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ひとでなしとお世話係
しおりを挟む新しい主人、紫苑との生活はなんとも落ち着かないものだった。今までの人生と全てが違う。
俺の仕事は、新しい主人の世話になった。秘書兼愛人だと言ったあの子供 ーーー セルヴァンス曰く、魔王といういきものは食べなくても死なないし、浄化作用が常に発動しているらしく汚れたり不潔になったりしない。
あの方々は気が向かないと本当になにもしない。
それを動かすのが仕事なのだという。
何という無茶な…。戦って鏖にしてこいと言われた方がまだ簡単だ。
とりあえず起こしてこいと命じられ、紫苑の寝所にいく。……ノックをしても出てこない。声もない。さあどうするべきかとセルヴァンスのもとに戻ると
「もう!アンタ馬鹿なの!?子供のお使いなの!?殺人未遂と殴る蹴るの暴力と暴言以外なんだっていいんだよ!アンタは紫苑様のペットなんだから!!」
ペット……。
あの、ペットというのはアレか。猫とか犬とか…。
今生ではペットというものは見たことがない。だが前世はある。記憶はないが大体わかる。主人の膝下に侍り、甘え、癒すものだろう?
……で、できるのだろうか…。
今生の俺に初めて『無理』という単語が浮かぶ。
「さっさと行ってこい!!」
何やら書類と格闘しているセルヴァンスに蹴り出された。セルヴァンスと言わず、この屋敷の者は皆忙しそうだ。
「紫苑、様…?」
ドアの前で呼んでみる。
「………入るぞ、紫苑様」
セルヴァンスに預かった鍵を使い、扉を開く。
広く豪奢な部屋。それこそ女王の部屋と同等……いや、それ以上に金が掛かっていそうだ。だが何故だろう。非常に殺風景に感じる。その寂しい印象の部屋の天蓋付きの大きなベッドの上。紫苑は小さく丸まって眠っていた。
ああ…この子は、相変わらず…。
………相変わらず?なんだ?一瞬だけ浮き上がってきた記憶は沼へと沈む。
「…ぅ…ん……」
「………っ!」
モゾモゾと紫苑が動く。そうだ。紫苑を起こして……んん?どうすればいいんだ?起こしてこいとは言われたが、その後どうしろという指示はなかったぞ?
とりあえず起こそう。
起こして……セルヴァンスの元へ連れていくか。また怒鳴られる気もするが。
「紫苑、様。朝だ。起きてくれ」
「んん~……ぬぅ………あと、ごふん…」
5分?そうか、5分か。待とう。
「……………………………………」
「………(スゥ…スヤァ…)」
ゆうに半刻は経過しただろうか。紫苑は全く起きる気配がない。
「紫苑様、起きてくれ」
体を揺すれば起きるだろうか。何をしてもいい、と許可が出ている。肩に触れるのは問題ないだろう。
四つん這いで寝台に上がり、紫苑の肩に触れる。パチリと紫苑の目が開いた。
「………ん?あれぇ?ハルさん…?」
「起きてくれ」
「ええ~…」
俺に背を向けるようにころりと転がる。
「しお……」
「やぁん……もー………えっちぃ…」
今の何が『エッチ』なんだ!?
「あ、そうだ……ハルさんも寝よ?」
とろりと細められた紫色の瞳に魅入られる。艶めかしい指が俺の腕に這った……と思えば、この細腕のどこにそんな力が!?と聞きたくなるような怪力で引き倒された。
「……っ…!!紫苑様!?」
組み敷かれて見下ろされた。潤んだ瞳で唇を濡らし、シャツのボタンを開けていく。
「んん~…ふふ……良い雄っぱいだねぇ」
「!!??」
そのまま紫苑は俺の胸を枕にして眠ってしまった。すぅすぅと規則的な寝息が……
「起きろオオオオオオオォォォォッ!!!」
怒鳴り込んできたセルヴァンスによって破られた。
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