冬生まれ

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結那は完璧な男だ。

成績良し。性格良し。運動神経も良し。オマケに友達は多く、女子にモテるし背も高い。

その反面、俺は冴えない男だった。

成績は悪い。性格も歪んでる。運動神経もてんで駄目。オマケに友達はいても馬鹿にされ、女子には一度たりともモテた事がなく、背が140センチと異様に低い。

結那に勝るモノが何一つない。

そんな俺が結那をギャフンと言わせるには復讐しかない。しかし、そう思って考えを巡らせるが、俺の脳みそではこれといった良い復讐方法が浮かばなかった。だからまず手始めに、結那の嫌いなモノ作戦で復讐しようと思った……。

「なー結那」「なに?」「お前は苦手なモノとかあったりする?」

ある時、手っ取り早く直接本人に聞いた。

「特に無いかなぁ?」

何もなかった。

「イヤイヤ、何かあんだろ?」

必死に訊ねてみたものの、返ってきたのは────。

「ううん。特にないよ」

何もなかった。それでも必死に調査して、色々探ってみた。

「なぁーおまえら、結那の嫌いなモノや苦手なモノ何か知らない?」

友人達にも話を聞いた。

「えー?知らね」「アイツに苦手なモノとかあんのか?」「奏人と違って好き嫌いしないイメージのが強いからなー」「ほっとけ!」「こないだなんか、教室に入ってきた虫を平気で外に出してたし……」「ホラー映画や幽霊動画なんかも楽しんで見てたぞ?」「ヤダァ…何それ怖い!」

やはり結那には嫌いや苦手なモノがないらしい……。

「つか、俺らより本人に聞けよ?」「だって本人が無いって言うから……」「じゃあねーじゃねぇーか!奏人お前相変わらず阿呆だな?」

阿呆呼ばわりされた……むかつく!!

なんの手掛かりも掴めぬまま、この作戦は失敗に終わった。

続いて違う作戦を決行する事にした。

「なぁ、結那?」「なに?奏人……」

相変わらず女子に囲まれ、自身の席に座っている結那にあえて質問する。

「結那の好きな物って何?」「好きな物?」

結那はキョトンとした顔で俺を見つめた。

「あぁ。なんかあるだろ?食べ物だとか、音楽だとか……」「んー」

考え込む結那に俺は不敵な笑みを浮かべる。

『フフフフ…結那の奴、まさかこれが第二の作戦だとも知らないで!』

案の定、結那をとり囲む女子達はコロッと雰囲気を変えた。瞳にハートを浮かべて恋を夢見る乙女が一変。何処からでも人を撃ち抜く凄腕スナイパーの目付きに変わり、結那の言葉を今か今かと待ち望んでいる。

そう。

俺の次なる作戦は、結那の好きな物を聞いてそれを女子達にプレゼントさせようという根端だった。これは一見、ただ結那がウハウハになるだけだと思う奴がいるかもしれない。馬鹿かお前は…やっぱ馬鹿と罵る奴もいるかもしれない。

だが、しかーし!

そうとは限らないんだよなぁ……これが。何故なら、人は好きな物だろうと沢山貰えば『えっ、またそれ?もういいよそれは……ホント、いいって』と、こうなるモンだ。そうして結那の好きな物を嫌いにさせ、尚且つ『もう要らない!』と断る結那に女子達は『結那くんが貰ってくれなかった!』『マジ酷ーい!結那くんサイテー!!』とか言われて女子達に結那を嫌いになって貰う完璧な作戦なのだ!

因みに、馬鹿は俺じゃないおまえらの方だッッ!!

笑いを堪えながら結那を見ると、結那は『あっ』と呟き告げる。

「ひとつだけあるよ!」「え、何々?」

嬉々として訊ねると、結那は笑顔で指を差した。

「奏人!」「はっ?」

その瞬間、結那を囲んでいた女子達の殺気に満ちた目付きは此方へ一点集中した。

いやーん。女子の眼力怖くてぴえん。

「ばっ……ちげーよ結那!!人じゃなく食べ物だったり欲しい物とかだってぇ!」「えー?」

慌てて訂正させると、結那は少し考える素振りをしてからふざけた様に告げる。

「やっぱり、俺は奏人“ちゃん”が欲しいなぁ?」「ひえっ……」「へぇ。だって~良かったわねぇー奏人ちゃん?」

女子達は笑顔で俺の名を呼んだ。ただ、その目は笑っちゃいなかった。蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちなんだね……?いてもたってもいられなくなった俺は、結那に助けを求めるアイコンタクトを出す。しかし、結那はクスリと意地の悪い笑みを浮かべていた。

『クソおぉぉ~~あのタラシ、憶えてやがれっっ!!』

心の中で負け犬の遠吠えを上げながら、俺は女子にヤらるれ前にその場から脱兎の如く逃げ出した。
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