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夢【4】
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早速、次の日から始めた。
バーサさんが言うには、例の婚約者は、昨夜のうちに怒って帰ってしまったと言う。そこで、彼の言っていた『人間関係にまで支障をきたしそうだからね』の意味がやっとわかった。
「外に連れ出して、いったい何しようって言うんだ?」
私は、彼を噴水に連れ出して、その様子を見ていた。
「この噴水を見て、すごいとは思わないの?」
「ただ水が流れているだけじゃないか。何処に凄いと思えばいい」
「あのねぇ、感情は計算したり、意図的に感じるものじゃないの。心で感じるのよ!」
「心なんてものは体の中に存在しない。あるとすれば、考える脳だけだ」
「もぉー!本当に頭固いわね。そんなしがらみなんて壊してしまいなさい!!考えることを捨てて、この噴水を見て!原理とか、この際どうでも良いの。……噴水で流れた水が風に乗って、私たちの頬や腕ーー身体に引っ付いて、涼しく感じるはずよ。空気が水分を含んでいることには、気づかない?その空気を感じて、自分自身が潤っていくような、満たされていくような気はしないの?」
「……感じないでもない」
「…それだけ?でもまぁ、感じないよりはマシね。本当に少しだけど感じたのよね?」
「あぁ。想像してみたら、なんとなく」
「想像!!結局考えてるじゃない。…まぁいっか」
そうして、その日の授業は終わった。
こうして、更にやる気を出したアイラは、毎日毎日、彼を外に連れ出して、様々なものを見せて、感情を教えようとした。
あるときは、雨上がりの虹を見せたり、あるときは、まだ刈られていない小麦畑に潜り込んだり、あるときは、森に出かけて、野生の動物を見に行ったり、様々なものを見て、カイルの中で何かが変わろうとしていた。
あるとき、彼はアイラに聞いた。
「どうしてそこまでして、僕に感情を教えようとするんだ?」
「決まっているでしょう。感情を知らなければ、世の中の美しさや、楽しさ、汚さなど、知ることができないからよ。何も知らないでいるのは簡単だけれど、そんなの退屈だと思わない?手を伸ばせば、楽しいことが貴方を待ってる。世界は広いし、楽しいことで溢れてる。もちろん汚いものもあるけれど、楽しいことがあれば、その逆の楽しくないことだってある。みんな平等なのよ。それを貴方は知らないといけない。それに、世界はこんなに綺麗なのに、知らないなんて勿体無いわ。それだけ」
そんな事があった後も、アイラは彼を連れ出した。
それが、だんだん彼と彼女の日常になっていって。影から見守ることメイドや使用人達は、何処か嬉しそうだった。
「ねぇねぇ。あの二人、良い感じじゃない?」
「そうねー。やっとお相手見つかってよかったわね。若旦那様」
「もーっ。若旦那様って、まだ早くない?」
「最近お見合いばっかりしてたから、そろそろかなって思っただけよ」
「まぁ確かに。そろそろかもね。この間来てたジニア伯爵令嬢は本当にいけ好かなかったわ。偉そうにしてっ。自分のこと何様だと思ってるのよ」
「えー?お嬢さまとか?」
「案外そう思ってたりしてね。彼女の乳母も来てたけど、絶対あの人の育て方のせいだわ。乳母のくせしてお嬢様にいろいろ吹き込んでるの見ちゃったもん。あんなお嬢様だけど、たぶん凄い純粋なんだよ。乳母の言葉、信じ切ってたし」
「そっかー。お嬢様よりも乳母の方がワルだったのか。このことお嬢様のお母さん知ってるんだろうか。きっと、私はこんな子に育ては覚えはありません!!って泣いてるよね」
「なんだかんだ言って、お嬢様の世界も大変なんだねー」
「「「「ねー」」」」
「貴女たち!エントランスの床掃除は終わったの?!仕事はまだまだあるのよ?!」
「はーい!すみませんバーサさん」
「すみませーん!バーサさんっ、もう大丈夫なんですか?安定期に入ったって言っても、妊婦さんなんだから、仕事は私たちに任せて、ゆっくり休んでてください!!」
「そうですそうです!」
「喋ってばかりの貴女たちは信用できません!私も給金分しっかり働きます!!」
「えー!駄目ですよ!妊婦さんは安静にしてなきゃ」
「その顔、怪しい」
「ひどーい!!私バーサさんのこと心配して言ったのに~」
バーサの「貴女たち!!」という声とキャハハハハッという楽しそうな声が、エントランスに響いた。
アイラは、彼を見ていた。
これまで沢山のものを一緒に見て来たが、彼が心を動かされた…というような顔を、まだ一度も見る事が出来ていないのだ。
その顔さえ見る事が出来たら、良いんだけどなぁ…。
元々の表情が乏しいのか、彼のポーカーフェイスが動くことはほとんど無い。
わかりやすい表情の見方ってないのかしら?
