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奪われ続けた記憶 2
しおりを挟む入学式から1ヶ月以上経って初登校した俺にはおかしな噂が立っていた。
曰く、問題児であり更生施設に入っていたらしい。
曰く、相当な我儘な坊ちゃんらしい。
曰く、精神疾患があり、問題行動を取る。
ああ、そう来たか。けれど俺の『黒咲』の名前に惹かれた『自称友人』が群れた。親しくなった奴から順に綾のおともだちになった。『自称彼女』は綾の目に留まって『黒咲グループ次期総帥の婚約者』まで昇り詰め、数日で『不適合』として婚約は白紙に戻された。
学校で時折、あの公園の仲間を見かける。
足を引き摺って歩いてたり、怪我だらけだったり、真っ青な顔色をしていたり、売春していると噂されたり…。
**はあまり学校にこなかった。『病弱』らしい。でもそれで良い。同じ学年には綾が居る。
大丈夫、俺があいつらに声をかけなくても。他の誰かがきっと。俺みたいなガキじゃなくて、ちゃんとした大人がなんとかしてくれる。
そう ーーー 自分に言い訳をした。
高校はそのままエスカレーター式に帝都立高等学校。あいつらも進学。
俺の周りは相変わらず、自称なんたらの奴らが群れていた。俺を踏み台にして『黒咲グループ次期総帥』の恋人やご友人に昇格したつもりだろうが、ものの見事に踏み付けられて捨てられた。
高2の春。俺は**と同じ1組になった。
同じクラス、隣の席。相変わらず**はあまり学校には来なかったけど、俺の顔を見るたびに嬉しそうに話しかけた。俺は無視したり迷惑そうな相槌しか打たなかったのに。
でも……それがいけなかったのか。
あの日、**はしつこく俺に食い下がった。「一緒に帰ろう。コンビニで良いからお茶しない?」……と。
嫌だった。嬉しかった。宝石みたいに綺麗な**。その顔を見ていると、踏み砕かれた桜貝を思い出す。それが嫌で嫌で堪らなかった。
俺たちが路地に入った瞬間……暴走した車に接触しそうになった。
「危ないねえ?」
そう**が笑ったけど、暴走車は引き返してきて俺たちを狙ってた。
あの頃みたいに**の手を引いて。走って、走って。
目をつけられた。**が俺の大事なものだって気付かれた…!いいや、綾は最初から知っていた。だから俺と**は同じクラスになって、席が隣で……。
遊ばれたんだ。
俺が触れたくても触れられないもの。見たくても見れないものをチラつかせて。あの桜貝みたいに、目の前で踏み潰ぶす気だ…!
走って。走って。
『終末久世観音教』の裏門近くまで辿り着く。
「いいか、**!アイツは俺で遊んでるだけだ。だからお前がケガしようと死のうと興味がない。だから**。ここから全速力で走って逃げろ!教団に逃げ込めば、アイツでもすぐにはどうこうできない」
駄目だ。こいつだけは。**だけは渡さない。俺のだ。綾には絶対壊させない。渡さない。
「アイツは俺がなんとかするから……逃げろ。**…俺は、お前が……好きなんだ」
ぽかんと間抜けに半開きにした唇を重ねる。抱き締めて……ゆっくり3秒数えて、
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