【異世界大量転生4】役に立たない淫売聖女(♂)は極寒の地に追放されました。※なお、英雄王弟は即追いかけて行った模様です。

北の地へ

04 お姉ちゃんがやってきた(ノア視点)

馬車は王都の壁の外で待っていたから、王都の中は徒歩だった。

「偽聖女」とか「淫売」とか「毒婦」とか、見ず知らずのみなさんから罵られて石や腐ったものを投げつけられた。

………いんばい、って…俺、男だよ？淫売って？毒婦って？

投げ付けられた石で額が割れたらしく、血が流れて目に入りそう…。

家族のみんなは無事なのかとか、そっちの方が気になる。だって怪我はすぐに治るから。汚れた体も《清浄魔法》で一瞬だよね。

みんな笑ってる。

人を攻撃して笑うって、ちょっと怖いね。

関所は開いていた。早く行け、と顎をしゃくられる。

………うん、ちょっと悲しい…。

俺ってなんだったのかな。何度も「自分は男だ」って言ったのに聖女とか言われて、でも今は偽物なんだって。

ちょっと涙が出てきたら、後ろから馬の蹄の音がした。


「ノア！！」

「………！デル…姉さん…！」


去年、俺が学園に入ったのと同時にお嫁に行ったデルフィーヌ姉さんだった。


「ノア！ノア！！ひどい怪我を…！！」

「姉さん…！」


馬からヒラリと降りて俺の額をハンカチで押さえてくれる。

ブワッと涙腺が崩壊する。


「お、お…お姉ちゃん…！あの…、あの、ね……」



語彙力が幼児退行した。


「ああ…！可哀想に！ノア、大丈夫よ！もう大丈夫！お姉ちゃんが貴方を守るわ」

「ペトレルラ公爵夫人！その…御髪おぐしは…！？い、いえ、後でお伺いしましょう。夫人、その者は罪人ですぞ！神聖なる【聖女】と偽り、放蕩の限りを尽くした……」

「お黙りなさい！」


デル姉さんが俺をギュッと抱きしめてくれた。こんなに汚れて酷い臭いなのに。


「ノアはわたくしの弟です！貴方たちのいう【聖女】でなくなっても、ノアは、ただのノアでも！わたくしの弟です！！」

「夫人…！！」

「それに、わたくしももうただのデルフィーヌです！夫とは離婚いたしました！罪人の姉として、わたくしもオデッサに行きます！！」

「なりません！！貴女のその高貴な瞳はヴァンダルの至宝！！貴女の産む御子こそ……！！」

「産みません！！わたくしはノアの為だけに結婚したのですよ！？もう意味がありません！！」

「わあ…！」


デル姉さんがヒョイと俺を抱き上げた。

えええええ……これってお姫様抱っこじゃないの！？


「まあ、ノア！貴方、軽すぎよ？ちゃんと食べていたの？」

「た…食べてたよ！ちょっと食欲無かったけど食べてた！だから下ろして！！」


美少女にお姫様抱っこされる俺って一体…！！



「あのぅ…」



関所の向こうで、のんびりとした声がかけられた。


「早くしねえと補充の村まで日が暮れちまうよ。さあ、乗って乗って」

「貴様…！この状況がわからんのか！？連れて行くなら罪人だけ…」

「良いから良いから。さっ、早く」


トン…と。

御者風の男が関所の兵の首を叩く。

門番が崩れ落ちた。





「そういうことです。さあ、行こっかノア」