33 / 144
ルーカス・フェリエーラと妹の手料理
しおりを挟む屋敷の中は死屍累々だった。
厨房でロゼマリアを発見して、応接室のソファーに寝かせる。口元にハンカチを押し当てて、手で握らせてから屋敷中の窓を開けて回った。
そうこうしているうちになぜか大公邸に来ていたヴィルヘルミーナが復活。大規模浄化で臭いが消え去った。鍋は結界に封印。
ヴィルヘルミーナは大量殺人さえ犯してなかったら聖女にもなれた英雄だ。道徳のネジがぶっ壊れてるのは仕方ない。俺も終戦直前の1年間だけ第二八魔道遊撃大隊について回ったが、まともな精神ではいられないほど酷い有様だった。
鍋を見る。
火から下ろしているのに何故かゴポゴポと気泡が湧き出て、汁の色が紫と緑のまだらでギラギラしている。鍋の中から超小型の魔物の咆哮が聞こえるのは気のせいだと思いたい。
「ま…魔物を召喚!?…ううん、これは創造?すっごおい!やばいわロゼちゃん!」
ヴィルヘルミーナがケラケラ笑うが、冗談では済ませられない。
「……ぅ…うう…ル、ルーカス…」
「ロゼ!」
目が覚めたのだろう。よろよろしながらロゼマリアが厨房に入ってきた。顔色が悪い。
「ロゼ!まだ寝てなきゃ駄目だ」
「ううん、大丈夫……ご、ごめんなさいルーカス…えと、あと、おかえりなさい」
なんていい子なんだ!
「ロゼ?この鍋の物体は…?」
「え……えっと、その…ルーカスに、カレーを作りたかったの。お屋敷のキッチンに香辛料がいっぱいあったから…」
「俺のために?」
「うん…私、仕事もしてないし学校も行ってないから…脱ニート?みたいな?」
「ありがとうロゼ。でもロゼはそこにいてくれるだけで良いんだよ?なんなら一生ニートでもいいんだ。俺にずっと養わせて?ロゼがいてくれるだけで俺は頑張れる」
「ルーカス…!」
ぎゅっと抱きしめ合う。
カレー…カレーかあ。ちらりと鍋の謎物体を見る。
「ちょっと個性的な見た目だけど、せっかくロゼが作ってくれたんだし…」
「えっ、待ってルーくん!食べちゃだめだよ!?特級呪物級の危険物だからね!?オブジェクトクラスケテルだよ!?」
「ほ…ほら?あの、一口だけなら…ね?」
「やめろルーカス!俺を寡婦にするつもりか!?」
「この場合、嫁は俺だからアレクシス様は寡婦にはなりませんって(よそいよそい)」
「ルーカスちゃん?私もさすがにそれは人間が口にしちゃいけない物体だと思うの」
「妹の初めての手料理なんだ!ひと舐めくらいさせてくれ!!」
「やめてルーカス!それ動いてる!!」
どしゅ!ヒギャアアアアアアアア~ア~アアア~~!!
皿の中の咆哮する謎物体をスプーンで分断し、いざ実食!
カッ!と鍋が光ったと思ったら、爆発した。うん、言ってる俺もよくわからない。ヴィルヘルミーナが咄嗟に張った逆結界で事なきを得たけど。
「……幻の料理、か…(フッ)」
「「「「違うと思う!!」」」」
俺以外の多数決で、ロゼマリアの料理は今後一切禁止になった。残念だ。
60
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる