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「全くもう...お前というヤツは...」
リヒャルトはこんな場面でも明るさを失わない我が妻のことを、まるで眩しいものでも見るかのような目で見詰めた後、
「いいだろう...マリウス、行って来い...そして必ず帰って来るんだ...」
重々しくそう告げた。
「ありがとう、父上! それと母上も!」
そう言ってマリウスは深々と頭を下げた。
「いいのよ。ただ、マリウス。これから援軍を送る予定だけど、南と違って北の砦は王都からかなり離れているから、到着するのに時間が掛かるわ。だからそれまでは、あなた達だけでなんとかしなきゃならない。そこんとこ良く肝に銘じておきなさい」
「心得た! それじゃ行って来ます!」
マリウスは飛ぶように去って行った。残された二人はしばし無言だったが、やがてリヒャルトが達観したような顔で口を開いた。
「どうしよもない甘えん坊だったアイツが男を語るようになりおったか...北の砦に修行に出したのは間違いないじゃなかったってことだな...」
「そうね...子供っていつの間にか成長するもんなんだって...改めて実感させられたわ...」
ヒルデガルトは遠い目をしながらそう呟いた。
「さて、感傷に浸るのはここまで。あなた、仕事に戻るわよ。私達の息子達を精一杯支えなきゃ」
「あぁ、分かった。我々がしっかりせんとな」
ヒルデガルトの言葉にリヒャルトも力強く応じた。
◇◇◇
「シオン! 待たせた!」
出発の準備を終えたマリウスは、王宮の中庭で待機してくれているシオンの元に駆け付けた。
「グオッ!」
「疲れているところ済まんが、北の砦まで大至急飛んでくれ!」
そう言ってマリウスは、シオンのために用意した大量の肉と水を目の前に置いた。
「グオッ♪ グオッ♪」
嬉しそうに肉を頬張り、水を飲むシオンを見詰めながらマリウスは、さっき自分で言ったことをちょっぴり後悔していた。
「あ~...その...なんだ...シオン...」
「グオッ?」
「大至急とは言ったが...スピードは控え目にな? 安全運転で行こうな?」
そう、シオンの飛行スピードに体が付いていけず、気絶した過去を思い出して完全にビビッてしまっていたのだった。
「グオッ!」
シオンは心得たとばかりに一つ吠えた。
「本当に頼んだぞ? スピード違反はご法度なんだからな?」
シオンの背に跨がりながらビビり散らかしているマリウスは、懇願するようにそう言った...のだが...
「グオッ!」
力強く羽ばたいたシオンは、矢のようなスピードで一路北の砦目指して飛び始めたのだった。
「ウソ吐きぃぃぃっ!」
情けない悲鳴を上げたマリウスは、吹き飛ばされないよう必死にシオンの背にしがみつく羽目になった。
リヒャルトはこんな場面でも明るさを失わない我が妻のことを、まるで眩しいものでも見るかのような目で見詰めた後、
「いいだろう...マリウス、行って来い...そして必ず帰って来るんだ...」
重々しくそう告げた。
「ありがとう、父上! それと母上も!」
そう言ってマリウスは深々と頭を下げた。
「いいのよ。ただ、マリウス。これから援軍を送る予定だけど、南と違って北の砦は王都からかなり離れているから、到着するのに時間が掛かるわ。だからそれまでは、あなた達だけでなんとかしなきゃならない。そこんとこ良く肝に銘じておきなさい」
「心得た! それじゃ行って来ます!」
マリウスは飛ぶように去って行った。残された二人はしばし無言だったが、やがてリヒャルトが達観したような顔で口を開いた。
「どうしよもない甘えん坊だったアイツが男を語るようになりおったか...北の砦に修行に出したのは間違いないじゃなかったってことだな...」
「そうね...子供っていつの間にか成長するもんなんだって...改めて実感させられたわ...」
ヒルデガルトは遠い目をしながらそう呟いた。
「さて、感傷に浸るのはここまで。あなた、仕事に戻るわよ。私達の息子達を精一杯支えなきゃ」
「あぁ、分かった。我々がしっかりせんとな」
ヒルデガルトの言葉にリヒャルトも力強く応じた。
◇◇◇
「シオン! 待たせた!」
出発の準備を終えたマリウスは、王宮の中庭で待機してくれているシオンの元に駆け付けた。
「グオッ!」
「疲れているところ済まんが、北の砦まで大至急飛んでくれ!」
そう言ってマリウスは、シオンのために用意した大量の肉と水を目の前に置いた。
「グオッ♪ グオッ♪」
嬉しそうに肉を頬張り、水を飲むシオンを見詰めながらマリウスは、さっき自分で言ったことをちょっぴり後悔していた。
「あ~...その...なんだ...シオン...」
「グオッ?」
「大至急とは言ったが...スピードは控え目にな? 安全運転で行こうな?」
そう、シオンの飛行スピードに体が付いていけず、気絶した過去を思い出して完全にビビッてしまっていたのだった。
「グオッ!」
シオンは心得たとばかりに一つ吠えた。
「本当に頼んだぞ? スピード違反はご法度なんだからな?」
シオンの背に跨がりながらビビり散らかしているマリウスは、懇願するようにそう言った...のだが...
「グオッ!」
力強く羽ばたいたシオンは、矢のようなスピードで一路北の砦目指して飛び始めたのだった。
「ウソ吐きぃぃぃっ!」
情けない悲鳴を上げたマリウスは、吹き飛ばされないよう必死にシオンの背にしがみつく羽目になった。
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