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【校医視点】3 ※※

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※カニバリズム表現あり。人によっては吐き気を催す嫌悪感を感じるかも知れません。読み飛ばしても話は繋がりますので、自己判断でお願いします。

********************************************





















私の前にテーブルが据えられ、数種類の料理が並んでいく。良い匂いをさせ、温かそうに湯気を立てる料理はこの国の家庭料理だ。何故かそれを見て私は吐き気を催した。


「妻の得意料理のグラーシュだよ。じっくりことこと煮込んであってね。大きなジャガイモが添えてあって、それはもう美味しかったんだ」


なんだ…今の流れで……何故、の話になるんだ…?


「孫たちは幼い妹を守るようにして、折り重なるように事切れていたよ。柔らかい内臓と頬の肉が犬に食われていた。血塗れになって逃げ回ったんだろう。たくさんの小さな足跡で廊下が汚れていた」


知らない……幼い子供を巻き込んだ計画など………いや、一度だけ…一度だけあった。敵国の研究者の家族を、見せしめに殺すという計画が。あの時の私は…そうだ、あれは膨大な書類に紛れていて、機械的に判をおした。


「2階の廊下では娘婿が死んでいたよ。大きな血管や大切な内臓は避け、肉を削ぎ腸を引き摺り出し、ただの肉塊になっていた。それでも長時間生きていたという検死結果だった」


フェリエーラ子爵が微笑みながらスプーンを取った。


「俺が給仕させていただきましょう。そう、あなた方も学園でよくやっていたでしょう?『アーン』ですよ?はい、あーん」


グラーシュと呼ばれたブラウンシチューが口の中に突っ込まれた。吐き出そうとしたが顎を押さえられ、鼻を摘まれ上を向かされる。


「飲み込んで。そうしないと窒息しますよ?」


暴れて吐き出そうとしたが、拘束具と思いの外強い力で顎を掴まれ敵わなかった。朦朧とした意識の中で口の中のものを嚥下する。私を見下ろすフェリエーラ子爵は、「良い子ですね」と慈母のように優しく笑った。


「リビングでは妻が、キッチンでは娘が死んでいたよ。殴られ、蹴られ、全身が酷い有様だった。衣服が乱暴に破られ、剥ぎ取られて、膣内からは大量の、複数人の精液が確認された。リビングの壁には誰の血で書いたかわからないがあったよ。『愚かな猿に制裁を』」

「さあ、もう一口いきましょう。大丈夫、体に合いますよ?だってですからね」

「え……」


肉…?誰の?え?………………………え?


手袋をしたフェリエーラ子爵の親指が私の奥歯をこじ開ける。コクのあるスープとよく煮込まれた大きめの肉が口一杯に……。


肉?なんの肉??お兄さん?なんだそれはどういう動物…


湯気の立つ料理の向こう。虚な目をした兄が見えた。そうだ。兄は血色もいいし少しふっくらとした。けれど足が………



片足が、無かった。



「うぐっ…!ぉ…おっ、ぉ~~おげぇぇえええっ!!」


言葉の意味を理解する。

まさか…!?まさか、この、肉、は兄上の…っ!?


「ああ、吐き出してしまいましたね、勿体ない。教授の料理は美味しいんですよ?」

「こらこら、ルーカスくん。この肉は華氏311度(155℃)まで加熱していないからダメだよ?

「~~~っ、はっ…!げふっ!ごふっ…!はあっ、はぁっ……あ、ぁあ…っ、な、な……ぅゲェッ!」


この狂人どもめ!まさか!まさか兄上の足を切り取り、料理に……っ!?


「君が言ったんじゃあないか?

「まあ俺も医学方面は詳しくありませんでしたが、話題になったことがあったんですよ。あの時は牛でしたが。同族の肉や骨を牛に食わせ、発症したんです。同等のことが人間でも起こってましたよ。異常な状態で折り畳まれたプリオンが体内で増殖。脳が海綿状になる病気です。潜伏期間は5~10年と長く、その間に起こった同族喰いという罪の連鎖で病人は増えていきます。最初は運動能力の低下、歩行困難、発音障害。その後は激しい震えや感情の制御が出来ずに笑ったりとまさに呪い。お兄さんは最終段階の第3ステージ。重度の運動失調、会話の困難、失禁や嚥下障害。当たり前ですよね?脳が海綿状になってるんですから。ここまで来ればで、……良かったですねえ教授、エルヴィン・ファーゲルリーンが早めに発症して。?」

「ああ、全くだ。狐の血筋には地獄を見てもらわないといけないからね。を食わせ続けた甲斐があったよ」


病…?脳が…海綿状?何を言っている?ああ、けれどわかる。兄上はもう私がわからない。言葉も交わせない。


私もこう……なるのか ーーー !?


「やっ…やめろ!やめてくれ!!何故こんな…?!女神をも恐れぬ……」

「ああ、女神ザリエルはご存知ですよ?俺が許可をとりました。我が女神様は懐が広い」

「~~~っ!!この狂人!!悪魔め!!」

「なんとでも?貴方がたは教授の家族を殺し、俺の妹を攫って道具のように甚振るつもりだった。それだけで万死に値するでしょう?」

「さてルーカスくん。僕はでも焼いてくるよ。そろそろ常温に戻っただろう」

「はい。では俺は残りを食べさせておきますね?」

「ヒィッ!」


狂人たちが笑う。何が……どうして…どこで私は…私たちは間違ったのか……。











「さあドミニクス殿下、アーンしてください。アーン?」










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