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第4章*想いの糸は絡まり合う
52・地獄の選択肢
しおりを挟む「遅いじゃない、アステロッド。人をこんな檻に閉じ込めておいてどこ行ってたのよ」
アステロッドに負けてなるものか、とルーナは彼の濃紫の瞳をキッと見上げた。
対して、アステロッドはやれやれと肩を竦めて軽く息を吐く。
「いやぁ、休暇の申請とか、色々ね。準備をしてたんだよ」
「準備? 何の?」
一体何の準備をしていたというのだろう。
ルーナは小首を傾げる。
アステロッドは檻の扉を開けると、静かにルーナの方へと歩み寄ってきた。
「もちろん、君と俺のハネムーンの準備に決まっているだろ?」
(うげげ……っ)
ぞわり。
アステロッドのうっとりとした表情に、ルーナの体に悪寒が走る。
思わず、近寄ってくるアステロッドからずささっと距離を取った。
「ね、寝言は寝て言ってちょうだい! あんたとハネムーンなんて行くわけないでしょ」
行くとするならアステロッドではなくマクシミリアンとに決まっている。
「そもそも、あんたと結婚してないし」
ハネムーンとは、結婚したふたりが行く初めての旅行のことだろう。
いっぺん辞書か何かで『ハネムーン』が何なのかを調べてから出直してきて欲しい。
「結婚してない? 違うよルーナ」
「はぁ? 何が違うって言うのよ」
一体全体、何を言っているのだ。この魔法使いは。
会話が噛み合っているようで全く噛み合っておらず、ルーナは何となく気持ち悪さを感じていた。
アステロッドが何を言いたいのか掴めなくて、ルーナは胡乱な目付きで見上げる。
「これから結婚するんだよ。そうしたら、君と俺の初めての旅行はハネムーンになるだろ」
「いやいや、あんたと結婚しないから。ハネムーンにはならないわよ」
堂々巡りで埒が明かない。
あまりにも不毛なやり取りに、ルーナはいらいらとこめかみを抑えた。
(ていうか私、仕事中なんだけど?)
あまりにも衝撃の展開に、すっかり記憶から抜け落ちてしまっていたが、ルーナはこれでも一応仕事中の身なのだ。
ルーナが使用人控え室から姿を消したと知られれば、マクシミリアンにも王子にも迷惑をかけるだろう。
(早く戻らないと)
「イライラしてるね」
「あんたのせいでね」
即答で返したルーナの足元に、アステロッドはすっと跪いた。
「な、なに」
「ルーナ」
真剣な声で名前を呼ばれる。
ルーナは思わず身構えた。嫌な予感がする。
「俺と、結婚しよう」
「はぁ?」
嫌な予感が当たった。
アステロッドが跪くシーンには、嫌な心当たりがあった。
乙女ゲーム『MRL』の、アステロッドルート終盤のシーンだ。
紆余曲折あって、主人公・ルーナにアステロッドが結婚を申し込む。申し出を受け入れればベストエンドを迎えることが出来るが、断った場合は主人公を殺してアステロッド自身も死ぬという、ヤンデレバッドが待っている。
(え、詰んだ)
強気に受け答えはしたものの、ルーナは体中に冷や汗をかいていた。
プロポーズを受けても地獄、断っても地獄じゃないか。
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