殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

文字の大きさ
上 下
131 / 133

131

しおりを挟む
「全くもう...お前というヤツは...」

 リヒャルトはこんな場面でも明るさを失わない我が妻のことを、まるで眩しいものでも見るかのような目で見詰めた後、

「いいだろう...マリウス、行って来い...そして必ず帰って来るんだ...」

 重々しくそう告げた。

「ありがとう、父上! それと母上も!」

 そう言ってマリウスは深々と頭を下げた。

「いいのよ。ただ、マリウス。これから援軍を送る予定だけど、南と違って北の砦は王都からかなり離れているから、到着するのに時間が掛かるわ。だからそれまでは、あなた達だけでなんとかしなきゃならない。そこんとこ良く肝に銘じておきなさい」

「心得た! それじゃ行って来ます!」

 マリウスは飛ぶように去って行った。残された二人はしばし無言だったが、やがてリヒャルトが達観したような顔で口を開いた。

「どうしよもない甘えん坊だったアイツが男を語るようになりおったか...北の砦に修行に出したのは間違いないじゃなかったってことだな...」

「そうね...子供っていつの間にか成長するもんなんだって...改めて実感させられたわ...」

 ヒルデガルトは遠い目をしながらそう呟いた。

「さて、感傷に浸るのはここまで。あなた、仕事に戻るわよ。私達の息子達を精一杯支えなきゃ」

「あぁ、分かった。我々がしっかりせんとな」

 ヒルデガルトの言葉にリヒャルトも力強く応じた。


◇◇◇


「シオン! 待たせた!」

 出発の準備を終えたマリウスは、王宮の中庭で待機してくれているシオンの元に駆け付けた。

「グオッ!」

「疲れているところ済まんが、北の砦まで大至急飛んでくれ!」

 そう言ってマリウスは、シオンのために用意した大量の肉と水を目の前に置いた。

「グオッ♪ グオッ♪」

 嬉しそうに肉を頬張り、水を飲むシオンを見詰めながらマリウスは、さっき自分で言ったことをちょっぴり後悔していた。

「あ~...その...なんだ...シオン...」

「グオッ?」

「大至急とは言ったが...スピードは控え目にな? 安全運転で行こうな?」

 そう、シオンの飛行スピードに体が付いていけず、気絶した過去を思い出して完全にビビッてしまっていたのだった。

「グオッ!」

 シオンは心得たとばかりに一つ吠えた。

「本当に頼んだぞ? スピード違反はご法度なんだからな?」

 シオンの背に跨がりながらビビり散らかしているマリウスは、懇願するようにそう言った...のだが...

「グオッ!」

 力強く羽ばたいたシオンは、矢のようなスピードで一路北の砦目指して飛び始めたのだった。

「ウソ吐きぃぃぃっ!」

 情けない悲鳴を上げたマリウスは、吹き飛ばされないよう必死にシオンの背にしがみつく羽目になった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

処理中です...