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ある日の放課後。
教室を出ようとする彼を見計らい、引き留めた。
「あのさ、ちょっといい?」
「……」
教室に残っていたクラスメイトは、僕らに構うこと無くそそくさと教室を後にする。
声を掛けられた彼は、冷めた目つきで僕を見下ろした。
何も言わずにただジッと見つめてくる彼は、何処か別人に見え、思わず目を逸らしてしまった。
そんな僕を無視して彼は踵を返す。
「あっ…待って」
去ろうとする彼の腕を思わず掴もうとしたその刹那。
───ガンッ!
鈍い音が空気を裂いた。
彼の左足が僕を横切り、壁にぶつかる音だと気付いたのは真横すれすれに彼の足を見た時だった。
僕は目を見開いて彼を見つめると、彼は今にも僕を殺しそうな程の恨みや怒りに満ちた顔を向けていた。
初めて向けられる殺意に震えて声が出なくなる。
足から力が抜け、地面に座り込む僕は彼に胸ぐらを勢い良く掴まれた。
「何話し掛けてきてんの?お前が言ったんだろ、関わんなってさぁ!」
「うぅっ……」
強く引っ張られる胸ぐらに息が苦しくなる。
彼は更に力強く拳を握った。
「なのにっ、お前から近付いてくるとか……」
「ぐっ…ぅッ……」
呻く僕を睨み付けた彼は、僕の胸ぐらを掴んだまま、もう片方の手をズボンのポケットに突っ込み、ある物を取り出した。
彼の掌に握られたそれは、鋭く尖った刃先を鈍く光らせ僕を映す小型のナイフだ。
「ヒッ…!!」
目の前の凶器に小さく悲鳴を漏らすと、彼は刃先を僕に向けた。
「ハハハッ…ウケる。マジでお前殺してやろうか?」
冷や汗が額から溢れ出し、血の気が引いた。
目を細めながら、彼は僕の腹に刃先を突き付ける。
あと少し力を込めれば突き刺さる位置に刃先を固定すると彼は唐突に呟いた。
「なぁ…お前さぁ、何であの時あんな事言ったの?」
怯えながらも彼を見ると、真顔で見つめられてから再度問い掛けられる。
「もう僕に関わらない方がいいって、なんであんな事言ったの?」
「それは…」
彼の口から出た問いに、あの時の女子の言葉が蘇る。
「───でもさぁ、アイツ田野クンと釣り合わないじゃん?それなのにアイツと一緒にいるとかマジで田野クン穢れるじゃん!チョー嫌なんだけど!!」
僕は別に自分が何を言われたって構わなかった。
だけど、あの時のあの言葉は僕にとって最大の屈辱でしかなかった。
「なぁ、聞いてんの?」
その声でふと我に返ると、彼は冷たい眼差しで僕を睨んでいた。
「なんであんな事言ったのか聞いてんだけど。もしかして答えられないの?俺を嫌いになったから……」
「……」
腹に刃先が当たりチクリと痛みが走る。
何も答えない僕に苛立ちを抑えきれない彼は確実に僕を殺そうとしていた。
「なぁ、早く言えよ。ホラッ!!」
彼が凶器に力を入れた瞬間、僕の口は本音をぶちまけた。
「違う…ッ」
「あっ?」
「君は…君はいつも格好良くて、スポーツ万能で皆から好かれるスターなんだ。でも僕は真逆で、、だからこんな奴と連んでばかりいると君まで穢れてしまうから……」
「は?」
「だからっ、僕みたいな不細工と居たんじゃ君が馬鹿にされるって───」
そこまで言いかけた時、彼は僕の肩を強く押した。
勢い余って押し倒された僕は、床に叩きつけられた背中の痛みよりも先に彼の顔に気をとられていた。
彼の顔はいつになく酷く歪んでいたからだ。
「なんでっ……」
「…ッ」
彼は小さく口を動かす。
「なんでお前は分かってくんないの?お前は何年俺の幼馴染みやってんのっ!!俺はずっと、お前をッ……」
今にも泣き出しそうなその顔に僕の胸はズキリと痛んだ。
「…ごめん」
咄嗟に漏れた謝罪の言葉に彼は静かに目蓋を閉じた。
眉に皺を寄せ、閉じられた瞳からはポロポロと頬を伝い、流れ落ちる涙は僕の制服に染み込んだ。
僕は手を伸ばし、涙で濡れた冷たい頬をそっと指先で優しく撫でると、寝そべる僕の胸へと頭を埋めて、彼は泣き続けた。
僕はそんな彼を何も言わずに抱き締めた。
教室を出ようとする彼を見計らい、引き留めた。
「あのさ、ちょっといい?」
「……」
教室に残っていたクラスメイトは、僕らに構うこと無くそそくさと教室を後にする。
声を掛けられた彼は、冷めた目つきで僕を見下ろした。
何も言わずにただジッと見つめてくる彼は、何処か別人に見え、思わず目を逸らしてしまった。
そんな僕を無視して彼は踵を返す。
「あっ…待って」
去ろうとする彼の腕を思わず掴もうとしたその刹那。
───ガンッ!
鈍い音が空気を裂いた。
彼の左足が僕を横切り、壁にぶつかる音だと気付いたのは真横すれすれに彼の足を見た時だった。
僕は目を見開いて彼を見つめると、彼は今にも僕を殺しそうな程の恨みや怒りに満ちた顔を向けていた。
初めて向けられる殺意に震えて声が出なくなる。
足から力が抜け、地面に座り込む僕は彼に胸ぐらを勢い良く掴まれた。
「何話し掛けてきてんの?お前が言ったんだろ、関わんなってさぁ!」
「うぅっ……」
強く引っ張られる胸ぐらに息が苦しくなる。
彼は更に力強く拳を握った。
「なのにっ、お前から近付いてくるとか……」
「ぐっ…ぅッ……」
呻く僕を睨み付けた彼は、僕の胸ぐらを掴んだまま、もう片方の手をズボンのポケットに突っ込み、ある物を取り出した。
彼の掌に握られたそれは、鋭く尖った刃先を鈍く光らせ僕を映す小型のナイフだ。
「ヒッ…!!」
目の前の凶器に小さく悲鳴を漏らすと、彼は刃先を僕に向けた。
「ハハハッ…ウケる。マジでお前殺してやろうか?」
冷や汗が額から溢れ出し、血の気が引いた。
目を細めながら、彼は僕の腹に刃先を突き付ける。
あと少し力を込めれば突き刺さる位置に刃先を固定すると彼は唐突に呟いた。
「なぁ…お前さぁ、何であの時あんな事言ったの?」
怯えながらも彼を見ると、真顔で見つめられてから再度問い掛けられる。
「もう僕に関わらない方がいいって、なんであんな事言ったの?」
「それは…」
彼の口から出た問いに、あの時の女子の言葉が蘇る。
「───でもさぁ、アイツ田野クンと釣り合わないじゃん?それなのにアイツと一緒にいるとかマジで田野クン穢れるじゃん!チョー嫌なんだけど!!」
僕は別に自分が何を言われたって構わなかった。
だけど、あの時のあの言葉は僕にとって最大の屈辱でしかなかった。
「なぁ、聞いてんの?」
その声でふと我に返ると、彼は冷たい眼差しで僕を睨んでいた。
「なんであんな事言ったのか聞いてんだけど。もしかして答えられないの?俺を嫌いになったから……」
「……」
腹に刃先が当たりチクリと痛みが走る。
何も答えない僕に苛立ちを抑えきれない彼は確実に僕を殺そうとしていた。
「なぁ、早く言えよ。ホラッ!!」
彼が凶器に力を入れた瞬間、僕の口は本音をぶちまけた。
「違う…ッ」
「あっ?」
「君は…君はいつも格好良くて、スポーツ万能で皆から好かれるスターなんだ。でも僕は真逆で、、だからこんな奴と連んでばかりいると君まで穢れてしまうから……」
「は?」
「だからっ、僕みたいな不細工と居たんじゃ君が馬鹿にされるって───」
そこまで言いかけた時、彼は僕の肩を強く押した。
勢い余って押し倒された僕は、床に叩きつけられた背中の痛みよりも先に彼の顔に気をとられていた。
彼の顔はいつになく酷く歪んでいたからだ。
「なんでっ……」
「…ッ」
彼は小さく口を動かす。
「なんでお前は分かってくんないの?お前は何年俺の幼馴染みやってんのっ!!俺はずっと、お前をッ……」
今にも泣き出しそうなその顔に僕の胸はズキリと痛んだ。
「…ごめん」
咄嗟に漏れた謝罪の言葉に彼は静かに目蓋を閉じた。
眉に皺を寄せ、閉じられた瞳からはポロポロと頬を伝い、流れ落ちる涙は僕の制服に染み込んだ。
僕は手を伸ばし、涙で濡れた冷たい頬をそっと指先で優しく撫でると、寝そべる僕の胸へと頭を埋めて、彼は泣き続けた。
僕はそんな彼を何も言わずに抱き締めた。
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