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第3章*パーティーと気持ちの行方

37・「はいもう限界」byルーナ

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 マクシミリアンはあの日のように、無言でルーナの腕を引いていく。
 ルーナの頭は混乱するばかりだ。

(好き? 本気で? マクシミリアンが? 私を?)

 ずっと願っていた、夢のような言葉に心が踊る。
 信じたい。
 だけど、好きだと思ってもらえる理由がルーナには分からない。
 
 マクシミリアンはルーナの部屋までたどり着くと、「では」と踵を返そうとした。
 
(はぁ!?)

 もう意味が分からない。
 マクシミリアンは何がしたいのだろう。
 どうしてここまで来てまだ逃げようとするのか。
 何も言うことはないのだろうか。

「ちょ、ちょっと待って!!」

 ルーナは咄嗟にマクシミリアンの腕を掴んで引き止める。
 マクシミリアンは、一瞬だけ黒い瞳を見開いた。 

「……なぜ、私を引き止めるのです」

「なんで逃げようとするの」

 なぜ、はこちらの台詞だ。
 逃げる必要がどこにあるというのだろう。

(私も好きなのに)

 好きで好きで、どうしようもないほど好きなのに。

「なぜ、と言われましても……。貴女は、私に好かれて迷惑でしょう?」

「…………はあ?」

(何言ってるの、こいつ)

 マクシミリアンの勘違いもいいところの言葉に、ルーナは素っ頓狂な声を上げた。
 
(私、迷惑なんて思ってないんだけど?)

 むしろ逆だ。
 大喜びだ。
 迷惑だなんて誤解は、一体どこから来たのだろうとルーナは疑問に思う。

「私、迷惑なんて一言も言ってないんですけど」

「…………何を言って」

「むしろ好かれて嬉しいんですけど」

「……っ」

 ルーナの言葉に、マクシミリアンはかぁと頬を赤らめた。口元を手で覆って顔を逸らす。

「ですが……私は貴方を無理やり抱いた。嫌われて当然だ」

 まるで罪を懺悔するように。
 マクシミリアンは声を絞り出した。

(いや本当に何言ってるの)

 あれはほとんど、というかすべてアステロッドのせいだ。
 アステロッドがルーナに媚薬なんてものを飲ませたから、その中和のためにマクシミリアンは動いてくれた。

(アステロッドを嫌うならともかく、どうして助けてくれたマクシミリアンを嫌わないといけないの)

「無理やりなんかじゃない……私は、マクシミリアンを嫌ってなんかいない……っむしろ――……」

 ルーナは恥ずかしさを堪えて口にした。
 どうしたら、この人は分かってくれるだろう。
 これ以上誤解されたくない。

(だったらもう、言うしかない)

 マクシミリアンが好きだと言ってくれたのに、今更ここにきて引くわけにはいかなかった。
 ……引こうなんて、思えるわけがない。

「私は、マクシミリアンのことが好きなの……!」

(ねぇ、伝わって)

 ルーナはマクシミリアンのシャツの胸元あたりを掴むと、ぐいっと自分のほうへ引き寄せた。
 ルーナの行動を予想していなかったのか、いとも簡単にマクシミリアンは体勢を崩す。
 前のめりになったマクシミリアンの唇に、ルーナは自身のそれを押し付けた。

「……っ!?」

(好きなのよ)

 驚きのあまり、マクシミリアンは固まっている。
 瞬きをする余裕さえないのか、目を見開いたまま。 
 
「……ん……」

 そっと唇を離してマクシミリアンを見上げると、マクシミリアンは呆然としていた。

「こんなことをして……貴女は……」
   
 こんなこととは、キスのことだろうか。
 マクシミリアンは唇を指でなぞりながら、呻くように言う。
 黒い瞳が揺れているのが見て取れた。

「私を試しているのですか?」

 マクシミリアンの黒い瞳が、探るようにルーナを見つめる。
 ルーナは負けじとマクシミリアンを見つめ返した。

「試す? 違うわ。好意を伝えているだけよ」

「~~っ貴女は!!」
 
 ハッキリと言い放ったルーナに、マクシミリアンは堪えきれないというように前髪をかきあげる。
 次の瞬間、マクシミリアンは強い力でルーナを引き寄せると、ルーナの背後にあった部屋の中に押し込んだ。

「きゃ……っ!」

 月明かりしかない、暗い部屋の中。
 マクシミリアンはルーナの背を壁に押し付け、自身の体で囲いこむ。

(な、なになになになにごと!?)

 突然のことに頭がついて行かないルーナに、マクシミリアンは熱を宿した瞳を向けた。
 あまりにも真っ直ぐな視線に、ルーナの鼓動が勝手に加速して息が出来なくなる。
 
「私は貴女を好きだと言っているのに、隙ばかりみせて誘惑して……、襲われても文句は言えませんよ……?」

 マクシミリアンが、くい、とルーナの顎を指先で掬う。
 ゆっくりとマクシミリアンの顔が近づいてきて、ルーナの唇を柔らかく塞いだ。
 
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