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 同じ頃、北の砦では魔族に異変が起きていた。

「お屋形様、どうも妙ですね? 魔族共の動きが途端に鈍くなりました」

 斥候に出ていた兵士がガストンにそう報告した。

「具体的には?」

「なんと言いますか...心ここに有らずみたいな...戦う気が無いように見受けられました」

「ふむ...」

 ガストンはしばし考え込んだ。ちなみにこの時点ではまだ、ミランダがカーミラを滅したという報は当然ながら伝わっていなかった。

 なのでガストンとしては、魔族の動きがカーミラの指示に因るものなのか、それとも魔族に何らかの考えがあってのことなのか、どうにも判断が付かずに迷っていた。

 ただでさえ、まるで指揮官が不在かのように、てんでバラバラに動き回っている魔族の様子を見ると、そこになにがしかの意図が隠されているのではないかと勘繰ってしまう。

「取り敢えず警戒は続けよう。引き続き監視することも怠るな」

「分かりました」

 ガストンはとにかくミランダが戻って来るまでは、警戒の手を緩めることが出来なかった。


◇◇◇


 同時刻、南の砦では劇的な動きが確認された。

「お屋形様、蛮族共が一斉にぶっ倒れております」

 ガストンと同じように斥候から報告を受けたライリーは、首を捻ってからこう問い返した。

「ぶっ倒れた!? リリアナみたいにか?」

「はい、そんな感じに見えます」

「なるほど...」

 リリアナが目を覚ました理由は明らかだ。ミランダがカーミラを滅してくれたのだろう。それは間違い無さそうだ。

 だとすればこの蛮族共の状況は、

「カーミラの魅了の力は蛮族までも虜にするのか...」

 その事実に気付いたライリーは軽く身震いした。

「お屋形様? 如何なされました?」

 訝しんだ斥候が尋ねてきた。

「いや、なんでもない。取り敢えず、ぶっ倒れた蛮族共を片付けろ」

「分かりました」

 ライリーは遠い空の向こう、王都の方角を見詰めながらこう呟いた。

「ミランダ嬢、感謝する」


◇◇◇


 そのミランダはシオンに乗って王宮に戻って来ていた。

「マリウス殿下、お疲れ様でした」

「あぁ、ミランダ。カーミラを倒してくれて本当にありがとう」

 マリウスはボロボロになりながらも、笑顔を浮かべてミランダの労を労った。

「どういたしまして。それにしても...大変だったみたいですね...」

 ミランダは王宮の広場前の惨状を目の当たりにして、顔を顰めながらそう言った。

 広場前は沢山の衛生兵達と近衛騎士団の団員達とで溢れ返っていた。それぞれが負傷者の救護や会場の整備などに忙しく動き回っている。

「クラウド殿下は?」

「無事だ。今、医務室に運んだところだ」

「それはなによりです」
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