アイラは、時間のことを忘れて、彼と行動を共にしていた為、バーサに言った"数日間"を気にしているのだった。もちろん、バーサにしてもアイラにはこのままずっと主の相手をして欲しいところだが、彼女は帰るところがある身、早々に引き止めることはできないと諦めていたが、悩んでもいた。
「ねぇ、見てっ!」
アイラに呼ばれ、彼は振り返った。
「これから羽化するみたい!すごいわよ!!ほら、見て見て!」
彼女の目の前には、蝶の蛹。背中の部分が破れたらしく、彼女は興奮している。
「わかったよ」
彼は、諦めて彼女の方へ足を向ける。そして、彼女が食い入るように見つめている蛹に目をやった。時間をかけて羽化する蝶には、人間の手には一生かかってもできない、生命の神秘を感じるような気がする。ーー気がするのは、これの感情が、それと当てはまるのかわからないから。どうして彼女は、それがどの感情で、あれがこの感情なのか、なぜわかるのだろう。僕にとって不思議でならない。彼女は誰かに教えてもらったのだろうか。今僕にしているように。
「見てる?今出てきてるよ!」
「ああ」
彼女が知りたい。
どんな時にどんな顔をするのか、見て見たい。
ふと、そう思っている自分に気づいた。
この感情は、何だ?
「無事に飛び立ててよかったね~」
この蝶のように、彼女もいつかは僕の元を離れて行くのだろうか。
「どうしたの?感動、しなかった?」
「…わからない」
この気持ちが、わからない。
彼女が僕から離れようと関係ないはずなのに、考えただけで、虚しいような、胸に穴が空いたような気がするのは何故だ。
理由さえも分からない。もしかしたら、僕には一生かかっても分からない感情なのかもしれない。
***********
バーサさんに、ある頼み事をされたのは、とある日の午後のことだった。
「夏祭り?」
「はい。この土地の神様に五穀豊穣のお祈りを捧げるのですが、皆さん花火を見たり、屋台を回ったりと、思い思いに楽しんでいるのです」
宜しければ、坊っちゃまを誘っては頂けませんか?
