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レーヴァンシュタインの悲劇【先王視点】
しおりを挟む落ちたシャルルは促されるままに、自分の妻に対してありとあらゆる拷問を行った。汚い悲鳴だ。《聖女》だと嘯いたのは真実だったようで、多少の傷なら瞬く間に治癒ってしまう。お陰で終わるまでかなりの時間を要した。
肉塊になった己の妻を見下ろし、シャルルは笑った。それはもう楽しそうに。
この残虐性はどこの血だろうか。少なくとも可愛いロゼや腰抜けではないだろう。……いや、ロゼが語った『悪役令嬢ロゼマリア』なら?小娘とは思えない悪逆非道の美姫。国家転覆寸前で断罪される稀代の『魔女』。あれの血か…。
惜しいな。お約束さえしていなければ暗部で飼うのに。
「終わったかい、夜の子供くん?」
何もない空間に男が現れる。風変わりな服に眼鏡、恐ろしいほどに整った顔。けれどもその胡散臭い笑みと喜劇役者のような動きで全てが台無しのこの男。我らが魔王陛下たちの『父』君であり、世界を滅ぼす邪神の一柱であるらしい。
「はい、恙無く」
「宜しい!宜しい!……ほう?中々良いじゃあないか!良い面構えだよ、君ィ!大戦時の全てに絶望した水妖精の子供を思い出すねえ」
クルクルと踊るような足取りでシャルルの前に歩き、おかしな体の曲げ方をして覗き込んだ。
ニイ…と『父』君の口角が吊り上がった。
背筋に言いようのない悪寒が走る。大抵のことには動じないはずの部下たちの数人が、ヒュッと息を吸い込む音がした。隣で直立しているレイジーンも、後ろ手に組んだ手が微かに震えている。
「では、あの幼体水妖精の気が変わらないうちに頂いていこう!」
「…ヒッ!?」
ぼんやりと『父』君を見ていたシャルルの頭を鷲掴みにする。硝子が擦れ合うような不快な音をたてて、シャルルが指先から消えていく。
「いっ…いやだ…!!いやだいやだいやだいやだ!!まって!待ってくださいアレクシス様っ…!たす…たす……たすけてくれるって………生存条件だって…!」
「ああ、そうだ。生存条件だ。殺しはしない。そうロゼが望んだ。「殺さないでくれ」と。あんな子でもお腹を痛めて産んだ子供なのだと。そう望んだんだ。お前が!殺そうとした!母親が!」
「あ……は、はは、うえ…!母上!母上!助けて母上!!僕は…僕が、間違ってた!ごめんなさい!良い子にするから!もうしないから!母上!母上ええええええ!!!」
「……ルーカスは、のちの遺恨になるから事故にでも見せかけて殺せと言ったんだがなあ……いやはや…俺も娘には甘くてな」
「ルーカス様!ルーカス様!!助けてルーカス様!!!どうして!どうしてルーカス様!!いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!こわい!しにたくない!しにたくない!!どうして!やっと魔女を殺して貴方のところに行こうと思ったのに!全部捨てて!貴方の…!あなたのところに……!!」
「いやはや、清々しいまでの屑だねえ!さあて、説明文にはなんて書こうかなあっ?屑王子?阿呆の末路?ああ、物知りな『儂』に相談してみようかなあ!」
シャルルの悲鳴と『父』君の哄笑が石壁の取り調べ室に響く。
脳を侵すような音は突然に止んだ。
「………感謝するよ夜の子供くん。久しぶりに面白い蒐集物だよ」
邪神が笑った。
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