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奪われ続けた記憶 3

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「……なんのつもりだ…」


5年ぶりの実家。俺は綾の部屋で問い詰めた。相変わらず綾は俺を見て嬉しそうに頬を染めた。気持ち悪い。使用人が静かに出した紅茶を一気飲みして喉を潤した。


「おかえり椿。ああ…あの子?綺麗な子だよね?あの子の死体を見たら、さすがにお前も泣くんじゃないかな?と思って。僕ね、椿の泣き顔が見たいんだよ」

「ふざけんな!!俺や他のやつはどうでもいい!!あいつを巻き込むな!!」

「ねえ椿。そんなに******が大事なの?」

「はあ!?何言ってんだ!?」

「ねえ答えてよ。僕より大事なの?双子の僕より?あんな穢れた子たちが?」

「ああ大事だよ!寝ぼけてんじゃねえぞ!?お前なんかより**たちの方が比べ物にならないくらい大事だよ!!」

「………そう」


綾が笑った。……やばい。とんでもねえ悪寒が駆け抜ける。……まさか。まさか…!


「……ねえ椿?僕は生まれた時からずっと、お前だけを見てきたよ?」

「はあ?気持ち悪い。寝言は寝て言えよ」

「寝言じゃないよ?僕はずっと椿が好きだった。ずっとずっと、椿だけが好きだった。僕が当主になって、椿とずっと一緒にいるつもりだった。だから耐えた。面白くもない『教育』も、社交も、お前と居る時間を削ってまで努力した。全部全部全部、椿のためだった。それなのに……お前は僕がお前のために血反吐を吐くような努力している間、あんな汚い子供たちと遊んでいた…!」

「俺のため!?馬鹿言え!テメエの独りよがりじゃねえか!いつ俺が頼んだよ!?いつ俺が……っ…?」


ぐらりと視界が揺れる。


「だからお前の大事なもの全部奪えば、泣いて僕に縋ってくると思ったのに。服も本も部屋も ーーー あの汚い貝殻も」


綾が俺の手首を掴んだ。……振り解けねえ!


「お前が学校で作ったも、僕のになった途端、お前の悪口を言い出した。お前のも大したことなかった。婚約したその日に僕の上に跨って妊娠したいって強請ったよ?婚約パーティーでさあ、僕と結婚してお前を愛人にするんだって女たちと笑ってた。馬鹿な女。椿は僕のものなのにね?」


手を掴まれたまま倒れ込む。陶器の割れる派手な音がしたけど誰も来ない。ああ、クソッ!さっきの…紅茶、か……。伸し掛かってきた綾が鎖骨に噛み付いた。


「やっぱり椿の『初めてのおともだち』じゃないと遊べないと思ってさ。ちゃんと時間を掛けて準備したんだよ?それぞれおうちしてたしね?徹底的に追い詰めたら椿と思ってさあ…」

「………っ!!お前っ!あいつらに、なにを……!?」

「……ふふ…ねえ、椿?これで僕のものだよね?ずっとずっとずっとずっとずっと、椿が欲しかった。…ああ、昔ね?大祖父おおおじい様に椿が欲しいって言ったらすっごく怒られてさあ?僕の椿を釜蔵に連れて行こうとしたからにあって頂いたよ?人間ってさあ、案外すぐに死ぬんだね?まあ、あの弁護士はかなりしぶとくて未だに殺せないけどねえ?」

「あっ…あ、綾ァッッッ!!」


グッ!と首が絞まる。……苦しい!綾、が…俺の……首、を………









「ねえ椿?僕ね、君を殺して犯して食べちゃおうと思うんだ。僕だけのものにするんだ。僕だけの椿。全部全部全部全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ僕のものだよ」





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