「いいですけど、あの人、一緒にお祭りに行く人はいないんですか?」
「…残念ながら」
「わかりました。色々とお世話になっている身ですし、任せてください!」
「よろしくお願い致します」
「ーーっていうことだから、今度はバーサさん公認で夏祭りに行くよ!」
「夏祭り?花火は屋敷から見えるからいい」
「ちょっ、そんなこと言わないで。ね?それに、花火は間近で見るのが一番だって。バーサさんも言ってたよ。なんでも、この大迫力は見た者しか分からないんだって。知りたくない?」
「別にいい」
あらー。
どうしようバーサさん。この人全然乗り気じゃないよっ。
「だが、どうしてもと言うなら行く」
「ほっ本当?!よかったー。バーサさんがね、浴衣貸してくれるって言うから、着てみたかったし、お祭り初めてだから行ってみたかったの。ありがとう!」
こうして、無事約束の取り付けに成功。
この場面もちゃっかり見ていたメイドたちは、歓喜に震えていた。
「坊ちゃんが…坊ちゃんが…」
「女性と初めての夏祭り!ちゃんとエスコート出来るかしら?」
「是非私たちも見守りに行かねば!!」
「これ、もうデートよね?」
「えぇっ。もうそんなに進んでいたの?知らなかったわ」
「こらっ」
そこで、突然後ろから声を掛けられる。
が、彼女たちは驚かない。もう既に慣れていた。
「あっ。バーサさん」
「いいですか、皆さん。決してお坊ちゃまの邪魔はしてはいけませんよ」
「もしかして、バーサさん一人で行くつもりですか?私達も行きたいです!!」
「そんなわけないでしょう。私達は夏祭りも仕事ですよ」
「「「「「ええ~」」」」」
一斉にブーイングである。
**************
そして、夏祭り当日。
「いいですか。紳士たるもの淑女をエスコート出来なくては紳士とは言えませんからね!!」
翻訳すると、絶対祭りの最中はエスコートしろ。もしグラッときても紳士であれと言いたいらしい。
「わかっている。大丈夫だ」
「大丈夫じゃございませんっ。そう言う方に限って全然大丈夫じゃないんです」
「バーサ。僕はもう子供じゃない。自分で考えて行動できる歳になった」
「だからこそ危険なのでございます!」
「危険って…」
「いいですか!紳士は淑女を守るのが役目ですからね。勘違いしないように」
バーサにはそう言われた。
彼がその意味を理解したのは、祭りの最中。
彼女の姿形が、いつもと違う。
どうしてそう思うのか分からないくらい、きっと彼は混乱していたんだと思う。
この時、彼は、彼女がずっと教えたかった感情を知った。
「確かに…綺麗だ」
「え?何か言った?」
「いいや。なんでもない」
「そう?私、りんご飴買ってくるけど、あなたはどうする?」
「場所取りしとくよ。迷子になったら駄目だぞ」
「ならないよ。心配性だなぁ」
彼女はへらっと笑って、屋台の方へ歩いて行った。
バーサさんが言うには、例の婚約者は、昨夜のうちに怒って帰ってしまったと言う。そこで、彼の言っていた『人間関係にまで支障をきたしそうだからね』の意味がやっとわかった。
「外に連れ出して、いったい何しようって言うんだ?」
私は、彼を噴水に連れ出して、その様子を見ていた。
「この噴水を見て、すごいとは思わないの?」
「ただ水が流れているだけじゃないか。何処に凄いと思えばいい」
「あのねぇ、感情は計算したり、意図的に感じるものじゃないの。心で感じるのよ!」
「心なんてものは体の中に存在しない。あるとすれば、考える脳だけだ」
「もぉー!本当に頭固いわね。そんなしがらみなんて壊してしまいなさい!!考えることを捨てて、この噴水を見て!原理とか、この際どうでも良いの。……噴水で流れた水が風に乗って、私たちの頬や腕ーー身体に引っ付いて、涼しく感じるはずよ。空気が水分を含んでいることには、気づかない?その空気を感じて、自分自身が潤っていくような、満たされていくような気はしないの?」
「……感じないでもない」
「…それだけ?でもまぁ、感じないよりはマシね。本当に少しだけど感じたのよね?」
「あぁ。想像してみたら、なんとなく」
「想像!!結局考えてるじゃない。…まぁいっか」
そうして、その日の授業は終わった。
こうして、更にやる気を出したアイラは、毎日毎日、彼を外に連れ出して、様々なものを見せて、感情を教えようとした。
