【7人の魔王シリーズ 番外】ルーカス・フェリエーラは妹を愛でるのに忙しい。

【記憶の断片 1】

喉が渇いた。

渇いて。飢えて。声を上げる力すらない。部屋には腐臭が漂い始めていた。

どこだろう。

ぼんやりと考える。

何故だろう。自分は…じぶん、は…？

ああ、俺は、僕は、誰だろう。持ち上げることさえできない手を見る。

小さな手だ。まるで子供の手だ。俺はこんな手をしていただろうか。そう、僕はこんな手をしていた。

何故だろう。

『俺』と『僕』の二人分の意識があるのは。

ヒューヒューとおかしな呼吸音が耳につく。長くないな。ちらりとそう思った。転がった床は埃と黴の臭いがする。肺をやられたか、元々呼吸器が弱かったのか。どちらにしても、死神はすぐそこらしい。


バタン、と扉の開く音がした。ああ、誰だろう。もうそちらを見ることすらできない。


「みつけた…！ルーカス！」


誰だろう。なんだろう。また殴られるのか。蹴られるのか。逃げなきゃ……でも、もう、指先さえ、動かない…


ひたり、となにかが頬に触れる。微かな花の匂い。どかどかと無遠慮に集まってくる足音。





「ねえ、わたくし、このこがほしいわ」