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【side ジョージ】アレは私のものなのに

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痩せ痩けて包帯だらけの少年。淡い金色の髪に、公爵家特有の複雑にカッティングされたサファイアのような瞳。ウィステリアは8歳の時に引き合わされた初めての側近候補だった。

公爵がメイドに手をつけ生まれた子供。プライドが高くて嫉妬深い公爵夫人が虐めて虐めて虐め抜いたと噂で聞いた。

側近候補というよりは世話係。下女メイドの子ならば同じような扱いで良いだろう。


殿下の良いように、使


公爵はそう言ったのだ。コレはモノだ。私はウィステリアを傍に置いた。便利なモノとして。

ウィステリアはなんでも出来た。なんでもやらせた。機嫌の悪い時はウィステリアにぶつけたし、時は口で奉仕させた。

ウィステリアは美しい青年に成長していた。

常に私の後ろに控え、私のためだけに生きるモノ。ウィステリアさえいれば、私は耐えていける。生きていける。


けれど、私の婚約者がウィステリアを傍に置くことを許さなかった。


「子を産めぬ男といえど、愛人を堂々と侍らせる夫は要りません」


筆頭公爵家の一人娘。彼女と婚約する事によって私は立太子した。第二王子である腹違いの弟も、叔父である王弟殿下も、私を引き摺り落とそうと狙っている。


「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」


生徒会室。婚約者や他の側近候補の前でそう言うと、ウィステリアは一瞬だけ瞳を揺らして俯いた。



側近候補から外すことを告げた翌日。ウィステリアは手首に包帯を巻いて登校した。馬鹿な奴だ。死のうとでもしたのか。私の婚約者はウィステリアの実家にも通達をしていて、ウィステリアは公爵家を除籍された。

私が戴冠してから拾い上げてやろう。連れ歩かなければ婚約者も文句は言うまい。

そう……思っていた。けれど、なんだ?おかしい。

微かな違和感。

そうだ。ウィステリアの顔が、表情が違うんだ。

いつも俯いて、硝子細工のような危うい美貌はなりを潜めた。時折見かけるウィステリアは、たくさんの友人たちに囲まれてキラキラした笑顔で談笑していた。最近は成績も上々らしく、教師の1人が私に媚びるように「さすがは殿下の側近候補です」などと言ってきた。アレはもう私の側近候補でも貴族でもない。そう言うと驚いた顔をしていた。



卒業まであと1月といったある日。ウィステリアが結婚したと聞いた。

平民の、裕福な商家の息子。よりによってウィステリアは平民の男を選んだ。平民らしく学生寮まで徒歩で帰る2人は、仲睦まじく手を繋いで歩くのだと話題になった。

何故だ?どうして…!?お前は私のものだ。私のモノだろう!?

私はウィステリアを生徒会室に呼び出した。


けれどいつまで待ってもウィステリアは来なかった。


私は従者の制止を振り切ってウィステリアの住む寮に向かった。平民に落ちたウィステリアは、結婚した男の個室に転がり込んだと噂で聞いた。

鍵は開いていた。ノックもせずに踏み込んだ私が目にしたのは、一糸纏わぬ姿で睦み合う2人の姿だった。


「…ふぇっ!?」


間の抜けた声を上げて慌てるウィステリアと、私たちに構わずウィステリアの上で腰を振る男。呆然とその様を見ている私の腕を従者が引いた。


「殿下、日を改めましょう。いくら平民相手といえど、の最中に踏み込むのは余りにも……!」


夫婦…?……そう、だ。ウィステリアは結婚したのだ。公爵家から放逐され、平民に落とされ、平民の男と結婚した。




何故だ?どうして……。アレは私のモノなのに。















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