37 / 75
第3章*パーティーと気持ちの行方
30・マクシミリアンルートのイベントをください(切実)
しおりを挟むルーナがその話を聞いたのは、マクシミリアンに『二人の時は敬語を使わなくてもいい』と言われた夜から二日後のことだった。
「え? 王子主催のパーティー……?」
使用人控え室で朝の打ち合わせ中。
突然のマクシミリアンの言葉に、ルーナは思わず聞き返してしまった。マクシミリアンは静かに頷いた。
「ええ、開催する予定です。しばらく仕事が増えるということを、貴女にもお伝えしておこうと思いまして」
(これは、まずい)
マクシミリアンの言葉さえ、ルーナの耳を右から左へ抜けていく。
王子主催のパーティーなど、とんでもない。
なぜならそれは、王子ルートのイベントなのだから。
(ねぇ、待ってよ待って。私、王子ルートを目指してなんかないんだけど?)
むしろルーナが入りたいのは、今目の前で書類を片手にこちらを見ているマクシミリアンのルートなのに。
(いやいや待て待て。まだ王子ルートに入ったと決まったわけじゃない。だってほら、他のイベントは起こしてないもん)
本来のゲーム『MRL』では、どのキャラのルートであっても、主人公ルーナは身体を使ってのし上がろうとする。
つまり、どのルートであっても色仕掛けをしているというわけだ。
(でも私はしてないもんね)
ある意味個別ルートに入る必須条件であると思われる身体を重ねるという行為は、何故か王子ではなくマクシミリアンとしてしまった。
それも、アステロッドのせいで。
だが、マクシミリアンルートに入っているのかと言われれば、ルーナはそれにも首を捻らざるを得ない。
王子ルートに似たイベントばかり発生するのに、マクシミリアンのイベントが発生してくれないのは何故だ。
(どうやったら、マクシミリアンは私を見てくれるのよ)
今のルーナにとって、これはゲームではなく現実だと分かっている。
それでも納得いかなかった。
嫌われてはいなくても、異性として好かれている自信がない。
(……好きなのに)
好きな人のルートに入れないのは何故だ。
現実とは、かくも上手くいかない。
「ルーナさん、聞いていますか?」
「あっ! はい! 聞いています!」
不審げなマクシミリアンの声に、ルーナははっと我に返る。
慌てて返事をしたルーナに、マクシミリアンは少しだけ不満そうな顔をした。
(……?)
「マクシミリアン? どうかしたの? ……ですか」
(……敬語使わないのって、今更だと逆に難しい)
本当は「どうかしたの?」と聞くつもりだった。
だが、どうにも勇気が出ない。
中途半端に「ですか」と付け加えてしまって、ルーナ自身違和感を感じる。
言われたマクシミリアンは、ルーナよりも違和感を感じているだろう。
「……敬語は使わなくてもいいと申しましたが」
案の定、ほんの少しだけ不満そうな色を滲ませたマクシミリアンにそう言われてしまう。
その表情が可愛く見えてしまって、ルーナは誤魔化すように苦笑した。
「はは……つい、うっかり癖で……」
「いえ、すみません。別に強制するつもりは無いのです。わがままを言って、申し訳ありません」
「えっ! いやいやいや!!」
マクシミリアンが落ち込んだように言う。
ルーナはマクシミリアンの言葉を否定するように慌ててぶんぶんと手を振った。
「わがままなんかじゃないですよ! むしろ仲良くなれたみたいで嬉しいです!」
何もかもを忘れてしまうくらい、マクシミリアンの言葉ひとつに舞い上がってしまう。
控え室に誰もいないことをいいことに、ルーナは素直に気持ちを打ち明けた。
何を思ってマクシミリアンがそんなことを言ってきたのか、ルーナには分からない。
だけど、マクシミリアンに「敬語を使わなくてもいい」と言って貰えたことは、どうしようもないほど嬉しい。
まるで、気を許して貰えたような気がしてしまう。
(あ、しまった。また敬語使っちゃった)
今世で、マクシミリアンの部下として彼に接することに慣れてしまったせいか、なかなか敬語が抜けそうにない。
「……っ貴女は」
ルーナの言葉に、マクシミリアンは片手で口元を押さえて目を逸らした。
マクシミリアンの耳が赤く染まっていることに気づいてしまい、ルーナにまで伝染って顔が熱くなってくる。
(そういえば私、いつからこんなにマクシミリアンの表情を読めるようになったんだろう)
ベースが無表情だから、些細な表情の変化などわかりにくいはずなのに。
なのに、以前よりもマクシミリアンの表情が読めるようになった気がした。
(もしかして、私が読めるようになったんじゃなくて)
マクシミリアンのほうが感情豊かになったのかもしれない。
そう思いながら、ルーナは照れているマクシミリアンを見つめ続けた。
「あまり……見ないでください」
「ご、ごめんなさい!」
マクシミリアンは書類を机に置くと、椅子から立ち上がる。
これは合図だ。
専属としての仕事をはじめる、合図。
「殿下がそろそろお目覚めでしょう。行きますよ、ルーナさん」
そう告げたマクシミリアンの頬の赤みは、既に引いていた。
(耳、まだ赤いけど)
ほんのりとまだ朱に染っているマクシミリアンの耳に、ルーナの期待が勝手に募っていく。
1
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる