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1.出会ってしまいました。

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「……最低ですね。」
「よく言われる。」

皮肉めいた笑みを返された。

「……分かりました。いいですよ。その代わり、絶対黙っててくださいね?」

せめてもの抵抗として紅先輩を睨みつけると、やっぱり先輩は面白そうに笑いながら「分かってるよ」と言って私から離れた。



お店の閉め作業をした後。裏口から表の通りに出た私は思わず顔をしかめた。

「よ。」

まさか本当にいるとは……。
あの後紅先輩は私にバイトが終わる時間を聞いて、しばらくしてから栗生先輩と一緒に帰っていった。
噂通りの女たらしなら、私がバイトを終わるのを待つより他の可愛い女の子見つけて遊びに行くとも思ったけど。

「なに?」
「いや、変な所で律儀なんだな、と」
「なんだそれ」

そしてそのまま紅先輩が私を見下ろす。

「なんですか?」
「あ? や、さっきも思ったけどよ。随分小せぇなって。」

不愉快とばかりに先輩を思い切り睨み上げる。

「そのサイズで睨まれても怖くねぇよ。」
「貴方が高すぎるんですよ。」
「まぁな。」

母譲りの小柄な体躯なのは知ってる。自分の身長に不満を抱いたことはないけど、馬鹿にされるのは当然別だ。

「……で、どこに向かってるんですか?」
「そりゃ俺んち。」

煙草を取り出し事もなく先輩が言う。

「ホテルがよかった? 俺はどっちでもいいけど。」
「……20歳未満は煙草禁止ですよ。」

先輩の問いには答えず、私は喫煙を非難する。

「じゃー俺から取り上げてみる?」

挑発的にそう返された。私が届かないの分かってて言ってる。性格の悪い人だ。

「貴方の肺がどうなろうが私には関係ないので。」

少し甘い、煙草の匂いが鼻をくすぐる。
先輩の肺がどうなろうと関係ないけど受動喫煙は勘弁したい。
眉間にしわを寄せて少し後ろを歩く私に気づいた先輩が、風向きを考えて私の反対に移動する。

「嫌なら言えばいいのに」
「言ったところで聞いてもらえると思ってなかったので」
「ふぅん? 俺信用されてない?」

だいぶ驚いて私は紅先輩を見上げる。

「さっきから今までの言動で信用してもらえると思ってたんですか……?」

先輩はそれには特に何も言わなかった。
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