あるときは、雨上がりの虹を見せたり、あるときは、まだ刈られていない小麦畑に潜り込んだり、あるときは、森に出かけて、野生の動物を見に行ったり、様々なものを見て、カイルの中で何かが変わろうとしていた。
あるとき、彼はアイラに聞いた。
「どうしてそこまでして、僕に感情を教えようとするんだ?」
「決まっているでしょう。感情を知らなければ、世の中の美しさや、楽しさ、汚さなど、知ることができないからよ。何も知らないでいるのは簡単だけれど、そんなの退屈だと思わない?手を伸ばせば、楽しいことが貴方を待ってる。世界は広いし、楽しいことで溢れてる。もちろん汚いものもあるけれど、楽しいことがあれば、その逆の楽しくないことだってある。みんな平等なのよ。それを貴方は知らないといけない。それに、世界はこんなに綺麗なのに、知らないなんて勿体無いわ。それだけ」
そんな事があった後も、アイラは彼を連れ出した。
それが、だんだん彼と彼女の日常になっていって。影から見守ることメイドや使用人達は、何処か嬉しそうだった。
「ねぇねぇ。あの二人、良い感じじゃない?」
「そうねー。やっとお相手見つかってよかったわね。若旦那様」
「もーっ。若旦那様って、まだ早くない?」
「最近お見合いばっかりしてたから、そろそろかなって思っただけよ」
「まぁ確かに。そろそろかもね。この間来てたジニア伯爵令嬢は本当にいけ好かなかったわ。偉そうにしてっ。自分のこと何様だと思ってるのよ」
「えー?お嬢さまとか?」
「案外そう思ってたりしてね。彼女の乳母も来てたけど、絶対あの人の育て方のせいだわ。乳母のくせしてお嬢様にいろいろ吹き込んでるの見ちゃったもん。あんなお嬢様だけど、たぶん凄い純粋なんだよ。乳母の言葉、信じ切ってたし」
「そっかー。お嬢様よりも乳母の方がワルだったのか。このことお嬢様のお母さん知ってるんだろうか。きっと、私はこんな子に育ては覚えはありません!!って泣いてるよね」
「なんだかんだ言って、お嬢様の世界も大変なんだねー」
「「「「ねー」」」」
「貴女たち!エントランスの床掃除は終わったの?!仕事はまだまだあるのよ?!」
「はーい!すみませんバーサさん」
「すみませーん!バーサさんっ、もう大丈夫なんですか?安定期に入ったって言っても、妊婦さんなんだから、仕事は私たちに任せて、ゆっくり休んでてください!!」
「そうですそうです!」
「喋ってばかりの貴女たちは信用できません!私も給金分しっかり働きます!!」
「えー!駄目ですよ!妊婦さんは安静にしてなきゃ」
「その顔、怪しい」
「ひどーい!!私バーサさんのこと心配して言ったのに~」
バーサの「貴女たち!!」という声とキャハハハハッという楽しそうな声が、エントランスに響いた。
アイラは、彼を見ていた。
これまで沢山のものを一緒に見て来たが、彼が心を動かされた…というような顔を、まだ一度も見る事が出来ていないのだ。
その顔さえ見る事が出来たら、良いんだけどなぁ…。
元々の表情が乏しいのか、彼のポーカーフェイスが動くことはほとんど無い。
わかりやすい表情の見方ってないのかしら?
アイラは、時間のことを忘れて、彼と行動を共にしていた為、バーサに言った"数日間"を気にしているのだった。もちろん、バーサにしてもアイラにはこのままずっと主の相手をして欲しいところだが、彼女は帰るところがある身、早々に引き止めることはできないと諦めていたが、悩んでもいた。
「ねぇ、見てっ!」
アイラに呼ばれ、彼は振り返った。
「これから羽化するみたい!すごいわよ!!ほら、見て見て!」
彼女の目の前には、蝶の蛹。背中の部分が破れたらしく、彼女は興奮している。
「わかったよ」
彼は、諦めて彼女の方へ足を向ける。そして、彼女が食い入るように見つめている蛹に目をやった。時間をかけて羽化する蝶には、人間の手には一生かかってもできない、生命の神秘を感じるような気がする。ーー気がするのは、これの感情が、それと当てはまるのかわからないから。どうして彼女は、それがどの感情で、あれがこの感情なのか、なぜわかるのだろう。僕にとって不思議でならない。彼女は誰かに教えてもらったのだろうか。今僕にしているように。
「見てる?今出てきてるよ!」
「ああ」
彼女が知りたい。
どんな時にどんな顔をするのか、見て見たい。
ふと、そう思っている自分に気づいた。
この感情は、何だ?
