！妊娠させてくれるって言ったのに嘘つk……(モゴモゴ)」


……ええ、そうなのです。どうやらお義母様は殿方なのに、お父様の子を授かれると思い込んでいらっしゃるのです。どうしましょう…。でも殿方はお子を授かれないのですよ…とお義母様に言って悲しい顔はさせたくありません。お義母様はお美しくてお優しくてお可愛らしいのです。わたくしはお義母様を悲しませたくないのです。


「お…お義母様？では、わたくしがお父様に似たお子を産みましょう。ええと…そうですわね、適当な殿方を見繕って頂ければ……」

「「えっ？」」

「えっ…？」

「「「……………………」」」


お父様とお義母様におかしなお顔をされました。えっ？どうしてですか？お父様！？その残念な子を見るお顔はやめてくださいませ！？わ…わわわ、わたくしだってお子の授かり方くらい知ってますわ！結婚した後に一緒に寝所に入って部屋を暗くして、ベッドの上で裸になって手を繋げば良いんですよね？(ドヤァ)


「あー…じゃあ、おれたちも頑張るから、イレーヌも父さんと頑張って？」

「？？？」


何故そこにワン様が出てきますの？？？そしてどうして溜息を吐つかれていますのお父様！？