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閑話:坂宮沙耶香
しおりを挟む思えばあの男に関わること自体が間違いだったのだ。
お前の作品は陰鬱すぎる。
そう言われ続けて売れない作家をやっていた。
やっと舞い込んできたゲームの仕事だった。規模の割にスタッフが少なくて、ゲームバランスやアイテムの管理までさせられたけれど。
私の小さな世界。
綻び始めたのはあの男がチラつき初めてからだった。
自由度の高さと私のストーリーが売りのフルダイブ型MMORPG。意図せぬ遊び方で暴れる集団が現れた。
けれどディレクターはそれを是とした。違法ツールを使うわけでもなく、課金もトップレベルの化け物集団。あの男はいつのまにかその集団の中心にいた。
正攻法で世界級のアイテムを製作し、倒せないはずの守護者を倒す。私のストーリーをめちゃくちゃにするその男をゲーム内で閉じ込めて糾弾したこともある。私があの男に関わるたびに、課金者たちのボイコットが起こり、インターネット界で炎上し、最後にはログを虱潰しにしていったスタッフが白旗をあげた。
バグではなく、運営のミス。
恋人だったディレクターも苦笑した。
仕方ないな。良いじゃないか。良いお客様だ。
なんてこと…!!
あの男を懲らしめるために、システムに助言をする私は次第に孤立し始めた。
なぜ?どうして!?
段々とストーリーは終盤へ差し掛かる。セカンドシーズンの話が浮上した。けれど私はスタッフにはなれなかった。ディレクターである恋人ともケンカ別れをした。最悪だ。
ああ、あの男さえいなければ。
私は興信所を使ってあの男を突き止めた。
お前さえいなければ。
私がこんなにも苦しんでいるというのに、あの男は笑っている。
ヘラヘラと。のらりくらりと。大企業に就いて、定時に帰って、ゲームをして、家族と恋人と友人と………
気が付けば、私はあの男を突き飛ばしていた。
列車の急ブレーキの不快な金属音と悲鳴。
その時、私は思い出したのだ。
私は人間ではないと。
《オリジン》であると。
ああ、でも私は至っていない。
記憶だけがあるというのは、なんと歯痒いことか。
力がないだけで、私は《ちいさきもの》などに刺し殺された。
力を、力を、力を、チカラを ーーー !!
生まれなおした事によって私は至った。
文明を進化させ、国を作り、神の分際で私に物申しにきたピンク色を追い返し。
《ちいさきもの》の振りをして私だけの世界を繰り返した。
私だけの物語。
何度も。
何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!
それなのに…
それなのにッ!!!
「第二世代の分際で、よくもまあ私を虚仮にしたものだな《天宮》」
目の前の光の色をした獣が、絶望を告げた。
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