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ルーカス・フェリエーラとそれからの話 2

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王子派閥はなんか俺を敵視して、王妃派閥と現王派閥の提案した法案は全て反対。現王派閥巻き添え。当然政治は回らない。俺イライラ。アレクは苦笑。もういっそ王子派閥は難癖つけて一斉粛正しようか。いやダメだ王子派閥の裏にはカーディナルの狐親父がいるし、あんなのでもロゼマリアの父親だ…と頭を悩ませながら、えっちらおっちら日々を過ごす。いや、やり過ごすと言った方が良いのか。日に日に憔悴していく俺を見て、ロゼマリアは


「良いのよ、ルーカス。貴方のやりたいようにして良いの。私、あちこち気にして雁字搦めになっちゃってる貴方より、少し自由すぎる貴方が好きよ?」


などと慰めてくれる天使。いや女神。ちなみに本当の女神の方は「わたくし政治はわからないわぁ。あ、でもルーカスが神界に来たいしにたいのならいつでも言ってちょうだい?」と。使えねえ…!

どうしたもんかね。いっそ死ぬか?ロゼマリアのためにはそっちの方が良いかなあ……と思い始めた時に、御用聞きの商人が信じられないモノを持ってきた。


「は……?た、たれ、びん…?」

「おお!ご存知でしたか王妃様!」

「ご存知もなにも…」


それはたれ瓶、ランチャームと呼ばれる醤油の容器。レトロな魚型で、古い弁当屋の仕出しなんかにちょこっとついてるの……


「こ、これ…!?えっ…えええ???」

「実はですね…」


商人はニヤリと笑った。最近取引を始めた相手から、と。その取引相手こそが ーーー 


「おめでとうございます王妃様!王妃様は魔王陛下に謁見する権利があります!」


よくわからないうちに『魔王』とやらと会うことになっていた。商人はこの物体が『タレ瓶』、『ランチャーム』、または『醤油』だと言った人間を紹介することでバックマージンがあるらしい。胡散臭いことこの上ない…!


でも……ああ、でも…


手にしたタレ瓶の中の黒い液体。一滴指先に垂らして舐めてみると、前世の思い出が溢れ出して、ルーカスではなく鳴宮天音なるみやあまねが顔を出す。


『貴方のやりたいようにして良いの』


ロゼマリアの言葉が頭の中に響いた。鳴宮天音は、仕事とゲーム以外にはとんでもなくいい加減な男だった。男も女も取っ替え引っ替え。大きなプロジェクトが終われば有給を全てぶち込んで、長期休暇という名の行方不明になる。「もう天音くんがなにを考えてるかわからない」と泣かれ、恋人と別れることも多かった。親には勘当されてたっけ…。

魔国で醤油を売ってもらう交渉をしていたつもりが、いつのまにか移住することになっていた。怖い。鳴宮天音の考えなしの行動怖い。そして魔国交渉人のティディ・ランメルツ怖い。

そうだ。俺が先に移住して、生活基盤ができたらロゼマリアを迎えに行こう。アレクはシャルルが成人して即位するまで頑張ってもらって……。そう計画していたのに、ロゼマリアはあっさりとレーヴァンシュタインに残ると言い、アレクの方が泣いて縋って粘って粘って粘られた。どういうこと!?


結局、アレクは俺と一緒にアヴァロン魔王国に移住することになった。金貨も爵位も領地も権利も、そして王位すらロゼマリアに譲り渡して。












………あとは…そう。ここまで読んでくれた人ならわかるだろう。俺たちのレーヴァンシュタインがどうなったか。










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