悪役令嬢の末路

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探し人《夢》【13】

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 「どうしたの?気分が悪くなった?」

 目を瞑っていたら、突然そう聞こえて目を開けた。しばらく、視界が緑がかって見えたことと、逆光で目の前の人の顔が見えなかったこともあり、数秒沈黙が落ちる。

 「大丈夫?近くにうちの別荘があるんだ、少し休んで行くかい?」

 そう言って、彼は私の手を取った。
 日のあたる場所に、連れ出される。
 彼の顔が見えた。

 彼は…。

 ローディー・シュトワネーゼ?
 資料に写真とおい立ちの説明が書いてあったけれど、いきなり村の領主に会うなんて。
 彼なら村のことをよく知っているだろうし、彼に聞いたら一発かしら。…でも、そんなの聞いたら怪しまれるだろうし、ましてや未来のことだ、知るはずもない。
 大人しく彼についていこう。彼と行動を共にしておけば、情報はおのずと入ってくるかもしれない。

 アイシアナは、そのまま休憩も挟みながらも、彼の手について行った。

 「ねぇ。今日は何日か知っている?」
 「今日は8月12日だよ」
 「じゃあ、今は何年か教えて」
 「今は西暦1324年だけど、どうしたんだい?」
 「いいえ。なんでもないの」
 「そう?ならいいけど、なにか変だなって思ったら教えてね。今日は結構暑いし、熱中症かもしれないから」
 「ありがとう」

 優しい人だ。村の人たちからは、さぞ慕われているのだろう。
 でも、さっきのハルトの話を聞いてからは、村に関してすこし身構えてしまうようになった。
 村人全体が、捨て子を反対している…。なら、この人も?

 いけないいけない。
 ハルトの言葉も信じすぎては駄目だ。この人、村でそんなことがあるって知らないかもしれないし、自分の目でこれから起こること、ちゃんと判断しなきゃ。

 自分の目で見たものを第一に信用すること。
 これも婆様から教えられたこと。まずは信用できる人を増やしていかなきゃ。

 そして、急な坂も登って、やっと着いた彼の別荘。
 すると、別荘の玄関からいきなり人が飛び出してきた。

 「坊っちゃまっ!今までいったいどこをほっつき歩いていたのですか?!午後はご婚約者様が訪ねてくるとあれほどっ!」
 「わ、わかってたよ?バーサ、休んでなきゃダメじゃないか。それに、思わぬ事態が発生したから、人助けをしていただけだよ」
 「休んでなどいられません!……人助け?」

 そこで、やっと私の存在に気づいたらしく、バーサさん(?)は顔を赤くした。

 「至らないメイドで申し訳ございません。お嬢様。さぁさ、中へどうぞ」
 「あ、ありがとうございます」

 ずっと婆様とエレインたち家族との生活をしていたから、メイドや使用人の人を見るのはこの時が初めてで、ついつい見入ってしまった。
 私、貴族でも何でもないのに敬語で話しかけられるとこちらも緊張してしまう。それに、『お嬢様』って…。なんだか恥ずかしい。

 別荘の中に入るとまず目に入ったのが、大理石でできたピカピカな手摺りと床。その床を覆い隠すように敷いてある真っ赤なふかふかのカーペット。そして天井を華やかに魅せるシャンデリア。
 このほかにも、別荘の中は私の未知の世界が広がっていた。

 ここは別荘というから、お屋敷となったらもっと大きいのだろう。…想像できない。


 「本当に申し訳ございませんでした」
 「いいえ。勝手に来てしまったこちらが悪いので、どうぞお構いなく。それに、聞いてしまったのですが、婚約者の方がいらっしゃるのでしょう?私はあまりここにいない方が良いと思うので、少しここで休ませていただいたら、帰らせて頂きます。ですから、大丈夫ですよ」
 「そんな…っ。坊っちゃまからお話は伺っております。なんでも道に迷ってしまわれたのだとか。それでは帰れる道でも帰れません。どうぞ数日でも良いのです滞在してはいただけませんか?」

 そういえば、そんなことも言ったような…。

 強く押されてしまい…結局数日の間だけ滞在させていただくことになった。
 別荘のメイド達は、バーサさんの指示なのか、いきなり現れた私を見て嫌な顔すらせず、寧ろ笑顔で対応してくれた。逆に私は逃げたり暴れたり…一人でできると言ったら無言の圧力がかかってきて、もう仕事終わる前に恥ずか死んでしまうのではと一人思った。メイドさんって怖いのね。

 夕食や湯浴みのお世話をしてもらい、一人夜風に当たって月を眺める。今日はにっかり笑い顔の三日月。

 私のこと、笑ってるのかしら。

 目を伏せると、月明かりに照らされた庭が目に入る。優秀な庭師がいるのか、それともこの別荘の持ち主のセンスか、庭の設計はすばらしい。噴水やトピアリーも置いてあって、遊びごごろもあり、配置も完璧でとても綺麗なお庭だ。

 庭に出ても…いいかな?

 チラッと振り返ると、湯浴みの手伝いをしてくれていたメイドはもう部屋にいなかった。

 よし、出てみよう!

 廊下に出て、こそこそっと外に出てみる。
 うん。良い感じ。
 ここの庭を設計した人は、トピアリー以外に銅像を置くのも好きなのか、いろんな像が置いてある。天使やキューピッド、マンモス、犬、神様らしき像まで、様々。
 でも、一番素晴らしいのはこの噴水。水に映る月はとても神秘的。
 綺麗だなぁ…と、うっとり見つめていると、後ろから声がかかった。

 「そんなに綺麗に感じる?」
 「っ…ええ…」

 咄嗟のことで身構えると、彼は気にもとめずこちらに近づいてくる。

 「そうか。やっぱり、普通の人は、みんなこれを綺麗だと思うんだね」
 「あなたはそう感じないって言うの?」

 彼はうなづいた。

 「そう。何も感じないんだ。綺麗なものも、ただの空虚に見える。何かを見て、満たされたり、感動したことなんて一度もない」
 「でもっ、昼間は「あれはただ応答しただけだったろう?何も感じなくてもそんなこと誰だってできるよ」」
 「そんな…」
 「こんな僕に幻滅した?」
 「幻滅はしてない。でも、あのとき『そうだろう』ってうなづいてくれたとき、本当に嬉しかった。……だから、私を助けてくれたお礼に、今度は私が綺麗なものが綺麗だと感じるように、教えてあげる」
 「そうか。ありがとう。じゃないと人間関係にまで支障をきたしそうだからね」
 「あ、あなたどんだけ空虚に感じてるのよ。人生は空虚だけじゃないわ!世の中にいろんな色があるように、あなたにもいろんな感情があるはずよ」
 「…そうなのかい?」
 「『そうなのかい?』って、もうすこし真剣になっても良いと思うのだけど」

 そう言うと、彼は笑った。
 私も嬉しくなって、笑った。

 彼は、私が施設に入ったばかりの自分にどこか似ている。
 いや、彼は私よりも重症すぎるんだ。


 だから、彼に教えてあげたい。
 世界はこんなに綺麗だってこと。
 そうしたら、彼はもっといろんな人と感情を共有できる。そうなれば、きっと彼の世界も広がる。

 想像すると楽しくなってきて、アイシアナはにんまりとほくそ笑んだ。


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