殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 次の日、マリウスは朝食の席でやっとリリアナを捕まえることが出来た。

「リリアナ、ちょっといいか?」

「はい? なんでしょうか?」

「立太子の式典を改めて一ヶ月後に執り行うという話はもう聞いたか?」

「あぁ、はい。国王陛下から伺いました」

「そうか。それなら話が早い。俺は、まだ本調子でない兄上をフォローするため、一ヶ月後の式典までここに残る事とした。リリアナ、君はどうする? 出来れば一緒に残って兄上の側に居て貰いたいんだが?」

「う~ん...私も出来ればそうしたいところなんですが...」

 リリアナが困り顔になった。

「南の砦が心配か?」

「えぇ、まぁ...あんまり長い間留守にするのはちょっと...」

「蛮族にまたなにか動きがあったのか?」

「いえ、蛮族じゃなくて...今、南の砦の外壁には穴が開いてるんですよね...どっちかというと、そっちの方が気掛かりと言いますか...」

「あぁ、蛮族の攻撃で穴が開いたんだな...それは心配になって当然だよな...」

 マリウスは首肯した。

「あぁ、いえいえ...穴を開けたのは私なんですけどね...」

「お前かいっ!?」

 思わず突っ込みを入れたマリウスだった。

「一体全体、なにがどうなってそんな状況になったって言うんだ!?」

「それが良く覚えてないんです...」

「はぁ!? なんで!?」

 壁をぶっ壊しといて記憶が無いなんて...そんなことが有り得るのか!? マリウスは首を捻るしかなかった。

「魅了で操られていた間の私がやったことみたいなんですよね...」

「あぁ、そういうことか...」

 納得しかけたマリウスだったが、まだ分からない点が一つあった。

「記憶が無い理由は分かった。それはそれとして、外壁を破壊する理由がどこにあったんだ?」

「どうやら私の父上は、魅了でおかしくなった私を地下牢に閉じ込めようと思ったみたいなんです...」

「あぁ、なるほど...」

 その光景が目に浮かぶようだった。

「それで私はそこから逃げ出そうとしたんでしょうね...地下牢から抜け出し、最短ルートである外壁を破壊して逃げたと...」

「うん、そこがもう分からない」

 外壁は破壊して良いものじゃないし、おいそれと破壊できるものでもない。

「すいません...私も全く記憶にないので...」

「あぁ、そうだよね...もういいや...」

 マリウスはこれ以上追求することを止めた。そして改めて魅了の力の恐ろしさを再認識した。

 リリアナのような人型決戦兵器が、魅了の力で操られたら大変なことになるのだと。


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