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【正宗視点】
しおりを挟むああ、本当に人生というものはつまらない。
鉄格子の向こうの空を見る。腹が立つほどの青空だ。こんな日は昼寝がしたい。こんな豪華な監獄じゃなく、木の下にハンモックを吊って、本でも読みながらうたた寝がしたい。眠れば退屈などしない。万事解決一件落着。
生まれる前の死ぬ前。アレは良かった。数年は退屈などしなかった。『釜蔵の御老人』と呼ばれる支配者階級の曾孫。子供のくせに鼻が効いて発想が豊かで、御老人が遺した遺産を見る間に増やしていった。アレが行方不明になるまで儲けて荒稼ぎして楽しませてもらったものだ。
その金を使う前に未曾有の大地震で命を落とした俺は、私になった。侯爵家の5男。微妙な立場だ。そう、私は異世界に転生した。ラノベかよ!?つい今しがたそうツッコんだ。何故って今『一条正宗』を思い出したのだから仕方がない。
転生した私、ティディ・ランメルツは所謂『生贄の子羊』だった。子種を残すと都合の悪い第三王子を婚約者に持つ、美貌の令息だ。自分で言ってなんだが顔は良い。スタイルも良い。頭の作りも剣の才能も常に首席。人望もそこそこある。玉に瑕なのはぽろっと吐く本音くらいのものだ。学園卒業後の予定は第三王子と結婚して陛下から1代限りの爵位と小さな領地を貰い、細々と暮らすぬるま湯のような地獄。そう、まさに地獄。
考えてもみろ。男同士で結婚すること自体有り得ない。いや、否定はしない。好きなら良いんじゃないか?俺が関わってさえいなければ。しかも明らかな冤罪で婚約破棄を宣言された。ありがとう。だがこの告ってもないのに振られた感はなんだ。死ね。マジで死ね第三王子。今頃国家転覆罪で毒杯ゴックンだろうけど敢えて死ね。誑かした隣国の工作員は交渉材料として生きてるんだろうけど。大体さあ、好きな女が虐められたからイジメ主犯格処刑って頭おかしい。俺やってねえけど。
冤罪おっ被せられそうだったから、証拠揃えて根回しして書類まで揃えて。損益分岐とメリットデメリット具体的に動かす機関と人員、費用と経済損失。計画書を陛下と宰相とランメルツ侯爵にプレゼンして、承認貰って準備して。プラン1で陛下に説得してもらってプラン2で婚約を白紙に戻して貰い、プラン3で国外脱出。……うん、わかるか?プラン3っていうのはもう最終手段だ。優秀さを発揮して婚約を白紙に戻した俺を陛下も宰相もランメルツ侯爵も引き留めた。ガン無視したけど。
だがその優秀さがまずかったらしい。
10も歳上の王太子に執着された。……は?なにそれ?王太子って王太子妃と側妃4人子供6人居るよね?愛妾?なんだそりゃあ?もう子供作らなくて良いから真実の愛に生きる?はあ…まあ結構なことで。他所でやってくれ俺を巻き込むな。そこ。王太子の嫁ども?頬を染めて応援すんじゃねえ。
明日、俺は後宮入りらしい。それに伴い奥さんズは後宮を去り、離宮に移るとか実家に帰るとか近衛騎士の嫁になるとかするらしい。まじか。
はあ。どうするべきか。
溜息を吐いて外を見る。
馬鹿でけえ真っ黒い鳥が、有り得ねえくらい真っ黒な椿の花を咥えてきた。
ああ畜生。こんな常識外れの事をする馬鹿は一人しか知らねえ。
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