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霊峰へ

23 ノア様と飴(隠密護衛C視点)

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その頃、当の本人たちは……とか物語風に言いたくなる。

きっと王都では、僕たちは死んだものと思われているだろう。そして今ごろ王都は……ヴァンダル王国はグッチャグチャだ。ざwwwまwwwあwww王国ザマアwwww

一月前のノア様は、ガリガリに痩せてて……服の下の腕とかあばらが浮いてる脇腹とか、もうほんと酷かった。……酷かったんだ。



旅を始めて一月。

ノア様の顔色はすごく良くなったし、たくさんお喋りして良く笑うようになった。少し窶れていた頬もふっくらした。

大体、ノア様は重度の人見知りなんだ。王命だって言っても、あんな環境の悪い学園に放り込むなんて阿呆だとしか思えない。僕たち隠密護衛たちは、なんか子供の頃からの気配みたいのを感じたのか、すぐに馴染んで下さったけど。

ノア様が全寮制の学園に放り込まれて1年。ほんっと酷かった。

ペトレルラ公爵令嬢のせいで、ノア様の周りは敵だらけだった。殴る蹴るのような物理的な暴力はなかったけど、一番酷かったのは食事だ。

慣れない環境のせいで食が細くなったノア様を、あのペトレルラの女狐は『高貴な聖女様はこんな粗末な料理はお口に合わないのでは?』と料理人たちに吹き込んだ。そこからだ。料理人たちの嫌がらせが始まったのは。

ノア様の分だけ尋常じゃない量の香辛料や調味料が振りかけられていたり。色んな食材をでたらめに混ぜて生ゴミみたいな臭いになってたり。

そのうち、ノア様は「残してしまうから」と食事を断った。

自分で購買部にパンを買いに行って、一食はパン1個と水だけ。そのパンも前日の売れ残りとかを渡されていたが、一度、カビの生えたパンを渡されてノア様は自分の手でパンを握り、「これください」と言うようになった。うちのノア様は案外たくましい。さすがノア様。

そんな劣悪な環境でもあの美貌がキープできるんだから、聖女って凄えなと本気で思った。

そのノア様のお口を慰めていたのが殿下が贈った飴だった。

綺麗な透かし彫りのガラスの容器に入った色とりどりの飴。殿下の遠征のお土産だ。

嫌なことがあったり(毎日だと思う)勉強してたり(毎晩だった)の折に、ひとつ、口に入れて。本当に蕩けそうな幸せな顔をする。殿下が「あの子は天使だ!」って言って憚らないけど、本当に可愛い。

飴は見る間に無くなっていった。寂しそうに瓶を振ってカラカラいわせるノア様は、可愛いけど可哀想だった。

僕は街で飴を買ってそっと補充した。殿下が贈った飴より安くて、形も丸くない棒状のものを切っただけの飴だけど。

こんなことがバレると護衛を外されてしまうかもしれない。それどころか懲罰ものだ。

でも護衛のみんなは黙っててくれた。ノア様の笑顔が見たかったのかもしれない。

最初は安い飴が増えていることに警戒したノア様だったけど、少しずつ口にしてくださるようになった。可愛いなもう子猫かよ!?



ああ…、そういえば。

僕は思い出して馬車の荷物を探る。……………あった!

どうして忘れていたんだろう。


「ノア様」

「ん?」


僕はノア様に瓶を差し出す。


「……あ!これって…」

「はい。あの時、寮に忍び込んで、これだけ持ち出しました」


殿下の贈った飴の瓶。中身は安物だけど。


「ありがとうクラーク!これ、俺の宝物だったんだ!嬉しい…!」


喜んで頂けた。それだけで、僕も嬉しい。

カラカラと、嬉しそうにノア様は瓶を振る。


「……ねえ、クラーク?違ってたら申し訳ないんだけど……あの頃、飴を増やしてくれた妖精さんってクラーク?」

「ブハッ…!」


よ…妖精!?妖精とか思ってたんだ!?可愛すぎか!?


「…はい、その……安物でしたが」

「ううん!すごく美味しかったんだよ?色んな味がして、今度は何の味だろうって楽しみに食べてた。ありがとう、クラーク!」


ああ、その笑顔だけで、僕たちは明日も頑張れる。








その後、僕が規則違反をして飴を補充していたのが殿下にバレたが、ノア様の取りなしで事なきを得た。殿下怖えええええええええ!!














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