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霊峰オデッサにて
40 ゲーム開始(クリストファー視点)
しおりを挟む緊急に招集された議会は混乱を極めていた。
追放されたノア・ヴォルテッラが生きてオデッサ霊峰に辿り着いた。
生きて……。
そこで私は初めて知る。
オデッサという場所は、人間が生きて辿り着ける場所ではないということを。
気温は氷点下100度以下。耐寒の付与魔法すらされていない粗末な護送用馬車で、騎士でもない棄民の御者で普通は生きて旅をするなど不可能なのだと。
そんな……。
ドロシーはオデッサを「雪の美しい山」と言った。彼女も知らなかったというのか。私と彼女は、知らずにノア・ヴォルテッラを処刑していたのか。
……いいや、処刑ではない。ノア・ヴォルテッラは生きている。生きて……辿り着いたのだ。
そして、奇跡を起こした。
今、オデッサ霊峰は中腹に鮮やかな神殿が在り、『花』が咲き乱れ緑豊かな場所となっている。
議題は『ノア・ヴォルテッラをどういう扱いにするのか』から、ドロシーの父親である先代ペトレルラ公爵の失態の糾弾になっている。そして、今回の【聖女】の損失は私が聖女を繋ぎ止めておけなかったからだ、と…。
私はノア・ヴォルテッラの婚約者ではなかったのだぞ!?それどころか友人でもない。どうやって繋ぎ止めておけというのだ!?
ノア・ヴォルテッラは王命により霊峰オデッサへ向かい、奇跡を起こした。
そう公表すると決まったその時だった。
笑い声がした。
ゾクゾクと耳を刺激する、美しい声だ。
「うちの子を攫って虐めて捨てた挙句にもう一回拾うのかー。すげえな《ちいさきもの》って」
………誰だ。この、男、は……。
いいや、男?生物としても疑問だ。それほど美しいモノだった。
薄紅色の髪と純白の衣装。その深い緑の瞳は……どこかで………。
その後ろに控えるようにして立っているのは……
「……!お、…叔父、上…!!」
アレクシス叔父上だった。どうしてここに!?叔父上が、この男を招き入れたというのか!?叔父上は、ノア・ヴォルテッラを追ってオデッサに………
「よう、王族貴族の皆様お久しゅう」
アレクシス叔父上は、何事もなかったかのように笑った。
「……さて、ヴァンダルとかいう国の蛆虫ども」
薄紅色の髪の男がニイッと笑った瞬間だった。全身の毛が逆立って心臓を鷲掴みにされたような感覚。目の前がチカチカと黒と赤で点滅して……息が…できな………
「お前たちがノアと呼ぶあの子は俺の息子だ。良くもまあ遊んでくれたよな?本来なら即潰すんだけど……まあぶっちゃけお前ら不味いんだわ。食うに値しない。だから、ゲームをしようか」
急激に圧力から解放される。
そのまま机に倒れ込む者。椅子から転げ落ちて嘔吐する者。咳き込み、未だ苦しむ者。部屋の隅に控えていた筈の騎士の鎧だけがガシャンと崩れ落ち、血溜まりが広がる。
「……ヒッ…!!ひぃ…!」
「さあそこかしこで聞いてるヴァンダル国以外の間諜の諸君。大急ぎで帰って伝えろ。ゲームの始まりだ。俺を楽しませろ。期間はまあ…400日くらいか?うちの子とアレクシスの結婚式が終わったら、この世界を閉じる。世界を終わらせる。そのために俺は天上の世界から来た。俺を楽しませてくれたニンゲンは連れて行ってやってもいい。 ーーー わかるか?」
なに、を……言っているのだ。この悪魔は……!
「俺はヴァンダル国とかいうこの蛆虫どもに腹を立てている。ああ、直ぐに滅ぼしたら楽しめないぞ?よーく考えろよ?お前たちの行動をゆっくり観察させてもらおうじゃないか」
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