殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 結局、夕食の席にアマンダは現れなかった。

 恐らく爆睡しているのだろう。ちなみにガストンの姿もなかった。アマンダに蹴り上げられた股関を冷やしているのかも知れない。

 ミランダもリリアナもそのことには触れず、淡々と食事を続けていた。一人を除いては。

「おい、マリウス。しっかり食べないと持たないぞ?」

「...食欲なんかない...」

 マリウスは行儀悪く食卓に突っ伏したままだ。疲れ過ぎて胃が食物を受け付けないのだろう。

「仕方ないな。俺がア~ンしてやろうか?」

「い、いや...そ、それは絵面的に勘弁...」

「だったらちゃんと食え」

「うぅ...」

 マリウスは仕方なしにまずはあっさりとしたスープからゆっくりと口に運んだ。

 そんなマリウスを尻目に食欲旺盛なリリアナは、

「お代わり頂戴」

 既に三皿目のステーキにかぶり付いていた。

「アンタ、相変わらず良く食うわね...その細い体のどこに入ってんのよ...」

 ミランダは呆れながらそう言った。

「だってステーキは別腹って良く言うじゃない?」

「そんなの聞いたことねぇよ...」

 ミランダは思わず素で突っ込んでいた。

「リリアナ、それを言うならスイーツは別腹じゃないかな?」

 クラウドがそう言って苦笑した。

「そうだっけ? まぁどっちでもいいじゃん」

「いいのかよ...」

 ミランダは色々と突っ込むのを諦めた。

「あ、そうだ。ミランダ、ちょっと聞いておきたいことがあったんだ」

 クラウドが唐突に話題を変えた。

「なんですか?」

「魔王って空を飛べるのに、どうして空からこの砦を攻撃しないんだ?」

「あぁ、それは私が空に結界を張ってるからです」

「結界? ミランダの魔力で?」

「いえ、私が精霊達にお願いして手を貸して貰っているんです。私の魔力だけじゃ足りませんので」

「そうなんだ~ 凄いね~」

 クラウドは素直に感心した。

「ちなみに地上には深い壕を掘ってそこに水を流し込んであります。そう簡単にこの砦は落ちませんよ」

「へぇ~ 私泳げないから落ちないようにしないと。あ、ステーキお代わりね」

 リリアナは呑気にそう言った。

「まだ食うんかい...」

 ミランダはつい突っ込んでしまった。

「ご馳走様...」

 そんなリリアナを尻目に、マリウスはそそくさと食事を終え食堂を後にした。

「全く...ほとんど手を付けてないじゃないか...」

 クラウドはマリウスの残した料理を見ながら頭を振った。

「クラウド殿下、後でサンドイッチとかの軽食を用意させておきますから。マリウス殿下に持ってってあげて下さいな」

「気を遣って貰って申し訳ない...」

 クラウドは恐縮しきりだ。

「ステーキお代わり~」

 リリアナはマイペースのままだった。

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