【異世界大量転生4】役に立たない淫売聖女(♂)は極寒の地に追放されました。※なお、英雄王弟は即追いかけて行った模様です。

霊峰オデッサにて

32 到着(ノア視点)

『神殿』と呼ばれるオデッサ霊峰の中腹に辿り着く。

雪に覆われた1階建てのような2階建のような不思議な建物を、何故だか俺は『寝殿造り』だ…と思ってしまった。しんでんづくりってなんだろう？


「……寝殿、造り………」


あ。セバス父さんも同じこと思ってる。間違いじゃないみたいだ。

先頭を歩いていた狼がクルッとこっちを向いてお座りした。


《ようこそ…！ようこそおいで下さいました《白妙》！ようやくご挨拶が出来ます！我は《絶ぜつ》と申します。《桜座さくら》の眷属にしてハーレムの末席に居りました。お会いできまして光栄に御座ります！！》


ブンブン尻尾振って……て、え…ええええええ？喋ったあああああ！？


《声帯が多少《ちいさきもの》とは違います故、魔素の濃いここまで来ねばなりませんでしたが、漸く…漸く……っ！》


うんうん…よくわからない。しろたえって誰？さくらって誰？

みんなポカンとしてたけど、狼が《さあさあどうぞ、ご案内致します》って言ったから慌てて馬を降りる。


ゥオオオオオオオオォォォォン！！


狼がひと鳴きすると、雪に覆われて真っ白だった建物が途端にカラフルになる。

真っ赤…だ。柱が目の覚めるような赤で、壁はシミひとつない白。瓦は濃灰。っていうか、狼、この建物に入れるの！？

そう思ったら、狼がしゅしゅしゅ～と魔法のように大きめの犬サイズになってドヤ顔した。

なんだろう……大きいとわかりにくかったけど、いちいち可愛いよこの狼。



案内された屋敷の中は意外にシンプルで、木の色をそのまま使った落ち着いた感じだった。床も絨毯じゃない。板張りだ。本来なら靴を脱いで上がってくださいね、と釘も刺される。色んなルールがあるみたいだ。

広い庭があって、小川と池まであって、粗めの白い砂が引いてある。池には魚の1匹も見当たらないけれど、後日下まで行って我の配下を連れて参ります故…とかなんとか。

こんな山の上に、こんな建物があったんだ…。

そう言うと、狼は嬉しそうに《いつか、いと尊き御方々を御迎えする為頑張りました！》とのこと。うん、可愛い。でもね？


「いととおときおんかたがたって…だれ？」

《誰とは……いと尊き御方々はいと尊き御方々で御座います。貴方様をはじめ、《桜座》や《久遠》、《奈落》、《高天》……》

「………？」

《……も、もしや《白妙》…覚えていらっしゃらないので御座いますか…？》

「ご…ごめんね……？」


狼はぶるぶると涙目で震えた。


《……いいえ、いいえ…！こうしてお会いできただけでも光栄で御座いますのに……欲張りを申してしまいました…》


しゅんと項垂れる狼。可愛いけど可哀想。どうやら俺は《白妙》という名前だったらしい。セバス父さんが言う『前世』とかいうやつだろうか。あの美しい領地に帰りたがっていた俺の中の誰かがきっと《白妙》なんだろう。

そういえばこの屋敷は、あのハーレムの屋敷に似ている。


…………ハーレム？なにそれ。


なにかを忘れている。どこかに引っかかって出てこないもどかしさ。


《あの狂った遊戯に参加されて、再び至っただけでも奇跡で御座います。さあ、最後に我の最高傑作を御覧に入れましょうぞ！》