「無事に飛び立ててよかったね~」
この蝶のように、彼女もいつかは僕の元を離れて行くのだろうか。
「どうしたの?感動、しなかった?」
「…わからない」
この気持ちが、わからない。
彼女が僕から離れようと関係ないはずなのに、考えただけで、虚しいような、胸に穴が空いたような気がするのは何故だ。
理由さえも分からない。もしかしたら、僕には一生かかっても分からない感情なのかもしれない。
***********
バーサさんに、ある頼み事をされたのは、とある日の午後のことだった。
「夏祭り?」
「はい。この土地の神様に五穀豊穣のお祈りを捧げるのですが、皆さん花火を見たり、屋台を回ったりと、思い思いに楽しんでいるのです」
宜しければ、坊っちゃまを誘っては頂けませんか?
「いいですけど、あの人、一緒にお祭りに行く人はいないんですか?」
「…残念ながら」
「わかりました。色々とお世話になっている身ですし、任せてください!」
「よろしくお願い致します」
「ーーっていうことだから、今度はバーサさん公認で夏祭りに行くよ!」
「夏祭り?花火は屋敷から見えるからいい」
「ちょっ、そんなこと言わないで。ね?それに、花火は間近で見るのが一番だって。バーサさんも言ってたよ。なんでも、この大迫力は見た者しか分からないんだって。知りたくない?」
「別にいい」
あらー。
どうしようバーサさん。この人全然乗り気じゃないよっ。
「だが、どうしてもと言うなら行く」
「ほっ本当?!よかったー。バーサさんがね、浴衣貸してくれるって言うから、着てみたかったし、お祭り初めてだから行ってみたかったの。ありがとう!」
こうして、無事約束の取り付けに成功。
この場面もちゃっかり見ていたメイドたちは、歓喜に震えていた。
「坊ちゃんが…坊ちゃんが…」
「女性と初めての夏祭り!ちゃんとエスコート出来るかしら?」
「是非私たちも見守りに行かねば!!」
「これ、もうデートよね?」
「えぇっ。もうそんなに進んでいたの?知らなかったわ」
「こらっ」
そこで、突然後ろから声を掛けられる。
が、彼女たちは驚かない。もう既に慣れていた。
「あっ。バーサさん」
「いいですか、皆さん。決してお坊ちゃまの邪魔はしてはいけませんよ」
「もしかして、バーサさん一人で行くつもりですか?私達も行きたいです!!」
「そんなわけないでしょう。私達は夏祭りも仕事ですよ」
「「「「「ええ~」」」」」
一斉にブーイングである。
**************
そして、夏祭り当日。
「いいですか。紳士たるもの淑女をエスコート出来なくては紳士とは言えませんからね!!」
翻訳すると、絶対祭りの最中はエスコートしろ。もしグラッときても紳士であれと言いたいらしい。
「わかっている。大丈夫だ」
「大丈夫じゃございませんっ。そう言う方に限って全然大丈夫じゃないんです」
「バーサ。僕はもう子供じゃない。自分で考えて行動できる歳になった」
「だからこそ危険なのでございます!」
「危険って…」
「いいですか!紳士は淑女を守るのが役目ですからね。勘違いしないように」
バーサにはそう言われた。
彼がその意味を理解したのは、祭りの最中。
彼女の姿形が、いつもと違う。
どうしてそう思うのか分からないくらい、きっと彼は混乱していたんだと思う。
この時、彼は、彼女がずっと教えたかった感情を知った。
「確かに…綺麗だ」
「え?何か言った?」
「いいや。なんでもない」
「そう?私、りんご飴買ってくるけど、あなたはどうする?」
「場所取りしとくよ。迷子になったら駄目だぞ」
「ならないよ。心配性だなぁ」
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