20 / 68
夢【1】
しおりを挟む
知恵熱で寝込んでいる数日間、アイラは夢を見続けた。
けれど、その夢の見方は普段と少し違っていた。
自分は白い部屋の中にいた。目の前には、いくつかの玉がある。玉一つ一つに、なにかしらの記憶が入っているらしく、それぞれに自分と彼が映っていた。
試しに近くの玉に触れようとすると、凄い力で引っ張ってきた。自分の身体が、玉に近づいて行くのがわかる。
「と、止まって!!」
それでも身体は止まることを知らず、どんどん玉に近づいて行く。玉が目の前に近づいてきたとき、『もう駄目だ』と思い目を瞑った瞬間。何かを突き抜けたような感覚に襲われた。
「どうしたの?気分が悪くなった?」
突然声が聞こえて、目を開けた。
「…っ……」
驚き過ぎて、声すら出なかった。
……夢で見た彼だ。
「大丈夫?近くにうちの別荘があるんだ少し休んで行って」
そう言って、彼は私の手を取った。
逆光で顔が見えないのかと思ったが、普通に日が差しても、彼の顔は見えなかった。
でも、彼だ。
昨夜手を引かれた感覚。まだ覚えている。
私の手を引く彼の手は、昨夜と全く一緒。
間違いなく彼だと、自分の中で確信していた。
彼は私の手を引いて、細長い農道を歩いて行く。
「君はどこから来たの?」
彼は私に聞いた。どう答えようか悩んでいると、彼は黙っている私を見て何を思ったのか。慌てて弁解した。
「あっ、答えたくなかったらいいんだ。別に、余所者だからって理由で放り出したりしないし。ただ、見慣れないから、迷子だったら送り届けてあげようと思って…」
その慌てようが面白くて、ついつい、吹いてしまった。
すると、彼は私の反応にピクッと固まってしまった。その反応に、今度は私が慌ててしまう。
「ごっごめんなさい。親切心で聞いてくれたのに…」
「いいんだ。女性なんだからそれくらい警戒した方が良い。それに、ここは王都から離れているとはいえ、悪い人もいるからね。君も気をつけて」
「ご忠告ありがとう。気をつけるわ」
歩き始めてどれくらい経ったろう。日差しが強い。季節は夏なのだろう。空も晴れて、わた雲の群が見える。耳をすませば、蝉の声が聞こえ、側を見回せば、草木も青々茂ってとても艶々輝いている。あたりは農園なのか、田畑を耕している人がちらほら。
とってものどかで落ち着く場所だ。その調子で目の前の彼を目を向けてみると、沢山汗をかいている。
汗をかきすぎるのもよくない。
「ねぇ、少し休憩しない?ちょうどあそこに良い感じの木があるわ。貴方もこのままじゃ熱中症になってしまう。少し休んでから行きましょうよ」
「そうだね。途中で倒れちゃ元も子もない」
彼は素直にうなづいて、木陰を目指して歩いて行く。
本当に優しい人だ。きっと、喧嘩とか一番嫌いなんだろうなぁ。と、一人考えながらアイラは彼に手を引かれて行った。
けれど、その夢の見方は普段と少し違っていた。
自分は白い部屋の中にいた。目の前には、いくつかの玉がある。玉一つ一つに、なにかしらの記憶が入っているらしく、それぞれに自分と彼が映っていた。
試しに近くの玉に触れようとすると、凄い力で引っ張ってきた。自分の身体が、玉に近づいて行くのがわかる。
「と、止まって!!」
それでも身体は止まることを知らず、どんどん玉に近づいて行く。玉が目の前に近づいてきたとき、『もう駄目だ』と思い目を瞑った瞬間。何かを突き抜けたような感覚に襲われた。
「どうしたの?気分が悪くなった?」
突然声が聞こえて、目を開けた。
「…っ……」
驚き過ぎて、声すら出なかった。
……夢で見た彼だ。
「大丈夫?近くにうちの別荘があるんだ少し休んで行って」
そう言って、彼は私の手を取った。
逆光で顔が見えないのかと思ったが、普通に日が差しても、彼の顔は見えなかった。
でも、彼だ。
昨夜手を引かれた感覚。まだ覚えている。
私の手を引く彼の手は、昨夜と全く一緒。
間違いなく彼だと、自分の中で確信していた。
彼は私の手を引いて、細長い農道を歩いて行く。
「君はどこから来たの?」
彼は私に聞いた。どう答えようか悩んでいると、彼は黙っている私を見て何を思ったのか。慌てて弁解した。
「あっ、答えたくなかったらいいんだ。別に、余所者だからって理由で放り出したりしないし。ただ、見慣れないから、迷子だったら送り届けてあげようと思って…」
その慌てようが面白くて、ついつい、吹いてしまった。
すると、彼は私の反応にピクッと固まってしまった。その反応に、今度は私が慌ててしまう。
「ごっごめんなさい。親切心で聞いてくれたのに…」
「いいんだ。女性なんだからそれくらい警戒した方が良い。それに、ここは王都から離れているとはいえ、悪い人もいるからね。君も気をつけて」
「ご忠告ありがとう。気をつけるわ」
歩き始めてどれくらい経ったろう。日差しが強い。季節は夏なのだろう。空も晴れて、わた雲の群が見える。耳をすませば、蝉の声が聞こえ、側を見回せば、草木も青々茂ってとても艶々輝いている。あたりは農園なのか、田畑を耕している人がちらほら。
とってものどかで落ち着く場所だ。その調子で目の前の彼を目を向けてみると、沢山汗をかいている。
汗をかきすぎるのもよくない。
「ねぇ、少し休憩しない?ちょうどあそこに良い感じの木があるわ。貴方もこのままじゃ熱中症になってしまう。少し休んでから行きましょうよ」
「そうだね。途中で倒れちゃ元も子もない」
彼は素直にうなづいて、木陰を目指して歩いて行く。
本当に優しい人だ。きっと、喧嘩とか一番嫌いなんだろうなぁ。と、一人考えながらアイラは彼に手を引かれて行った。
33
お気に入りに追加
1,510
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる