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【盗賊ギルド長視点】

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馬鹿なことをしたものだ。私はの男女を一瞥した。

馬鹿なことを。

ルーカス・フェリエーラはこの国で怒らせてはならない者の上位に君臨する男だ。レーヴァンシュタイン王家にコネを持ち、方々に顔が利き、ばら撒けるだけの金貨を溜め込んでいる。その性格は苛烈で、 ーーー 妹狂い。『レーヴァンシュタインの魔王』と言えば一般市民は王弟を連想するらしいが、裏社会の人間の半分はこのルーカス・フェリエーラを思い浮かべるだろう。

その彼の逆鱗に、偽聖女と偽王子は触れたのだ。



私の部下がこの小娘の魅了に打ち勝てず、虚偽の報告を続けていたと知った時は「終わった」と膝をついた。ルーカス・フェリエーラは安くない金貨を払って妹の監視…いや、警護を我が盗賊ギルドに依頼していた。高額の依頼の上、依頼主がルーカス・フェリエーラだ。二八部隊が総出で磨き上げた殺人機械。悪夢の結晶。『冷血コールド・ブラッド』。

虚偽の報告の発覚後、私はすぐに自身で調査に赴いた。私に部下を始末させた小娘は拍子抜けするほどに『普通』の子供だった。大して美しくもなく、知恵があるようにも見えない。それが甘ったるい匂いをさせ、下品な色香を振りまく。その甘い匂いが零番街で広がりつつある麻薬の臭いだとすぐに気付く。

これは……間違いなく『国』が動く案件だ。

詳細な報告書と謝罪文をすぐさま送り、返金の旨を伝える。返金だけでも莫大な金額になるのに、契約違反金と合わせると一体いくらになるのだろう。いいや、金貨を払うだけで済めばいい。彼が本気になればギルド長わたしの首を挿げ替えるどころか、この盗賊ギルドを潰すこともできるだろう。

眩暈と吐き気で食事も喉に通らぬ日々。いつまで待ってもルーカス・フェリエーラから返事はなかった。けれど一月後、彼は盗賊ギルドを訪れてこう言った。


「返金も違約金もいらない。誠意を見せてもらおう」


更なる金貨を積み上げて、ルーカス・フェリエーラが艶然と微笑む。はらわたはきっと煮え繰り返っている。一も二もなく私は頷いた。監視対象は『ウルリカ・バッヘム男爵令嬢』。あの小娘の行動を逐一記録すること。そしてもう一度学園でなにがあったか、ロゼマリア・カーディナル公爵令嬢になにがあったかを調査すること。


「二度目はない。わかっているな?」


化け物が嗤う。私は過去も現在も、あれほど恐怖したことはない。




馬鹿なことをしたものだ。

ルーカス・フェリエーラの妹、ロゼマリアを虐げた者たちは利き手を潰され奴隷に落ち、貴族社会の表舞台から消え、肉片となって灰になるまで燃やされ、人体実験の被験者になった。この2人もきっと似たような結末を迎えるのだろう。馬鹿なことをしたものだ。



お前たちが踏み付けたのは野の花ではなく、恐ろしい化け物の宝物だったのだ。






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